(7)百合之神宮の現状
ココロから誘いを受けた考助は、ミツキ、シルヴィアと共に百合之神宮へと赴いていた。
ココロが考助を百合之神宮へと誘ったのは、徐々に観光地としての定着が始まり、四つの神社を見に来る者たちが増えて来たからだ。
その状況をきちんと目で確認してほしかったのと、これ以上人数が増えてくれば、気軽に来ることができなくなると考えてのことだった。
立場上わかりにくいときもあるが、ココロはココロで考助のことが好きなのである。
ちなみに、シルヴィアが一緒に行くと行ったときは、微妙に引きつった顔になっていたのは、考助の気のせいではない。
ココロからすれば、大先輩であり考助の巫女であるシルヴィアのチェックが入るということで、気楽モードではなくなったためである。
普段は優しいシルヴィアも、こと神に関わることとなると厳しい目が光ることになる。
立派に他の巫女たちを率いているココロだが、未だにシルヴィアに敵うところはどこもないと考えているのだ。
こうして、一部で妙な緊張感を漂わせつつも、考助たちは百合之神社から表に出た。
転移門を使って移動してきた考助たちは、直接ここから出た方がいいのだ。
勿論、他の観光客には見つからないようにしている。
そもそも百合之神宮の中でも百合之神社は、一般客が立ち入れない「聖域」となっているので、その心配はほとんどないのだが。
それはともかくとして、百合之神社の正面玄関から表に出た考助は、そこでとある人物と出会った。
「やあ、ソル。真面目に働いているみたいだね」
「こ、これは、コウスケ様! 如何されましたか?」
考助が声をかけたのは、一般客が入ってこないように警備についていたソルだった。
「こらこら。ここでその名前を出したら駄目だって」
「あっ!? も、申し訳ありません!」
そう言いながら頭を下げるソルに、考助は苦笑を返した。
ある程度の常識を身に着けたソルは、こうして百合之神社及び百合之神宮全体の警備を行っている。
ただ、そもそもの気質はまったく抜けていないようで、管理層で会ってもまったく硬さが取れていないのだ。
ちなみに、今は周囲に誰もいないことがわかっているので笑って過ごしているのだが、もし他の見物客がいれば、ミツキ辺りの制裁が加わっていたはずだ。
そうならずに済んだのは、考助が右手の人差し指を立てながら、自分の口元に持ってきたからである。
つまりは、今回はそれだけで済ますという、考助なりの配慮である。
その考助の仕草を見て、ソルは青くなってもう一度頭を下げた。
「す、すみませんでした!」
「ああ、まあ。今回はもう良いから。次から気をつけてね」
これ以上話を進めても同じことの繰り返しになると判断した考助は、かなり強引に話を打ち切った。
ソルと会話をするときには、時にはこうした強引さも必要になるのだ。
というわけで、護衛として張り切るソルを加えた一行は、周囲にある三つの神社を巡り始めた。
流石にミツキがいる前で同じ失敗は繰り返さずに、ソルは大人しく護衛の任務(?)についている。
考助たちが最初に歩いた道は、百合之神社から北の神社に向かう道だが、あまり人は歩いていなかった。
ただ、それは単に百合之神社にまで足を延ばす観光客が少ないためで、全体的に人がいないというわけではない。
現に、北側にある神社に着いたときには、何人かの単位で人が出入りをしていた。
その様子を見ていた考助は、感心した表情になっていた。
「お~。確かに人が増えているね」
神社を作ったときにはまったく他人がいなかったのだから、観光地としては大進歩と言ってもいいだろう。
そもそも金銭で儲けを出そうという気はまったくない。
一か所の神社だけでこれだけ人が来ているのであれば、当初の目的は果たしているのだ。
ソルは、百合之神宮を守る存在として、リピーターの間ではその存在が知られるようになっている。
そのソルが傍にいることで多少注目を集めている気もするが、考助たちは気にすることなく、他の神社の様子を見に行った。
結果からすれば、最初に見た北の神社とは大きな違いはなく、同じくらいの人数の観光客が入っていた。
三つ分を合わせれば、百人ほどの人数がいるのだから、かなりの数が入っていると言っていいだろう。
「・・・・・・なるほどね。確かに上手くいっているようね」
特に大きな騒ぎや混乱も見られないことから、シルヴィアがそう結論付けていた。
それを聞いたココロが、シルヴィアには見えないように陰でぐっと右手を握っていたのだが、考助がしっかりと発見していたのは、誰にも言わないでおいた。
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アマミヤの塔にある百合之神宮は、とある理由により、女性冒険者に人気がある観光スポットとなっていた。
もともと現人神は、セントラル大陸で活動している冒険者の間で人気があった。
それに加えて、セントラル大陸を含めてどの大陸にも現人神を正式に祀った神社及び神殿は、アマミヤの塔にしかない。
正式にお参りをするとなれば、アマミヤの塔を目指していくしかないので、人気が出るのは当然といえば当然だ。
その上で、なぜ女性冒険者に人気が出ているのかといえば・・・・・・
「ねえねえ! あっちに出たらしいわよ!」
「えっ!? ほんと? 行ってみる?」
「そうしましょう!」
ある情報を掴んだ仲間に促されて、他の女性冒険者が移動を開始した。
そして、彼女が進んだ先には、一匹の狐を幸せそうに撫でているひとりの女性冒険者がいた。
「あ~。羨ましいわねえ」
「気持ちよさそう~」
「おっとなしいようっ!」
そんなことを言いながら女性冒険者たちは、狐を撫でている女性冒険者を羨ましそうに見ていた。
彼女たちが遠巻きにしか見ていないのは、自分たちが近寄れば、狐がすぐに逃げ出してしまうことがこれまでの噂で分かっているためだ。
わざと近寄って逃がしてしまえば、当人も含めてみている者たちからも恨まれることになるので、地雷を踏み抜くような真似をする者はいない。
狐を見事に触ることができた者以外は、遠巻きに見るだけという暗黙のルールが、いつの間にか出来上がっているのだ。
そして、これが女性冒険者に百合之神宮観光の人気が出ている理由なのである。
誰かが狐を愛で始めたと聞けばそちらに行き、狐を遠くから眺めつつ、他の狐が出てこないかと期待をする。
そうして、いろいろな場所を転々としていた女性冒険者たちは、ある時不思議な噂を耳にした。
「ね、ねえ。なんか、スゴイのが出たらしいわよ?」
「スゴイの? 何、それ?」
「よくわかんないんだけれど、凄いんだって」
「ふーん。とりあえず、行ってみる?」
噂の意味は分からないが、そこに狐がいることは確実そうなので、噂の出所に向かって歩き始めた。
そして、その光景を目にした女性冒険者たちは、揃って意味不明な噂の意味を理解して、さらにこの世の者とは思えない光景を目にすることとなった。
「・・・・・・うわー。これは確かに、スゴイわね」
「そうね。スゴイわね」
彼女たちの視線の先には、複数の狐に囲まれている男性がいた。
複数と言っても二、三体だけではなく、少なくとも十体以上はいる。
それらの狐が、ひっきりなしにその男性に向かって、自分も撫でてと言いたげに近寄って行っているのだ。
その光景を目にした女性冒険者たちにとって幸運だったのは、その男性が羨ましそうに見ている彼女たちに「撫でてみる?」と声をかけて来たことである。
普通であれば、絶対に自分が許したもの以外には撫でさせない狐たちは、その男性の言葉を理解しているのか、彼女たちが撫でても逃げることはなかった。
お陰で女性冒険者たちは、幸せのひと時を過ごすこととなるのであった。
・・・・・・ちなみに。
そのときの女性冒険者たちは、揃って「もしかして」という思いを抱くことになるのだが、それを現実に口にする者は一人としていなかったのである。
「もしかしなくても、あの人(方)は・・・・・・」と言ったところでしょうかw
ちなみに、文章中には書いていませんが、きちんとミツキたちも周囲にいます。
また一つこうして伝説が増えるのであった。(物語風)




