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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(10)新たな力?

 百合之神宮の現在は、多くの聖職者たちが訪ねる場所になっている。

 それは、現人神の本殿があることもそうだが、三大神を祀った神社がひとつずつ建っていることにも由来している。

 まさしくセントラル大陸の信仰を象徴する場所であるだけに、大陸中から聖職者が集まってきているのだ。

 中には大陸外からも訪ねてくる聖職者がいるほどなので、どれほど聖職者の間に伝わっていることが分かるだろう。

 とはいえ、百合之神宮がある階層に人が集まるようになった要因は、四つの主要な神社があるからだけではない。

 神社を含めた百合之神宮全体が、人懐っこい狐たちが出現する場所として、特に女性冒険者に人気の場所となっている。

 狐が現人神の守護獣であると中央の神社から発表されてからは、特に人気が出ていた。

 本来であれば、女性冒険者たちにとっては、狐は討伐の対象でしかないのだが、百合之神宮に限っていえば癒しの存在となっているのである。

 

 そんな百合之神宮の一角である百合之神社に、考助はシルヴィアと一緒に久しぶりに顔を出していた。

 目的としては百合之神宮全体の様子を聞くためという名目はあるが、単純に観光がてら様子を見ようと考えたのだ。

 だが、考助が転移門を通って百合之神宮に姿を現すと、珍しくその場でユリに呼び止められた。

「いらっしゃいませ、考助様。いま、お時間はよろしいでしょうか?」

 ユリから話しかけてくることなど滅多にないので、考助は若干驚きながら頷いた。

「うん。いいけれど・・・・・・。なにかあった?」

「大したことではないのですが、一応報告しておいた方がいいと思いまして・・・・・・」

「うん? まあ、とりあえず、わかったから場所を変えようか」

 なにやら奥歯に物が挟まったような言い方をしてきたユリに、考助は首を傾げながらも頷いて、場所を変えるように提案した。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 百合之神社の転移門がある部屋は、立ち話をするのには向かないので、考助たちは参拝客に見つからないようにして移動した。

 百合之神社を含めた百合之神宮全体は、ユリの影響下にあるので、どこをどう進めば人目に付かないかなど、すぐにわかる。

 ここで考助が見つかれば、どんな騒ぎになるか分かったものではないので、ありがたくユリの能力を利用して動いたというわけだ。

 

 ユリの案内に従って部屋のひとつに入った考助は、出された座布団の上に座るなり問いかけた。

「それで? 報告ってなに?」

「はい。この辺り一帯に人が多く入ってくるようになって、どうやら『気』の質が変わったようです」

「うん? ・・・・・・キ?」

 耳慣れない言葉を聞いた考助は、目をパチクリとさせながら首を傾げた。

 念のためシルヴィアを見てみたが、同じように不思議に思ったのか、首を左右に振っていた。

 

 考助とシルヴィアのやり取りを見て、説明が足りないと考えたユリが、なんとか説明しようと口を開いた。

「気のことは、言葉で説明するのが難しいのですが・・・・・・。考助様が魔力とか神力とか言っている力と似たような物、と言っていいでしょうか」

 なんとも曖昧な言い方になっているが、こればかりは適当な言葉が無いのでユリとも説明がしづらい。

 気のことはあくまでもユリの感覚上のものなので、具体的に何と言われても答えるのが難しいのだ。

 

 考助とシルヴィアもそのことが分かっているので、それ以上はユリには聞かなかった。

 何となく、ユリの力になっているものという認識を持つことにした。

「うーん。まあ、何となくわかったからそれ以上は無理に考えなくてもいいよ。それよりも、その力は悪い影響はないんだよね?」

 考助にとって重要なのは、あくまでもユリに対する影響なので、今は未知の力のことに関しては考えない。

 その考助に、ユリも最初から完ぺきに説明をすることは諦めていたのか、それ以上はなにも言ってこなかった。

「それも実は曖昧なのです。というのも、そのときの人々の感情に左右されるものなので・・・・・・。あ、今は悪い感情は多くはないので、心配いりません」

 代わりにユリは、後半の問いかけについて答えながら、微妙な顔になった。

 

 要するにユリがいう「気」の力というのは、人の感情から作られるものなので、良い感情と悪い感情のそれぞれの方向性を持った性質の力が増えることになる。

 どちらも人の持つ感情のために、それに良い悪いはないのだが、それでもやはり百合之神宮内で悪感情が増えてくれば、あまり良い影響があるとは言えない。

 神社に呪いの言葉のような悪感情をもたらす者は少ないとはいえ、まったくないと断言できないところが困りものなのだ。

 

 ユリの言っている意味が理解できた考助は、戸惑った顔でシルヴィアを見た。

 神宮に来る人々の感情をどうにかしなければと言われても、どう対処していいのかなんて分かるわけがない。

 ・・・・・・と、考助は考えていたのだが、なぜかシルヴィアは納得の顔になっていた。

「シルヴィア?」

「あ、はい。すみません。これは神殿などに限った話ではないのですが、神そのものや、神が祀られている建物で、悪い言葉を吐いてはいけないという話があります。それは、恐らくそうした力のことがあるからではないでしょうか?」

 シルヴィアのその説明に、考助は感心したような顔になった。

「へー。そうだったんだ。まあ、でも言われてみれば、神社でわざわざ変な言葉を言ったりする人はいないか」

 実際には、考助の知る限りでは、神社でその変なことをする存在もいることは知っているが、敢えてそのことは言わなかった。

 考助は、アースガルドの世界に、変な風習を持ち込むつもりはないのである。

 

 シルヴィアは、考助の言葉に頷いた。

「はい。だからこそ、神殿内では戦いなどご法度とされているのですが・・・・・・。やはり中には乱暴な者もいますからね」

「あー、それはまあ仕方ないと言えば仕方ないのかな?」

 人は多く集まれば集まるほど、小さなものから大きなものまで争いを起こす存在なのだ。

 そうした喧嘩などで発してきた「気」も、あまり良い力とは言えないので、特別なことが無い限り、神殿(神社)内では争い事は厳禁となっている。

 とはいえ、いくら口で言っても些細なことから喧嘩などは起こってしまうもの。

 だからこそ、神殿を管理している神職は、そのたびに苦労することになるのだ。

 

 とはいえ、さすがに通常の参拝者よりも、そうした喧嘩沙汰が多くなることはまずないので、神殿や神社が穢れるようなことはほとんど起こらないのだ。

 これは、シルヴィアなどの聖職者が経験的に知っているというだけではなく、その話を聞いたユリが同意していた。

「なるほどね。ということは、百合之神宮内では、喧嘩や争い事はご法度ということを周知すれば大丈夫かな?」

「はい。ただ、さすがに建物の中だけではなく、神宮内全体だとは考えていないと思いますので、まずは巫女たちに知らせた方がいいと思います」

「ああ、なるほどね。じゃあ、まずはそこから話をしようか」

 考助はそう言って、それで大丈夫かとユリに確認を取った。

 

 結局ユリからも大丈夫だとお墨付きを得たので、考助はいきなり神社で働く巫女に話をしようとはせず、まずはココロへと話をした。

 建前上は、聖職者の間には身分のようなものはないとされているが、組織というものが発生する以上は、上下関係は出てくる。

 少なくとも百合之神宮に関しては、ココロが責任者ということになっているので、考助が直接ものを言うのは彼女が一番適任なのだ。

 こうした関係が面倒この上ないのだが、こればかりは仕方のないことだと、考助も既に諦めているのであった。

考助のいう「変な風習」というのは、わざと具体的には書いていません。

言霊という言葉あるのが日本語ですから、敢えて書かない方がいいと思われます。

皆様は、脳内で何のことかを考えていただければ幸いですw


(・・・・・・神社内で行われる変な風習とは何か?)



※この話の投稿日が三月三日になったのはただの偶然です。狙ったわけではありませんw

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