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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第12部 第1章 引っ越し
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(9)健康のススメ

「明るいな・・・・・・」

 夜の第五層の街を歩いていた考助は、驚いたように呟いた。

 その明るさは、月や星の灯りだけではなく、人々が住む住宅から漏れている光でもたらされていたのだ。

「そんなに驚くことかしら? 管理層だって、夜は光が灯っているでしょう?」

 隣を歩いているコレットが首を傾げながらそう言ってきた。

 コレットとは反対側を歩いているピーチも、同意するように頷いていた。

 

 コレットが言う通り、管理層はまるで室内灯のように、夜も灯りをつけることが出来る。

 ただし、それはあくまでも魔法、魔道具の光であって、昼間の太陽による光ではない。

 そして、いま考助が見ている光も、そうした自然の光ではなく、魔道具によって作られているものなのだ。

 それを考えれば、コレットの言う通り、驚くほどのことではないのだろう。

 ただ、考助としては、まさかこの世界で以前の世界と同じような光景を目にすることになるとは、という思いが湧いてきていた。

 いま考助たちが歩いている場所は所謂いわゆる高級住宅街であり、クラウンが作った魔力供給施設によりもたらされている魔力を使って、魔道具により光を灯している。

 それはまるで、電力によって家々が光を灯しているようだった。

 

 そのような感慨を言葉にするのは難しかった考助は、

「ああ、そういえばそうだね。でも、管理層以外ではこんな光景は見られなかったから、つい」

「そう言われてみれば、そうですね~」

 魔力供給施設による魔力の提供が無かった頃は、たとえ高級住宅街であっても夜中まで灯りを灯している家は少なかった。

 それは、魔道具の維持に相当な金額がかかるからで、基本的には夜にはほとんどの家の灯りは消えていることが普通だった。

 今のように、多くの家で灯りが灯っているなんてことは、考えられなかったのだ。

 

 もっとも、いま考助が見ている光景は高級住宅街に限ったことで、それ以外の住宅街では未だに夜に魔道具の灯りが灯っているところはほとんどない。

 それは、まだまだ灯りを灯す魔道具の普及が進んでいないことと、魔力供給施設から提供されている魔力の料金が高めに設定されているためだ。

 この辺りはまだまだ改善の余地があるとはいえ、目の前の光景を見る限りでは、ラゼクアマミヤとクラウンによる政策の実行は、順調に進んでいると言っていいだろう。

 

 家々から漏れてくる光を感慨深げに見ながら、考助はゆっくりと街の中を歩いていた。

 そもそも考助がなぜこんな時間にこんなところを歩いているのかといえば、子供たちの様子を見に来た考助だったが、すでにどの子供も深い眠りについており、落胆していたところにコレットとピーチからの誘いがあったのだ。

 そこで家にはコウヒを残してきて、ミツキを加えて夜の街の散策と洒落込むことにしたのである。

 それで発見したのが先ほどの光景。

 何気に自分が開発&助言をしたものが、人々の生活に役立っているようで、流石の(?)考助も多少は誇らしげに思えた。

 

 そんな考助の心情を見抜いているのか、コレットとピーチは特になにも言わずにただ一緒に着いて来ていた。

 そして、歩いていた道の先に広場があったので、そこで少し休むことにした。

「こうやって歩いてみると、いろいろと新しい発見があるね」

「そうね。でも新しい発見ではなくて、コウスケが来なかった間に、変わったこともあるんじゃない?」

 考助がこうやって第五層の街をゆっくり歩くことはほとんどない。

 ましてや、夜の街を歩くことなどこれまでなかったので、どれもが新しい発見に見えるのだ。

「折角新しい家が出来たのですから、コウスケさんもたまにはこうやって歩いたらどうですか~?」

「ああ、うん。それもそうだね」

 コレットとピーチの言葉に同意しつつ、考助は別のことを考えていた。

 ひょっとしなくても二人が考助を外に連れ出したのは、このことが言いたかったのではないかと。

 予想が外れていたら恥ずかしいことになるので口には出さなかったが、なんとなく間違っていないだろうと考助は考えていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 夜の散歩を楽しんだ翌日。

 考助は、クラウン本部のシュミットを訪ねていた。

「こちらに直接来られるのは珍しいですね。なにかございましたか?」

 統括という立場になってもまったく変わらないシュミットに、考助は笑顔を見せながら頷いた。

「いや、昨夜久しぶりに夜の街を歩いてね。しっかりと広まっているようだったから、この先どうなっているのか、確認しに来た」

 考助は、敢えて何が広まっているとは言わなかったが、シュミットにはしっかりと伝わったようだった。

 第五層の街で夜に確認できることなど、限られたものしかないのだ。

 

 シュミットは、考助の言葉に嬉しそうな表情を浮かべた。

「ああ。あれを確認されましたか。私も初めて見たときは、光の多さに、感動したものです」

「へー。シュミットでもそうだったんだ」

「それはそうですよ。あれを見て、夜の世界が変わって行くと思ったものです」

「まあ、それは否定しないけれどね」

 何気に詩的な表現をしてきたシュミットに、考助は苦笑をしながらそう返した。

 

 そんな考助を疑問に思ったのか、シュミットが首を傾げる。

「・・・・・・なにか、問題でもあるのですか?」

「いや、問題、なのかな?」

 自分でもよくわからずに、考助は首を傾げながら、以前の世界の光景を思い出していた。

 

 夜だというのに電気の光で煌々と照らされた世界。

 場所によっては、空を見上げてもひとつの星も見ることができず、あるのは人工的に作り出された強い光だけ。

 夜に光を得た人々は、生活様式もそれ以前とは全く違ったものになっていた。

 それが良いことなのか、あるいは悪いことなのか、考助には判断がつけられなかった。

 魔力供給施設を生み出したのが自分である以上は、ある程度の責任は発生していると考助は認識している。

 ただし、それを言ったところで、今の段階で理解されることはないだろう。

 

 曖昧なことを言ってきた考助に、シュミットは疑問の表情になっていた。

 そのシュミットに首を左右に振った考助は、

「いや。大したことではないよ。それに、夜に光を得ることの便利さを人が知ってしまった以上、もう戻ることはできないだろうしね」

「それは、確かにそうですね」

 考助の言葉に、シュミットも頷いた。

 

 人は、便利な物を手に入れれば、それ以前の不便な生活に戻ることを極端に嫌う。

 勿論、危険があるからなどの理由があれば戻ることもできなくはないが、それよりは便利なまま危険を減らしていくことを考える生き物なのだ。

「出来得ることなら、体のためにも今の生活習慣は変わらないでいてほしいんだけれどね。それも難しいかな?」

 この世界ではどうなるんだろうと考えた考助に、シュミットは意味が分からずに首を傾げた。

 日が出てないときにはしっかりと寝て、日が出てくればきちんと活動を行うというのは、人としての基本の活動だ。

 特に成長期にこれができていないと、いろいろと体に変化が起こると以前の世界でも言われていた。

 それがこの世界の住人に当てはまるかは分からないが、出来ることなら不健康な生活にはなってほしくない。

 

 そんなことを考える考助を見てシュミットは目を細めてなにかを考えるような顔になった。

 その顔は一瞬だったため考助は気付けなかったのだが、このときのつぶやきがトワやココロにも伝わって、現人神としての教えとなるなんてことは、このときの考助は欠片も考えていなかったのである。

決して、一日中一度も日の光を浴びずに家に籠っているなんていう不健康な生活をしてはいけません! (by考助)


というわけで、なぜだか一つの教えを広められてしまった考助でした。

それにしても、こんな結論になるはずではなかったこの話でしたが、作者にとっては耳が痛いですw

一日PCに向かってカタカタやっているなんてことも・・・・・・。(´・ω・`)

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