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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(3)久しぶりの対面

 せっかくアレクの屋敷まで足を延ばしたということで、その日は一泊していくことになった。

 次の日は、フローリア、シルヴィアと共に王都の散策だ。

 基本的には商店を覗いたり、屋台の冷やかしくらいしかすることはないが、それでも十分に楽しむことが出来た。

 一度、アレクの屋敷に戻った考助たちは、その日は塔の管理層に戻ろうと考えていたのだが、予想外のことが起こっていた。

 なんと、まだかかると思われていたマクシム国王からの返答が来ていたのだ。

「・・・・・・いや、あり得ないだろう?」

 通常では考えられないほどの対応の早さに、考助の隣でフローリアが驚いてた。

 返答が来ていることを考助たちに告げたアレクも、フローリアの言葉に苦笑している。

「いや、普通だとそうなんだがな。どうやら、私からの手紙ということで、優先的に処理したらしい」

 それだけならまだ、麗しい兄弟愛(?)ということで片付いたのだろうが、手紙を見て驚いたのがマクシム国王だ。

 そこには、今ちょうどマクシム国王の姪に当たるフローリアが王都に滞在中で見舞いを希望していること、しかも可能であれば一緒に考助が行くということも添えられていた。

 それに驚いたのは、何度か直接考助と対面しているマクシム国王だ。

 まさか、自分の見舞いに現人神とはいえ、神が来てくれるなんてことは考えてもいなかったのである。

 

 考助たちの予想に反して、マクシム国王の決断は早かった。

 さすがに警備の問題があるのでその日のうちにというわけにはいかないが、手紙を出した翌々日には面会の体制が整うと書かれている。

 すなわち、明後日にはマクシム国王との対面が叶うというわけだ。

 とんとん拍子に話が決まってしまったことに苦笑している考助たちに、アレクが確認するように言ってきた。

「それで? どうするんだ?」

「どうって、それは勿論行くが?」

 当然だろうといいたげなフローリアに、アレクは右手を左右に振った。

「ああ、いやいや。そっちではなく、今晩と明日は泊まって行くのか?」

 期待するような顔になっているアレクに、フローリアは苦笑しながら考助を見た。

 そのフローリアからの視線を受けて、考助は小さく頷いた。

 二日もあるのであれば、一度塔の管理層に戻ってもいいのだが、アレクが望むのであればこちらに泊まってもいいという返答であった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 マクシム国王との面会で登城するまでは、考助たちはのんびりと過ごしていた。

 フローリアを親子水入らずで過ごさせるために、考助とシルヴィアが離れて行動したり、初日では行き切れなかった場所を巡ったりと色々なことをしていた。

 そして、いよいよ当日になったその日は、考助たちはいつもの格好で城に向かった。

 正装をした上で対面したほうが良いのかという考助の提案に、アレクたちが首を振ったのだ。

 今回の面会は、あくまでも「私的な」訪問であって、文官たちに囲まれながら会うわけではない。

 そもそも考助は、現人神として正式に名乗りを上げて訪問するわけではないので、むしろ必要ないと言われてしまった。

 その辺りの細かい規則などは、考助は門外漢なので、フローリアやアレクに任せることにした。

 ちなみに、シルヴィアはいつも通りの巫女服なので、こちらも普段通りである。

 

 

 というわけで王城に上がった考助たちは、当然というべきか、いきなりマクシム国王と対面とはいかなかった。

 一度別部屋に通されて、時間まで待たされることになったのだ。

 これは、ある意味当たり前の手順なので、考助たちは気にしていなかった。

 驚いたのは、考助たちが時間が来るまで待っていた間に、思いもしなかった人物が現れたことだ。

 

 考助たちが待っている部屋のドアが開いて姿を現したその人物とは、次代の国王に内定しているレオナルド王太子だったのだ。

「お待たせしまして申し訳ありません」

 しかも、いきなりそう言って考助に頭を下げたことから、きちんと事情も知っていることを察せられた。

 年を考えれば若く見えるレオナルドに、考助は懐かしさを感じつつ首を左右に振った。

「いえ。お気になさらずに。こちらが無理を言っているのですから。それよりも、お元気そうで何よりです」

「ハハ。ありがとうございます。これで父が元気であれば、なお良かったのですがね」

 多少顔を陰らせてそう言ったレオナルドを見て、考助たちはお互いに顔を見合わせた。

 わざわざレオナルドからそう言うということは、あまり良い状態ではないと言っているようなものだ。

 

 考助たちの様子にレオナルドは、頷きながら続けた。

「まあ、父については、これから分かるでしょう。とりあえずは行きましょうか」

「え? 一緒に?」

 思わず考助がそう言ってしまったが、レオナルドはすぐに同意して来た。

「ええ。そのほうが早いですからね」

 マクシム国王の名代として忙しくしているはずのレオナルドが、わざわざ顔を見せたのは、考助たちを直接マクシム国王のところへ案内するためだった。

 そのほうが、手続き的にも時間を取られなくても済むのだ。

 

 

 これほど早く対面することが出来た理由の一端をここで知ることになった考助たちは、レオナルドに導かれるままに、王城の奥へと進んで行った。

 言うまでもなくその場所は、王が普段生活している場所になるので、通常は限られた者たちしか来ることができない。

 過去のフローリアでさえ、来たことがない場所なのだ。

 王城の中でも他と比べることが出来ないほどの豪華な彫刻が施されたドアを開けて進めば、そこがマクシム国王がいるはずの部屋だった。

 

 先導していたレオナルドは気付いていなかったが、部屋に入った瞬間、シルヴィアが意味ありげな視線を向けて来たことに考助は気付いた。

 これから対面することになるマクシム国王に意識が行っているフローリアでさえ、気が付いていない。

 恐らくシルヴィアの変化に気付いたのは、その本人と考助、それに一緒に着いて来ていたコウヒだけだろう。

 だが、考助とコウヒは、シルヴィアの様子に気付きながらも何も言わずに、レオナルドやフローリアの後に着いて行った。

 ここで不用意な発言をしては駄目だということは、言われなくともわかっていたからだ。

 

 一行は、表面上は何事もなかったかのように広めの部屋を進んで行き、さらに奥にあるベッドがある部屋に入った。

 そして、そこには当然のように、考助たちの到着を待ちわびるように半身を起こした状態で、マクシム国王が待っていた。

「マクシム伯父・・・・・・いえ、国王!」

 フローリアにとっては国王というよりも、伯父という意識のほうが強いのか、思わずそちらで呼びかけたのを訂正した。

「ハハハ。フローリア、別に其方の場合は伯父でも構わないのだよ?」

 マクシムは、緩く笑いながらフローリアに言って、すぐに考助へと視線を向けた。

「現人神。このような姿勢で対面することをお許しください」

「いえ。お気になさらずに。貴方の体調は、見ればわかります。むしろきちんと寝ていたほうがよろしいのでは?」

 マクシムの顔色は、思わず考助がそう申し出るほど、良くなかった。

 

 だが、その考助の言葉に対して、マクシムはもう一度笑みを見せて首を左右に振った。

「いえいえ。今日は本当に体調が良いのですよ。これも、懐かしい方々が来てくれたからでしょう」

 マクシムの言葉がお世辞ではないことは、傍にいるレオナルドを見ればすぐにわかった。

 何故ならレオナルドは、マクシムの言葉に大きく頷いていたからだ。

 それでもどう見てもマクシムの体調は、通常と比べてかなり悪いことは素人の考助にもわかった。

 これは、早々に退散したほうが良いだろうと、考助は密かに胸のうちで考えるのであった。

マクシムの体調はかなり悪いです。

素人の考助が一目で分かるほどに。

それでも考助たちの訪問を歓迎してくれたマクシムは、流石といえるでしょうね。

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