(1)落ち込む考助、スライムの活躍
ここから新章……ですが、タイトルはまだ決まっていませんw
……なのですが、まだ章を変えなくてもいいかなとも考えています。
新拠点のリビングにて。
ソファで寝転がっている考助を見て、フローリアが首を傾げた。
「なにやら落ち込んでいるようだが、何があったんだ?」
フローリアからそう聞かれたシルヴィアは、苦笑しながら答えた。
「大したことではないですよ。単に、スライムの手が入った畑とコウスケさんの手だけで育てた畑では、大きな違いが出たというだけですから」
「ああ、なるほど。そういうことか」
シルヴィアの答えに、フローリアは納得の表情になった。
新拠点の畑で、わざとスライムが入らないように、考助が自分の手だけで育てている畑があった。
それが、今回きちんと実りを迎えたのだが、スライムが入っている畑と比べると明らかな差が出ていたのだ。
ちなみに、考助が育てていた畑の収穫が悪かったわけではない。
少なくとも今回畑を作るまではど素人に毛が生えた程度だったことを考えれば、十分すぎるほど実ったと言っていいだろう。
敢えて言うとすれば、スライムが入っている畑の実りが良すぎたのだ。
シルヴィアからここまでの説明を聞いたフローリアは、興味深そうな顔になった。
「ほう? どれくらい違っているのだ?」
「そうですね。・・・・・・大体五~六倍くらいでしょうか」
「・・・・・・なに!?」
シルヴィアの言葉に、フローリアは目を丸くして驚いた。
収穫量が五・六倍も違うとなると、畑の広さで換算するととんでもない違いになって来る。
もし、この話を為政者たちが聞いたなら、その秘密を求めて殺到することになるだろう。
驚いた気持ちを落ち着かせるようにため息をついたフローリアは、
「それはとんでもない数字だな。どの作物でも同じなのか?」
「ええ。そうなんです。だから、コウスケさんも落ち込んでいるのですよ」
育てた作物の一種類だけであれば、今回たまたまそうなったと言い訳もできた。
だが、植えた作物が続々と実りを迎えて、収穫をするたびに同じ結果が出てくると、そんな言い訳もできなくなっていた。
その結果が、今の考助の状態というわけだ。
その考助を見るフローリアの目は、同情に満ちていた。
「なんというか、前からわかっているが、意外すぎる特技だな」
誰の特技かはこの場でいうまでもない。
「それはそうなんですが・・・・・・。なぜ、スライムが使えると気付かなかったのでしょうね?」
「いや、そもそもスライムを農業に使おうなんて発想は、誰にも出来ないだろう? それに、そもそも野生のスライムが、同じことを出来るとは限らないだろうな」
新拠点の畑を管理しているのは、全て考助の眷属たちだ。
今のところは、それ以外のスライムは確認できていないので、この世界にいるすべてのスライムが同じことが出来るかどうかはわかっていない。
フローリアが言う通り、このことが他に知れたら常識が崩れるなんてものではない。
ただ、それほどまでに差が出るのであれば、今まで気付かなかったということも不自然だ。
例えば、管理ができずに放置してしまった畑に、たまたまスライムが入り込んで、今回のような結果になったというようなことが過去に起きていないとも限らない。
もしそれでスライムの有用性がわかっていれば、必ず人の手で利用されているはずだ。
それが無かったということは、野生のスライムには、考助の眷属スライムと違った点があると考えた方が自然なのだ。
そんなことを話していたシルヴィアとフローリアの会話に、ようやく復活した考助が混じってきた。
「ここの場合は、やっぱりスーラを起点にするべきことを教えたお陰だと思うけれどね」
「ああ、そういえばそうでしたね」
考助の言葉に、シルヴィアが納得したように頷いた。
考助は、新しい作業をするたびに、スーラに何をするべきかを教えていた。
そのスーラから、他のスライムたちに畑をきちんと管理する方法を学んだと考えるのが自然なのだ。
ただ、それだと別の疑問が出てくる。
「それは分かるのだが、だとすれば、コウスケの畑よりも収穫量が上がった理由はなぜなんだ?」
「ぐはっ・・・・・・!?」
フローリアの無慈悲な攻撃に、考助はもう一度ソファに突っ伏すことになった。
だが、フローリアの疑問は間違ったものではない。
考助に指示された通りのことをやっているはずなのに、なぜスライム管理の畑の方が収穫が上がったのかがわからないのだ。
わずかな間震えていた考助だったが、今回はすぐに復活してフローリアに自分が考えていることを説明した。
「真面目に答えるとすれば、自分と違って四六時中畑にいて、逐一管理ができていたから・・・・・・だと思うんだけれどね」
そうじゃなければ説明が出来ない、と考助は続けた。
「まあ、それが一番無難な考えといえるか」
渋々と言った様子で頷くフローリアに、シルヴィアも同じように頷いた。
それにしても収穫量が上がりすぎている気がするが、考助が言った以外に思い付くこともなかったのだ。
ただし、考助も含めて、三人揃ってその顔は優れなかった。
もっとはっきり言えば、たったそれだけのことで、そんなに収穫量が上がるなんてことがあるのかと、その顔に書いている。
しばらく三人は沈黙していたが、やがて考助は首を左右に振った。
「止めよう。ここで考えても分からないよ」
「そうですね。これから先、何度も同じことを考えるチャンスはあるでしょうから、それを見て考えましょう」
考助に同意するように、シルヴィアがそう追随した。
フローリアも同意見だったようで、言葉には出さなかったが頷いていた。
「収穫量のことはともかくとして、それだけ採れたならかなりの量になると思うのだが、どうするのだ?」
今回の畑はさほど大きくないとはいえ、それでも採れた収穫物はそれなりの量になる。
流石に管理層だけで消費できる量ではなかったのだ。
「とりあえずは、狐のお宿にでもおろそうかなと思っているよ。それでも余ったらヴァンパイアとイグリッドの宿泊地にでも出そうかな」
「そうか。まあ、それが一番無難だろうな」
何やら含みを持たせて頷くフローリアに、考助が何か言いたげな視線を向けた。
その考助の視線を受けて、フローリアは肩をすくめた。
「仕方ないだろう。私はまだ現物を見ていないが、どうせできている収穫物も良い物なんだろう?」
「まあ、そうだろうね。といっても、調理して食べたわけじゃないから、どんなものかは分からないけれど」
いくらなんでも、一目でとれた野菜を見分けられるほどの鑑定眼(?)が考助に備わっているわけではない。
出来が良いということは分かるが、普段口にしている物とどれくらいの違いがあるのかは、実際に食べてみないと分からないのだ。
その考助の言葉に合わせるように、今まで部屋にいなかったミツキが、手に何かを持って現れた。
「そう言うと思って、簡単な料理をしてみたわよ」
そう言ったミツキが手に持っていたのは、所謂ジャガイモのふかし芋だった。
ミツキは、きっちりと人数分を作っていたので、コウヒも含めて五人でわけて食べる。
「・・・・・・これは・・・・・・」
「想像はできていましたが・・・・・・これは想像以上ですね」
「これはまずいな。表にでれば、間違いなく騒ぎになるぞ」
それぞれの批評に、お互いが頷いている。
ただのふかし芋なのに、いや、だからこそなのか、素材になっている芋の美味しさが際立っている。
最後にフローリアが言った通り、関係者が目の色を変えるほどの味だった。
とはいえ、畑の広さを変えない限りは、今以上の収穫になることはない。
であれば、表に出せるほどの収穫にはならないはずだと、考助たちは結論付けた。
このときの判断を、後の考助たちは後悔することになるのだが、それはまた別の話である。
ふかし芋食べたいです。。。
それはともかくとして、畑で結果が出ました。
そこそこの手入れしかしていなかった考助に対して、スライムがきっちりと(?)結果を出していますw
まあ、そこそこでも結果を出せた考助も凄いのですが、スライムが凄すぎてそのことには気づいていません。
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現在新作「異世界で魔法を覚えて広めよう」を更新中。
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