(10)畑の問題解決(先送り?)
新拠点の事実が次々に明らかになって行ったからと言って、考助たちの生活が変わったわけではない。
考助とシルヴィアは、相変わらず畑の管理に精を出している。
少しだけ変わったことがあるとすれば、フローリアが同じように畑に手を出し始めたといったところだろうか。
といっても、フローリアが管理しているのは、考助の食用の植物やシルヴィアの薬草類ではなく、完全に観賞用の植物を扱っている。
植物の成長にとっては最高の環境が揃っているこの場所で、花を育てたらどうなるかと考えたのが始まりだった。
「それで? 結局どうだったの?」
「あのな。いくらなんでもそんなすぐに結果が出るはずが無かろう? 観賞用の植物はほとんどが季節に左右されるのだぞ?」
急かすような考助の問いかけに、フローリアが呆れたように首を左右に振った。
ただ、考助にしても、そんなことは分かっている。
聞きたかったのは、そんな常識的な回答ではなかったのだ。
「いや、どうせ非常識な場所になっているんだから、花とかも季節に左右されずに咲いたりしないかなと期待したんだけれどね」
当然のようにそう言ってきた考助に、フローリアは不覚にも即答できなかった。
たしかにこの場所ならあり得るかもしれないと一瞬でも思ってしまったのが敗因だ。
考助の思考に流されそうになったフローリアだったが、話を聞いていたシルヴィアによって現実に引き戻された。
「いくらなんでも、気温や天候までは制御されていないのですから、そこまで期待するのは駄目なのでは?」
そもそも新拠点に移ってからかなりの時間が経っているが、季節の移り変わりは周辺環境と何ら変わりがないのである。
「そ、そうだ! そんなことはあり得ないだろう!」
「いや、まあ、そうなんだけれどねえ」
慌ててシルヴィアの言葉に乗っかったフローリアに、考助はそう返しながら残念そうに肩をすくめた。
実際のところは、考助がエリスあたりに頼めば、この辺り一帯を常春とか常夏の季節に限定するといったこともできそうだが、そんなことを言うつもりはない。
塔の設定でもできるのだから、エリスたちにできないはずがないのだ。
とはいえ、そんなことをするよりは、各季節が楽しめる今のほうが考助の好みだったりする。
案外、エリスたちが申し出てこなかったのは、考助のその好みを知っているためということもありえる。
とにかく、農業に関しては、季節に左右されながらなんとかやりくりをしていくのが重要だというのが、考助の考えなのだ。
そんな考助の考えはともかく、シルヴィアやフローリアも同じような考えを持っている。
確かに神の力で思い通りの季節にしてしまえば簡単だが、そんなことをして植物を育てても何の意味もない。
もっとも、こんな考えは生活の糧のために育てているわけではない、あくまでも趣味の範囲内だからこそ言えることなのだろう。
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本格的に農業をやっている皆様にとっては、いささか不謹慎(?)なことを考えていた考助たちは、フローリアの管理する畑に来ていた。
「あー、やっぱり土に関しては、ほかと同じようになっているね」
「それはそうだろう。その辺りはスライムに任せたからな」
フローリアがやったことといえば、ある程度の範囲を指定して、あとはスライム任せにしただけだ。
同じような結果になるのは、ある意味当然である。
フローリアの答えに頷いていた考助は、しゃがみ込んで土を触り始めた。
「・・・・・・なにか問題でもあるのか?」
考助のその行動の意味がわからずに、フローリアは首を傾げながらそう問いかけた。
「うーん。確かにスライムが作った土は凄いんだけれど、それだけでいいのかなって、思ってね」
当たり前のことだが、この世界にも様々な植物がある。
ただ単に土と言っても、それぞれの植物に相応しいものがあってもおかしくはないのではないか、ということが考助の疑問だった。
考助の疑問に納得の表情を浮かべたフローリアだったが、すぐに首を左右に振った。
「確かにそれはそうだが、そこまで行くと、ど素人の私たちには管理するのが難しいのではないか?」
「それもそうだなあ」
今更土の専門家になるつもりがない考助は、フローリアの答えに頷いた。
時間のことをあまり考えなくて良くなった考助たちは、土についても学ぼうと思えば、いくらでも学べるだろう。
問題は、その気になるかどうかだけなのだが、そこまでする気にはなれないというのが、いまの考助の正確な心情だった。
もうひとつ言えば、土の専門家は既にいるのだから、別に自分がやらなくてもいいやということでもある。
ちなみに、その専門家というのは大地母神として名高いクラーラだったりするので、そもそもの基準がおかしかったりする。
このように、考助がその気になって動けば、いくらでも最高の環境を得ることはできるが、敢えてしていないのはそれこそ趣味の範囲内でしかないためである。
「自分の力だけでいろいろと試してみるのは面白そうな気もするけれど、今となってはなあ」
自分自身が現人神という身になっていることは、そろそろ自覚が出てきている考助だ。
そのため、そのことがどんな風に左右するかわからない状況では、下手に環境を大きく変えるようなことには自らは手を出したくないというの思いもある。
ただし、そんな考助を見て、フローリアが苦笑を返した。
「いや、今更だと思うぞ?」
「うぐっ!?」
「そうですね。今さらですね」
「シルヴィアまで!?」
まさかのシルヴィアの裏切り(?)に、考助は目を見開いて、わざとらしくその場に崩れ落ちた。
そのうえ目元をぬぐう仕草まで入れていて、完全にお遊びでやっているのだ。
シルヴィアとフローリアも一見してそのことがわかったので、一瞬だけ顔を見合わせて、揃って考助の肩に手を置いた。
「その辺にしておけ。時間の無駄だぞ」
「そうですね」
なんとも容赦のないふたりの言葉だったが、考助はすっくと立ちあがって、
「それもそうだね。そんなことを今更言っても仕方ないや」
気にした様子もなく畑を見回した。
これから先、畑をどうするかは具体的には決めていないが、そもそもこれ以上の拡張をするかどうかもわからない。
なにせ、最初にできる限りの土地を耕してしまったので、増やすとなると結界の見直しをしなくてはならない。
それに、いくらスライムがいるとはいえ、そこまでしてしまっては、多くの時間が取られてしまい、趣味という範囲を超えてしまう。
あくまでも息抜きのつもりでやっているので、考助自身はそこまでするつもりはかけらもないのである。
ただし、それはあくまでも考助は、であってシルヴィアとフローリアはどうかわからない。
「これ以上増やすつもりなら、結界の増強をするけれど、どうする?」
「いえ、私は必要ありません」
「私もだな。これ以上は、ほかに影響が出る」
シルヴィアとフローリアがそう言ったことで、当分の間は畑の拡張はしないことになった。
あるいは、残りの三人(シュレイン、コレット、ピーチ)が欲しがるかもしれないが、そのときになって拡張すればいいだけである。
結果として、新拠点周辺での畑に関する騒動(?)は、当分の間は落ち着くことが確定したのであった。
新拠点の畑について、今までいろいろとフラグっぽいことを立ててきましたが、結局現状維持になりましたw
本文中でさんざん書きましたが、本筋から外れすぎてしまいますからね。
やっぱり考助が本領発揮できるのは、魔道具作りというわけです。
(次が魔道具作りとは限りませんw)




