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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(6)いろんな系統

 レンカに送った子狼が、物に当たって発散するという行動は、狩りをすることによって収まったようだった。

 落ち着きのない態度は無くなり、今は元気に懐いてきているという手紙を見て、考助はホッとため息をついた。

 それを傍で見ていたフローリアが話しかけて来た。

「どうやら無事に収まったようだな」

 フローリアが、手紙を読んでいる考助の傍にいたのは、偶然ではない。

 たまたま管理層に居て手紙を受け取ったフローリアが、新拠点まで持ってきたのだ。

「うん。それに、子狼たちだけではなくて、成体の狼も気分が落ち着いているみたいだね」

 考助は、フローリアにそう言いながら、もう一度手紙に目を通し始めた。

 

 レンカに与えた眷属たちは、良い環境を得て、しっかりと育っているようである。

 今後のことを考えれば、彼らがどのように変わって行くのか、怖くもあり楽しみでもある。

 彼らは、レンカの影響を多大に受けて、他の眷属とは違った成長をしていくのだろうと考助は考えている。

 それが、どんな変化なのか、あるいはまったく変化をしないのか、それも今はまだわからない。

 

 何となく考え込むような顔になった考助を見て、フローリアが問いかけて来た。

「コウスケは、これからも眷属を誰かに渡していくのか?」

「・・・・・・うーん。どうしようか? 実は今回だって、予想外の出来事だったからね。きちんと決めているわけではないよ」

 たまたま行った先にレンカがいて、彼女の適性が高かったためにいつもの気紛れを起こしただけなのだ。

 それに、レンカ自身が高い身分の子供に見えたので、よほどのことが無い限りはおかしな扱いを受けないだろうということも頭の片隅にはあった。

 勢いで渡したところはあるが、一応そういったことも考慮したうえで、レンカに譲ることを決めたのだ。

 

 そのことを考えれば、今後同じような条件を持った人物が、考助の前に現れるかどうかは分からない。

 それでも、もしかしてという可能性を考えれば、なかなか面白いことが出来るのではないかと考えていた。

「もし、狼の眷属で、いろいろな系統が派生して行ったら面白いと思わない?」

「系統? どういうことだ?」

 考助の言ったことがわからずに、フローリアは首を傾げた。

 

 考助が考えているのはこういうことだ。

 いま、レンカの元には狼の眷属がいる。

 彼らに子供ができれば、考助は喜んでその子供たちに合う狼を譲るだろう。

 早い話が、レンカをブリーダー代わりにしようというわけだ。

 さらに、そのブリーダーをレンカだけではなく、複数用意すれば、その分だけの狼の系統ができるというわけだ。

 勿論、必ずしも違った系統の狼ができるというわけではないだろう。

 だが、もしそれぞれのブリーダーで違った系統の狼ができていくと考えれば・・・・・・考助が言った通り、中々面白いことが起きるかもしれない。

 いわば、自ら育てて狼の進化を見極めるのではなく、別の存在を使って狼の派生を見守るということだ。

 

 考助の遠大な(?)計画を聞いたフローリアは、感心したように聞き入っていた。

「・・・・・・なるほど。神という寿命に縛られない存在だからこそできる方法だな」

 いま考助が語った方法は、それこそ何世代もの狼をたどって行かなければ、確立できない方法だ。

 まさしく、フローリアが言った通りに、現人神という立場だからこそ確認できるのである。

「まあ、それはそうなんだけれどね」

 すでに自分も神としての思考で物事を考えるようになっているのかと思うとどこか不思議な気分にはなるが、いまはまず試してみたいと思う気持ちの方が大きい。

 フローリアの言葉に頷きながらも、考助はそのことを考えると嫌な気分にはならないのだ。

 

 考助は、随分と神らしくなったのかなと考えつつも、すぐにそれを脳内で否定した。

 確かに寿命を考えずに、長い計画を立てるところはそれらしいと言えるが、それ以外はとてもではないがそんな感じはしていないのだ。

「まあ、そもそもレンカ以外に、狼と相性のいい人が出てくるとは限らないけれどね」

「それもそうだな」

 そもそも先ほどの計画には、レンカと同じような存在が出てくることという条件がある。

 そんな都合のいい存在とまた出会えるようなことがあるかどうかは、考助にもよくわかっていないのだ。

 あるいは、エリスあたりに頼めば、そういった出会いも用意してくれるかもしれないが、少なくとも今はそこまでするつもりはない。

 

 考助の言葉に頷いたフローリアは、フムと考えるように顎に手を添えた。

「考え方としては面白いが、こうして引き籠ってばかりだと、どう考えても別の系統は出来ない気がするが?」

「うっ・・・・・・」

 鋭いフローリアの指摘に、考助は言葉を詰まらせた。

 たしかに、別の系統を作るためには、新しい出会いが無ければいけない。

 ただ、こうして新拠点に引き籠っていては、見つけるべきものも見つからないだろう。

 

 考助が言葉を探しているうちに、フローリアがため息をつきながら続けた。

「気が長くなることは別に構わないと思うが、待っているだけで事が起こると考えるのは、少しばかり安易に考えすぎだと思うぞ? ・・・・・・まあ、コウスケの場合は、それで出会っているから何ともいえないのだが」

 絶賛引きこもりをしている考助のはずだが、しっかりとレンカと出会っている。

 それを考えれば、果報は寝て待てではないが、考助のことだからいずれは出会うこともあるだろう。

 だからといって、いつになるかわからない気紛れの外出を待っていれば、いつになるか分からない。

 その間に、レンカに任せた(?)系統が途切れてしまっている可能性だって、なくはないのだ。

 

 要するに、本気なのであればもう少し積極的に動けばどうか、というフローリアの提案に、考助はどうするべきかと頭を悩ませた。

「別にそれを目的に外に出るのは良いんだけれど、絶対に余計な騒動まで起こす気がする」

 実感の籠った考助の言葉に、フローリアは重々しく頷いた。

「それはまあ、そうだろうな。そもそも今回だって、もともとの目的はレンカじゃなかっただろう?」

 考助が塔の外で行動すれば、大体なにかをひっかけてくる場合が多い。

 勿論、ただの買い物だけで済むようなこともあるのだが、それはアマミヤの塔の第五層だけでのことだ。

 他の大陸で行動している場合は、大抵なにかを起こして戻ってきている。

 

 流石にそのことをフローリアに指摘されれば、考助も反論できない。

 気分的には反論したいところだが、しても無駄だということはよくわかっている。

「そうなんだけれどさ・・・・・・。やっぱり面倒ごとは避けたいよね」

「気持ちは分からなくはないが・・・・・・考助の場合は、無駄といえないか?」

「そこまで言う?」

 そう言いながらジト目で睨んできた考助に、言い過ぎたと思ったフローリアは、すまんと素直に謝った。

 考助も本気で怒っていたわけではないので、すぐにそれを受け入れた。

 

 気を取り直したフローリアは、考助に改めて向き直ってから続けた。

「いずれにせよ、今のままでは駄目だろうな。まあ、進めるかどうかはコウスケ次第だが」

 結局は考助の思い付きでしかないので、どうするか決めるのも考助の決断になる。

 今まで割と真面目に話をしていたフローリアも、結局は決定権を持っていない。

 あとは自分次第だと言ってきたフローリアに、このときの考助は、曖昧な回答をすることしかできなかったのである。

優柔不断炸裂!

・・・・・・割といつもの考助?w


たくさんのブリーダーを作るのは良いですが、そうすると考助が誰にどの狼を与えたのか、忘れることになりそうです。

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