2話 ドリーの樹
塔LV8・・・上級モンスター召喚陣解放、上級設置物解放
塔LV9・・・上級モンスター召喚陣追加、上級設置物追加、特定地形設置
塔LV8と9の追加内容である。
ついに上級モンスターの召喚陣が解放された。
といっても種類は少ない。召喚できる種類を増やすことが出来るのかどうかは、今後の課題になるだろう。
<鸞和召喚陣(10体)>の時に新しい召喚陣を追加して増やすことが出来たが、上級モンスターの召喚陣がシステムに登録されることは無かった。
考助が作成した召喚陣の召喚自体は上手くいっても、ナナやコウヒたちの様に眷属になったりはせずに、ただのモンスター召喚だけが起こったのである。
結局召喚したモンスターを、コウヒやミツキに処理してもらうだけで終わってしまった。
そんなわけで、上級モンスターの召喚は上手くいっていなかったのだが、これでさらに実験が進められるかもしれない。
久しぶりに眷属を増やしてもいいかもしれないと、考助は考えている。
折角なので、登録されている召喚獣を眷属にした後に、考助作成の召喚陣を試して、比較してみるのもいいと思っているのだ。
さらには上級設置物も解放された。
設置物に関しては、コストもかかるがその分の見返りはありそうな物が揃っている。
とはいえ現在は、世界樹の層の結合のために神力を貯めているので、あまり無駄な出費はしたくはない。
まあ、急いで設置する必要もないので、新しい設置物に関しては、要検討と言ったところである。
そして、塔LV9で追加された<特定地形設置>である。
これは、それぞれ指定された地形に、特定の地形を付与できるものである。
例えば、ある階層に山があったとすると、そこに鉱脈を追加するというものである。
当然ながら、好きな地形を追加できるということもあってか、コストは高くなっている。
チラ見した程度だが、最低でも百万pt~と言った感じだった。
といっても地形を追加するのだから、有用性を考えれば高くはないだろう。
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新たな召喚陣が追加されたのだから、早速それらを設置しようかという欲望に負けそうになった考助だったが、結局当初の予定通りに神力を使った。
当初の予定とは、第七十三層(世界樹)への階層の合成である。
現在はさらに三つの階層が増えている。
以前合成した第十一層に加えて、第十二層~第十四層まで合成した。
場所はそれぞれ、第七十三層を中心にして、前後左右で十字になるように結合してある。
ちなみに、それぞれ合成した層の隣にさらに他の層を合成しようとしたが、出来なかった。
おそらく合成が出来るのは、周囲の八層が最大なのだと考助は考えている。
あるいは、八層を合成した段階で、更に周囲の分の枠が追加されるかだろう。
その辺はやってみないと分からないのだが。
と言うわけで、合成を行うたびに第十一層へ行ってみたのだが、特に大きな変化はなかった。
残念ながら世界樹自体にも以前のような変化は起きていなかった。
一応理由も聞いてみたが、答えはすぐに返ってきた。
地脈の整理が追い付いていないから、だそうである。
言われてみれば、納得が出来る理由である。
土地が広がること自体は、特に問題が無いとのことなので、地脈の整理を待たずして残りの四層分も合成する予定だ。
その後、更に広げることが出来るようになるのであれば、その時に考えることにした。
焦って広げても世界樹の地脈の整地が追い付いてこなければ、意味がないからである。
階層の合成を行うことによって、世界樹の変化は起こらなかったが、別の物が変化した。
元世界樹のドリーである。
と言っても姿形が変わったわけではない。
「扱える力が増えたんです」
直接ドリーの樹の根元まで来た考助に、ドリーがそう言ってきた。
「力が?」
首を傾げた考助に、ドリーが頷いた。
「私は、元は世界樹でしたが、今はドリーの樹そのものです。ですので、当然ながら世界樹の力は使えません」
「うん」
「世界樹の力とは、簡単に言えば、地脈の力を吸い上げて神力へと力の変換を行う力です。その際に発生した力の元に、精霊たちが集まってきています」
「うん」
「ですが、世界樹ではない今の私は、周囲の木々の力を集めて精霊たちを呼び込んでいます」
「えっ!? そうなの?」
初めて聞いた話に、考助は驚いた。
「そうなんです。というよりも、そうなりました、と言うべきでしょうか?」
「どういう事?」
「最初は、この樹に宿るだけの存在だったんです。それが、考助様が力を与えてくださったので、周囲の樹から力を集めることが出来るようになったみたいです」
「力? 与えたっけ?」
特に何かをした覚えがない考助であった。
「・・・名前を付けてくださったではないですか?」
「え!? そんなことで?」
確かにドリーに名前を与えた時には、半透明だった彼女が現在の普通の姿になっていた。
しかし、名づけでそんなことが出来るようになるとは、思っていなかったのである。
「はい。私の元になっているのが、世界樹だったというのもあると思います。世界樹は地脈の力を使いますが、私は周囲の木々の力を使うと言った感じでしょうか」
「へー。なるほどねぇ」
「それで、ここからが本題ですが・・・」
「うん?」
「周囲の木々の力を使うということは、当然、近くにある木が増えれば当然私の力も増えるわけで・・・」
「あ・・・もしかして?」
「はい。以前と同じように階層合成・・・でしたか? それによって森林が増えたおかげで、私の力も増えました」
「はー。なるほど。そういう事か」
<階層合成>を行った第十一層~第十四層は、森林地帯の階層である。
世界樹の周囲はやっぱり森林だろ、という考助なりの理屈(思い込みとも言う)で、森林の階層を合成したのだ。
それが、思わぬ形で功を奏したようであった。
「まさかと思うけど、世界樹みたいに神力を発生したり?」
考助の問いには、ドリーは首を振った。
「いえ。流石にそれは・・・」
「ああ、いや、ただの確認だから。そう簡単に、世界樹と同じことが出来るようになるとは思ってないから」
「そうですか・・・」
考助のフォロー(?)に、それでもドリーの表情は若干曇ったままだった。
塔にとっての神力がどういう物か、以前に何となくコレットから聞いたことがあるので、残念な思いもあるのだろう。
「ああー・・・。それで? 力が増えたって、何が出来るようになったの?」
「はい。精霊たちが集まりやすくなったというのもあるのですが、メインは周囲の環境を整理できるようになったことでしょうか?」
「・・・は!?」
「木々や植物たちと調整して、周辺の土地の整理を行うための力が増えました」
「ひょっとして、それって地脈に影響したり?」
「勿論です」
「それって、ひょっとしなくても世界樹にとっては重要な役割では?」
「はい。そうなります」
あっさり頷いたドリーに、考助は思わず呻いた。
「いや、それって世界樹があるこの階層にとっては、非常に重要な力では?」
必死こいて土地の調整を行っているエルフが聞けば、思わず眩暈を起こしそうな話である。
「そうでしょうね。ただ、どうしても人の手は必要になる所はありますから、エルフ達の力も必要になります」
「あ、そうなんだ」
「勿論です」
それを聞いた考助は、何となくほっとした気分になった。
話を聞いていたコレットとシェリルの顔が、若干こわばっていたのは、決して気のせいではないだろう。
それにドリーも気づいていたのか、ふわりと笑って二人の方を見た。
「私達植物は自分では動けませんから・・・どうしたって森林を荒らす者達たちの対処は必要になりますよ」
それでなくとも塔の階層は、モンスターが自然発生する。
それらのモンスターの対処はエルフ達が行うのだ。
元々エルフ達の役割は、そういったところもあるのだ。
ドリーの言葉に、その場にいたエルフ二人は、ようやくほっとした表情を見せたのであった。
2014/7/2 階層合成の位置の表現方法を変更