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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(5)ストレス解消

 新拠点のリビングの床で寝転がっていた考助は、ある手紙を読みながらナナの背中をゆっくりと撫でていた。

 背中を撫でれられているナナは、気持ちよさそうに目をつぶっている。

 外見からは寝ているかどうかまでは区別がつかない。

 傍から見る限りでは目をつぶっているが、名前を呼べばすぐに反応するだろう。

 

 それはともかくとして、手紙を読み終えた考助は、むくりと起き上がって一度だけ唸った。

「クーン?」

 その考助に反応して、横で寝ていたナナが顔を上げて確認してきた。

「ああ、ゴメン。なんでもないよ。ちょっと、返事を書くだけだから」

 考助がそう言って、手紙を持った右手を上げると、ナナは再び頭を下げて目を閉じた。

 

 それを見た考助は、笑いながらもう一度だけナナを一撫でしてから立ち上がった。

 そして、今度はそれを見ていたミツキが話しかけて来た。

「もう返事を書くの? ついさっき来たばかりだと思うけれど?」

 手紙の返事をすぐに書くことは、普通に考えれば不思議なことではないが、こと考助に関しては別である。

 

 考助自身が筆不精ということもあるが、それ以前に返事を書こうとするまでにいろいろと考えて時間がかかるのだ。

 その考助がすぐに返事を書こうとしていることに、不思議に思ったのだ。

 ミツキからの問いを受けて、考助はその手紙を差し出した。

「ゆっくり考えてから書きたいのはやまやまなんだけれど、それに関しては、すぐに返した方がいいと思ってね」

 考助がそう答えて返事を書き始めるのを見てから、ミツキはその手紙に目を通し始めた。

 

 考助から渡された手紙に目を通したミツキは、納得の表情で頷いていた。

 その手紙は、狼の眷属を渡したレンカからだった。

 別にこれが初めてのレンカからの手紙ではないが、そこにはとある質問がひとつ書かれていた。

 それは、引き取った子狼たちが、最近になって妙に外に出たがるようになってきたということだ。

 さらに、その求めに応じてきちんと外には出しているのだが、どんどんとその頻度が多くなってきて落ち着きがなくなっていると。

 他の大人になっている狼は、そんなことを求めたりはしてこないので、どうすればいいのかという問いかけだった。

 

 この問いに対して、考助がどうして返事を急ごうとしているのかといえば、それはここで間違えれば、レンカ自身の身に危険が及びかねないからである。

 というのも、子狼たちが外に出たがっているのは、簡単にいえば狩りをしたがっているのだ。

 レンカに渡した狼は、考助の眷属といえど、基本的な性質は野生の(?)モンスターと同じである。

 当然、狩りに対する欲求は持っている。

 そのため、いくらきちんと餌を与えていたとしても、狩り自体を止めることは出来ない。

 もし、無理やりにでも言い聞かせようとすれば、不満が溜まって乱暴な性格になったりしかねないのである。

 これは、考助が眷属たちと長い間付き合ってきた結果わかってきたことだった。

 

 一歩間違えれば、今後に重大な影響を与えかねないので、考助は慌てて返事を書くことにしたのだ。

 その結果、いつもとは違って、余計な文面は無しにして、定期的に自由に近くの平原や森で狩りをさせるようにとの助言を書いてある。

 ついでに、一緒に与えている大人の狼は、そこらのモンスターに負けるようなことはないので、安心して放すようにとも付け加えた。

「・・・・・・これでいいかな?」

 書き上げた手紙を一度読み返した考助は、スッとミツキにいま書いたばかりの手紙を差し出した。

「悪いけれど、間違っていないか確認して」

「はいはい」

 ミツキは考助から差し出された手紙を素直に受け取って読み始めた。

 自分が書いた手紙を、わざわざ他人に読ませて確認するのかと思わなくもないが、今回ばかりは間違ったニュアンスが伝わると、大変なことになってしまう。

 だからこそ、慎重を期すためにもわざわざミツキに読んでもらったのだ。

 こうして考助によって書かれ、ミツキのチェックが入った手紙は、すぐにレンカへと送られることになるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「な、なんと!?」

 考助からの手紙を受け取って早速中を開いたレンカは、驚きの声を上げて思わずその場で立ち上がってしまった。

 すでにレンカは、旅を終えて自分の屋敷へと戻っている。

 屋敷に戻ってから子狼の様子がおかしくなっていたのだが、まさかそんな理由があるとは思っていなかった。


 驚くレンカを見て、傍仕えの女性が首を傾げながら聞いてきた。

「レンカ様、どうかされたのですか?」

「ああ、うむ。これを見てみるといいのじゃ」

 自分が口で説明するよりも手紙を見せた方が早いと判断したレンカは、傍仕えに手紙を渡した。


 そして、その手紙に目を通していた女性も、先ほどのレンカと同じように驚きの顔になっていた。

「・・・・・・これは、すぐに手配したほうがいいでしょうか?」

「ああ、そうじゃの・・・・・・いや、この場合は私が直接話をした方がいいじゃろうな。すぐに向かうことにしよう」

「かしこまりました」

 レンカがそう指示を出すと、女性は頭を下げた。

 

 

 考助からの手紙を読んだレンカが向かった先は、狼たちのために用意した小さな小屋だった。

 勿論、小さなといっても屋敷と比べて小さいという意味で、モンスターを飼うための小屋としては破格なほど大きい。

 我が儘で飼い始めた狼であるのに、わざわざこの小屋を用意したことから、レンカの両親がどれだけ溺愛しているのかよくわかる。

 実際、いきなり狼を連れ帰ったレンカを怒りもせずに笑って迎えたのだから、周囲の者たちは呆れていた。

 

 駆け込むようにして小屋に入ったレンカは、すぐに狼たちの元に向か・・・・・・おうとしたが、その前に狼に追突された。

「おう! 済まぬの、レジャ、ロジャ」

 レンカはそう言いながら、体はすっかりと成体になったが、まだまだ甘え盛りの子狼の首筋を撫でた。

 一心不乱にレンカの頬をなめているその姿は、とてもストレスを抱えているようには見えないが、考助の手紙に書かれていたことは疑っていない。

 現に、昨日の夜も小屋の中で落ち着きなくしていたという報告も受け取っていたのだ。

 

 ひとしきりレンカに甘えて落ち着いたのか、二体の子狼の攻撃(?)は落ち着いた。

 といってもまとわりついてくるのは変わらないので、二体の首筋を撫で続けながらレンカは、お目付け役の二体に視線を向けた。

「ホル、ヘル。すまなかったの。まさか、其方たちに狩りが必要だとは思っていなかったのじゃ。これから近くの森に放すから、皆の面倒を見てもらってもよいかの?」

 レンカがそう問いかけると、ホルとヘルはその言葉の意味が分かったのか、大きく尻尾を振り始めた。

 ちなみに、レンカはわかっていないが、ホルとヘルには言語理解のスキルが付いている。

 また、だからこそ考助は、お目付け役としてこの二体を預けたのだ。

 

 レンカが考助から狼を受け取ってこれまでの間、狼たちを長い時間を放したことは無かった。

 そのため、自由行動にさせてきちんと戻って来るかどうかはレンカにもわからない。

 それでも考助の手紙に書いていた通りのことをしなければ、いずれは悲しい決断をしなければならなくなる可能性がある。

 そのためにも、レンカは今晩は小屋から放して、森の中で自由にさせることを選んだ。

 もし、翌日になって戻ってこなくても、それは自分の育て方(?)が悪かったのだと思うことにしたのだ。

 

 そして翌日、レンカはドキドキしながら小屋に向かったのだが、そこでしっかりと五体の狼が行儀よく待っていたのを見て、脱力しそうになりながらも彼らを小屋の中に入れるのであった。

(狼の)ストレス解消でしたw


ちなみに、狼たちが向かった森は、屋敷の傍にある森です。

この世界でそんな近くに森があると危ないのでは、と思われそうですが、しっかりと管理された森です。

一応、モンスターはいなくて、小動物がいるくらいです。

勿論、時折モンスターが出たりするので、定期的に狩りを行っています。



♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

今後の投稿について、活動報告を上げました。

気になる方は、そちらをご覧いただければと思います。

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