(12)戦後処理
時は少し遡ってリクたちがドラゴンの元へと到着するほんの少し前のこと。
実はその現場では、すでに考助たちが周辺の様子を確認していた。
勿論、自分たちがドラゴンを逃がしたことにより、被害が拡大しないようにするためだ。
いくらリクたちを英雄にするおぜん立てをするためとはいえ、人死にが出ては目覚めが悪い。
少なくともドラゴンの攻撃によって、亡くなる人が出ないように、きちんとフォローをしていたのだ。
かといって、考助たちがドラゴンを攻撃してしまっては元も子もないのだ。
コウヒの魔法によってその場に到着した考助は、すぐにシルヴィアへと指示を出した。
「シルヴィア、お願い」
「はい。畏まりました」
考助に向かって丁寧に頭を下げたシルヴィアは、すぐにその場を離れて動き始めた。
その傍には護衛よろしくワンリが着いている。
シルヴィアもこの計画には賛成していたが、無駄な犠牲者は出したくないと考えていたのだ。
そして、シルヴィアはその能力をいかんなく発揮して、リーダー種のドラゴンが現れたにもかかわらず、死亡者ゼロという快挙を成し遂げる裏方作業に徹していた。
その一方で、考助も魔道具を使いながら重体になっている者たちの治療を行っている。
考助たちは、魔法と魔道具を駆使して姿を変えながら作業をしているので、それが例の仮面の人材だということは誰も気づいていない。
ドラゴンと戦闘中のリクたちは、そこまで注視している暇がないので気付けるはずもない。
なんとか考助たちが死者を出さないように作業が終わったときには、リクたちの戦闘は佳境に入っていた。
リクたちが無事にドラゴンを倒したときには、すでに戦闘領域には他の者たちはおらず、遠巻きに戦闘を見守っている状態になっていた。
はじめは、リクたちの手助けを兼ねて戦闘に入ろうとする者たちもいたのだが、周囲の者たちに止められていた。
ある程度実力を持つ者であれば、リクたちの連携に入って行くと、逆に邪魔になるということがわかるためだ。
勿論、考助たちであれば入ってくことも可能だが、それをすると意味がなくなるので、当然考助たちが混ざることはしない。
それに、考助たちが回復に走り回っている間に、リクたちの戦闘の状況は好転していてすでに助けに入る必要が無くなっていた。
そして、ミツキがドラゴンに近付いて行って鼻先を叩きながらリクたちに向かってなにかを言っていることを確認した考助は、フローリアに向かって言った。
「どうやらうまくいったようだね」
「そうだな。ときどき危ないところもあったが、まあ及第点だろうな」
厳しいフローリアの批評に、考助は意味ありげな視線を向けた。
「厳しいお母さんだ」
「当然だろう? 彼らが苦労するのはこれからなのだから」
「まあ、それもそうだね」
フローリアの言葉に同意するように頷いた考助は、集まってきていたメンバーを見て言った。
「それじゃあ、そろそろ僕らは持ち場に戻ろうか」
もともと考助たちは、山脈に出現しているリーダー種を倒すために、この大氾濫に参加しているのだ。
できるだけ貴重な素材は回収しておきたい。
考助の言葉に頷いた一同は、一か所に集まってコウヒの転移で元の場所へと戻るのであった。
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リクたちが大物のリーダー種を倒したという噂はすぐに広がり、スミット国内での氾濫の決着に勢いづけるものとなった。
裏では考助たちが残りのリーダー種を倒したということもあり、モンスターの勢いは目に見えて落ちて行き、最終的にはモンスターを森に押し込めるか、完全に討伐することに成功していた。
最終的にスミット国内に出たモンスターは千を超えていたと推定されている。
ちなみに、あとで分かったことだが、これは大氾濫全体でも一番数が多かった。
ところが、冒険者や軍人の犠牲数で見れば下から数えた方が早いくらいだったので、スミット国にとっては完全勝利と言っていい結果に終わったことになる。
逆に、犠牲数が多かったのは、やはりというべきか、クラウンのサポートが受けられなかった国々だった。
その結果からそれぞれの国は、クラウンの支部を置くように民衆に責め立てられることになるのだが、それはもう少し落ち着いてからのことになる。
いまの民衆は、南大陸において歴史的な大氾濫を何とか乗り越えたことによる安堵と勝利の余韻に浸っているのであった。
民衆は大氾濫が終わったことを素直に喜んでいたが、国を運営している行政はそうはいかなかった。
なにしろ、人同士の戦争と同じように戦後処理というものが残っているのだ。
全体で見れば大氾濫といえるものとはいえ、戦後の保障に関してはそれぞれの国が負うことと決められていた。
それでは、一番被害の大きかったスミット国が損をすることになるのだが、普段からあまり仲の良くない国との話し合いに時間を掛けるよりは、そちらの方がましだと判断したのだ。
それに、補てんに関しては、大氾濫の討伐に参加しなかった国々からの援助もある。
一方的に損するわけではない。
そうした状況で、スミット国のいまの一番の懸案事項は、被害に遭った町の住民への補てんなどではなく、一番の手柄を立てた『烈火の狼』への報酬の内容だった。
といっても、報酬の内容に国内の貴族たちが反対しているわけではない。
むしろその逆で、一番の活躍を見せたリクたちに、爵位を与えるべしという声が多かったのだ。
それには、強い力を持つリクたちを国内に取り込んでおきたいという意思があるのは間違いない。
ただし、当然というべきか、『烈火の狼』は冒険者で、その申し出を拒否したのだ。
その話を最初に聞いたクリストフ国王は、内心でそれはそうだろうなあと、リクたちを肯定するような意見を持っていた。
勿論、立場上、そんなことを口にすることはなかったが。
通常、冒険者は、報酬でもめることは少ない。
理由は簡単で、もともと金で動いているのが冒険者だからだ。
そのため、報酬が多すぎるという理由でもめることは少ないのだが、今回のリクたちに関しての話は別だ。
自分たちを国に取り込もうとしているのがまるわかりなので、メンバー全員が辞退をするということになっているのだ。
クラウンを含めて、続々と報酬の支払いが終わって行く中で、最後に残ったのが『烈火の狼』というわけだ。
自由を求めて冒険者になる者も多いので、一国の爵位などいらないという冒険者は意外と多いのだ。
ただし、貴族の特権に胡坐をかいている者たちはそうしたことなど知らないし、知ろうともしない。
爵位という特権さえ与えれば、満足だろうと考える者が意外と多いのは、こうした事情もひとつの理由なのだ。
とはいえ、一番の立役者にいつまでも報酬を与えないというわけにはいかない。
部下から相談を受けたクリストフは、リクの許可を得たうえで、きっちりとリクの元の身分を明かした。
そうすると一斉に声が静まったのだから現金なものである。
だが、これもまた貴族という身分を持つ者たちの習性(?)なのだ。
結局、『烈火の狼』に対する報酬は、いくばくかの金銭と今後の国内における活動の特権を与えるということで収まった。
最後の最後まで彼らを取り込もうとしていた貴族たちは残念がっていたが、下手にスミット国に対して悪感情を持たれる方が痛手になる。
最終的には『烈火の狼』の面々も満足していたようなので、クリストフにとってはホッと一安心というところであった。
後半説明会になってしまいました。
会話を挟んで説明しても良かったのですが、それだともっと長くなるのでスパッと諦めました><
リクたちについてはこれで以上です。
あとは、クラウンの扱いと考助たちのその後、でしょうか。




