(10)予想外の相手
南大陸の大氾濫のお陰(?)で増えた転移門の中に、考助が興味を持った行き先ができたため、早速使ってみることにした。
勿論、出る先は普通の者たちも使っている転移門なので、冒険者コウとして身を扮している。
無事に一般の冒険者として目的地に出ることが出来た考助は、早速町の散策を始めることにした。
その町は、いわば中華的な食べ物が屋台などで多く出されていることで有名なところだったのだ。
他にも似たような町はあるのだが、その町が本場だと聞けばいかざるを得ないだろう。
考助としては日帰りの散策程度にしか考えていなかったので、一緒に来ているのはコウヒとミツキ、それにナナとワンリしかいない。
気ままな食べ歩きをするつもりだったのと、他のメンバーはたまたま都合が合わなかったのだ。
まあ、それでもコウヒとミツキはいつものように一緒なので、考助はいつものように町を歩いていた。
気になる屋台を見つけては冷やかしたり、時にはお土産として買ったり。
お昼は屋台のおっちゃんから仕入れた情報で、町の住人に人気がありそうな店に入って、確かに人気が出そうだと納得したりしていた。
そんなことをしながら過ごしていた考助たちだったが、ある時騎士風の鎧を装備した男に呼び止められた。
「済まぬが、少し時間をもらってもいいだろうか?」
騎士だからといって特に威圧するでもなく、ごく自然に話しかけられて、考助は自然に足を止めた。
「何でしょうか?」
「我らが主が、其方らと話をしたいと仰っているのだ。一緒に来てもらえないだろうか?」
その台詞を聞いた考助は、内心でテンプレ来たかと思うと同時に、その割には丁寧な対応だなと首を傾げていた。
そもそも考助たちは、ごく一般的な冒険者風の格好をして歩いているので、もしあるとすればコウヒとミツキに惹かれた輩が絡んでくる事くらいしか思いつかない。
それだと、大体はいい女は俺の物的な話になるので、対応も相応のものになってくるのだ。
ところが今回はそれが無いので、不思議に思ったのだ。
ただし、勿論表向きは丁寧に対応をして、裏では実は・・・・・・ということもきちんと考えている。
騎士風の男に声を掛けられた時点で面倒ごとに巻き込まれることは分かっているが、さてどうしようかと考助は悩んだ。
ここで逃げるのは簡単だが、丁寧な対応をしている騎士たちに興味を覚えたのも確かだ。
そこで、少し悩んだ考助は、途中で悩むのを止めてまずは質問をすることにした。
「ここで断ったとして、何かあるのでしょうか?」
言外に、追っ手を出したり、暴力的な何かがあるのか、と問いかける考助に、騎士風の男は少し困った顔になった。
「・・・・・・いや、追っ手を仕掛けたりはしないだろうな。あるとすれば、私たちが主からがっかりされるだけだ」
その返答を聞いた考助は、思わず笑い出しそうになった。
主からがっかりされるという騎士の答えは、考助の想定していたものからは完全に予想外だったのだ。
何となく騎士の対応を面白いと思った考助は、彼らの話を聞いてみる気になった。
「その主の用事というのは、ここで話してもらえるのですか?」
「いや、それが、私たちも詳しく話を聞いていないのだ。ただ、一応断っておくが、そちらの美しい者たちをどうこうしろという話ではないことだけは言っておく」
連れも含めて、自分たちが怪しまれることを十分にわかっているのか、騎士はそんなことを付け加えて来た。
そして、先回りして懸念していたことのひとつを言われた考助は、少しだけ驚いた顔になった。
「そうですか。でしたらますます私たちに対する用事というのがわからないのですが・・・・・・」
そもそも考助たちは、今日、転移門を通ってこの町に来たのだ。
何かをやらかして以前から目をつけられていたとか、町に来て目立つようなことをしたわけでもない。
自分の言葉にますます困ったような顔になった騎士を見て、考助は決断を下した。
「では、貴方たちが、私たちの身の安全を保障してくれるというのであれば、同行するのは構いませんよ?」
「そうか! それはよかった! 勿論、私たちの力の及ぶ範囲であれば、安全は保障させていただく」
考助たちからすれば微妙な言い回しの回答だったが、それでもここがちょうどいい妥協点だろうと考助は納得して頷いた。
考助としても別に最初から喧嘩を売るつもりはないのだ。
というよりも、そんなことをするのであれば、さっさと拠点に逃げてしまえばいい。
それよりは、目の前にいる騎士たちの主という存在に、興味を覚えてしまったのである。
どちらかといえば、今の考助にとってはそちらの方が重要なのであった。
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考助たちは、騎士たちの案内で、その町の一番だろうと思われる宿に案内された。
てっきり地元の貴族にでも呼ばれたのかと思っていた考助は、この時点で内心で首をかしげている。
高級な宿を使う時点で、それなりの身分だというのは分かるのだが、なぜ領主なりその他の貴族の屋敷に泊まっていないのかがわからなかったのだ。
お忍びの旅行だとすると、一見して騎士だとわかる者たちを連れているのがわからない。
今のところ考助が見ている限りでは、どこかちぐはぐな感じを受けるのだ。
そんな考助の疑問を余所に、騎士たちが言っている主との対面の手筈は整っていった。
考助たちが案内されたのは、宿にある部屋のひとつで、さすがに高級宿らしく会議室のような部屋であった。
その部屋の椅子に座って待つこと十分ほどで、目的の人物が現れた。
「わざわざ来てもらって済まぬな! 我が直接動くと目立つからの、それよりはそなたたちから来てもらったほうが良いと思ったのじゃ!」
晴れ晴れとした笑顔で言ってきたその人物は、完全に考助の予想を超えていた。
この時考助は気付いていなかったが、実はコウヒとミツキもわずかに驚きを示していた。
この場にいる考助以外の誰も気づいていなかったが、これはかなり稀有なことだ。
考助たちに、密かに珍しい体験をさせたその人物は、誰がどう見ても少女というにふさわしい年齢の子供だったのだ。
見た目小学生後半から中学生くらいだと考えた考助の判断は正しかったらしく、名乗りの段階で失礼だと思いつつ聞いた年齢は、十二才だと返ってきた。
そんな年の子供が一体何をやっているのだと考助などは思ってしまった。
それが思いっきり顔に出てしまっていたので、レンカと名乗ったその少女は、子供らしくない顔になって首を傾げた。
「其方たちは、この町に来たばかりなのか?」
「はい。つい今朝がた転移門を使ってきました」
「なんと! ということは、其方たちは、セントラル大陸から来たのか!?」
なぜ少女が驚いているのか分からなかったが、素直に考助は頷いた。
「どうじゃ、オイゲン! 我の観察眼も馬鹿にしたものではないじゃろう?」
レンカは、騎士のひとりを見て、なぜか小さな胸を張った。
それを受けて、騎士のひとりが苦笑をしていた。
ますます意味が分からなくなった考助たちだったが、想像していた相手とは完全に違っていたレンカ一行に、なんとなく好意的な感情を持つこととなる。
少なくとも、宿に来るまでに抱いていた負の感情は、レンカの登場によって吹き飛んでしまっていた。
もしこれが、計算されたうえでのことなのであれば、何とも末恐ろしい子供だと、それはそれで会った甲斐があったのだと思える相手なのである。
ここにきて、少女(幼女?)登場!
しかも、「のじゃ」少女です。
・・・・・・果たして、この話の読者に需要はあるのか?
口調が決まってから、完全にレンカが暴走し始めておりますw
数話で終わらせるつもりで書き始めたこの話ですが、果たして終わるのか?w
※完全に塔の外での活動なのでタイトルとは合わないかもしれませんが、わざわざ新しい章にするほどの話数にはならない(はず)ので、敢えて続きとさせていただきます。
 




