(10)リーダー種との戦闘(考助とその仲間たち)
リクたちがリーダー種を倒すことになる少し前のこと。
考助たちは、チートすぎる能力(コウヒとミツキ)を使って的確にリーダー種を見つけては、討伐を行っていた。
「・・・・・・なんというか、真面目に歩き回ってリーダー種のところまで行っている者たちのことを考えると、気の毒になってくるな」
フローリアのその呟きに、考助は苦笑を返すことしかできなかった。
なぜなら考助たちは、ミツキが上空から見つけたリーダー種めがけて、あっという間に転移をしてリーダー種を討伐するということを繰り返しているためである。
フローリアの言う通り、まともに地面を歩いて行っている冒険者たちの考えると、あまりに乱暴すぎる手である。
こんな無茶が通じるのは、上空にいるミツキが襲い掛かって来るモンスターを、まるでただの鳥のように迎撃して行っているためである。
まさしく、ミツキの力が無ければできない方法といえるだろう。
半分呆れたように言ったフローリアに、シルヴィアが真面目な顔になった。
「でも、お陰で、大氾濫の割には迎え撃つ側は楽になっているかと思います」
その言葉通り、考助たちがリーダー種を討つたびに、彼らによって統制されていたモンスターが混乱に陥り、同士うちを始めるところも出ている。
それは、大氾濫に関係していると目される集団の一部とはいえ、効果が出ていることは確かだ。
ちなみに、リーダー種が討たれることによって完全に氾濫が無くならないのは、統制が無くなるのは確かだが、すでに暴発しているのでモンスターの移動が止まらないためである。
動き出した大量のモンスターを止める方法は、討伐しかないというのが、いまのこの世界の常識なのだ。
もっとも、戦闘なしに大量のモンスターの動きを止めるためには、絶対的な力を持ったモンスターテイマーのような存在が出てこなければ無理だろう。
チートすぎる能力を使ってリーダー種を討伐している考助たちだが、すでにその数は五を超えている。
これだけの数を倒してもまだ全部を倒したようには見えないので、今回の氾濫が本当に大きなものだということがわかる。
「もしかしたら世界の歴史に残る大氾濫になるかもね」
そんなことを言った考助に、フローリアが頷いた。
「間違いなくそうなるだろうな。リーダー種の正確な数は吾らが倒しているので公表されることはないだろうが、モンスターの数だけでも上から数えた方が早いだろう」
「そうですね。それに、恐らくこれだけの数の国が関わっていることも珍しいのではありませんか?」
歴史的な評価は、迎撃側が受けた結果なども考慮されるためまだどうなるかはわからないが、少なくともモンスターの数だけで考えれば、間違いなく十本の指には入っているだろう。
そう考えれば、百程度で氾濫が起こっているセントラル大陸は、規模だけで見れば小規模なものしか発生していないと言える。
ただし、セントラル大陸でも大氾濫が起きないわけではないので、比べる意味はないのだが。
ミツキが上空からリーダー種を探している最中にのんびりと会話を行っていた考助たちだったが、そのミツキが上空から降りて来た。
「うん? なにかあった?」
「ええ。どうやら待っていた相手が来たみたいよ」
ミツキはそう答えながら上空のある一か所を指した。
考助たちがいる場所は、一部森が開けている場所になっているので、ミツキが差している方角もきちんと見える。
そして、その先には、大きな翼を持つモンスターが飛んでいることがわかった。
どうやらそのドラゴンは、きっちりと考助たちを認識しているようで、まっすぐに向かってきていた。
「……ドラゴンのリーダー種か。フローリア、シルヴィア、どう思う?」
「間違いなくこの大氾濫のまとめ役か、その次点あたりだろうな」
「そうですね。逆に、他にドラゴンがいると考えるほうが驚きです」
考助の問いに、フローリアとシルヴィアも同意するように頷いた。
考助たちが探していたのは、この大氾濫の発端となっているリーダー種だった。
それさえ倒してしまえば、いまのバランスよく取れている統制が乱れることになる。
あとは、個々に分かれた分隊をそれぞれ撃破していけばいいだけなのだ。
流石にドラゴンだけあって、かなりあった距離があっという間に詰められていた。
その間に考助はとある決断を下した。
「よし。それじゃあ、当初の予定通りやってみようか。上手くいけば儲けもの、たとえ駄目だったとしても僕らの素材になるから良しということで」
考助がそう声を掛けると、思い思いに体を休めていた仲間たちが、向かってくるドラゴンに戦闘態勢を取り始めた。
そもそも今回考助たちが分かり易い仮面をつけているとはいえ表に出てきたのは、リーダー種の素材を手に入れるためだけではない。
それはあくまでも、あの会議の場にいた者たちに対する建前でしかないのだ。
本来の目的は、今回の騒動を利用して「英雄」を作り出すことにある。
もっとはっきり言えば、考助たちはリクたち『烈火の狼』を、今回の大氾濫を沈めた立役者にしようと目論んでいるのだ。
大氾濫に発生したリーダー種を、それも誰もが倒せないと思うようなモンスターを倒すことができた。
そうなれば、間違いなくリクたちのランクはいまのAランクからSランクへと格上げされることになる。
逆に、そうしなければ他の冒険者たちからクラウンが詰め寄られることになるような状況を作るのだ。
そんなことをするにはいくつか理由があるが、一番の目的は、クラウンの支部の設置を早めるためである。
今回の氾濫でクラウンの重要性が広まれば、それだけ支部の設置がやりやすくなる。
それだけではなく、考助がクラウンを作ったもともとの目的である「モンスターに対抗できる世界中に広がる組織を作る」ということを促進する意味もある。
逆にいえば、リクたちはその目的のための人身御供ともいえるだろう。
勿論、そのためのおぜん立てはきちんとそろえるつもりだ。
考助たちがリーダー種を弱めてからリクたちのいる場所へと送るつもりなのだが、弱めすぎてしまって他の冒険者たちに倒されてしまっては意味がない。
逆に変な手負いの状態で送って、リクたちにも手に負えない状態にしても意味がない。
絶妙なバランスで、リーダー種を目立つ位置に送らなければならないのだ。
それらの仕込みは、ある意味でやらせともいえなくはないが、リクたちの実力で倒すことになるので大した問題ではない。
そもそも多くの冒険者が一体のモンスターを相手にして、散々弱り切ったところで「英雄」と呼ばれるものが止めを刺すなんてことは、ごく当たり前にあることだ。
というよりも、そうしなければ人よりもはるかに強大な力を持つモンスターには、対抗できないのである。
それでも人々は、最後に止めを刺した者を「英雄」と呼ぶのだ。
襲ってきたドラゴンにある程度の手傷を負わせて、これくらいで大丈夫だろうと思われたところで、考助たちはわざとそのドラゴンに逃げる隙を与えた。
勿論、その方角はリクたちが討伐している場所であり、氾濫の防衛を行っている多くの冒険者や軍がいる場所でもある。
きっちりと予定した方角に向かったことを確認した考助は、すぐにリクたちへと連絡を取った。
「リク、いま大丈夫かな?」
その考助の呼びかけに、リクはしっかりと応えて来た。
しかも、リクたちも一体リーダー種を倒したところだという。
すべてのおぜん立てが整ったことを確認した考助は、ミツキへと視線を向けながら、リクへとドラゴンのリーダー種が逃げたことを伝えるのであった。
これを大いなる茶番と呼ぶか、必要なおぜん立てと呼ぶかは読者の皆様にお任せしますw
ただし、考助たちがわざと逃がしたリーダー種が、リクたちにしか倒せないモンスターであることは間違いありません。
それだけ、現時点の『烈火の狼』の実力は、頭一つ抜けています。
それでも元気いっぱいの状態ではリクたちには倒せないので、考助たちが少しだけ手を加えたということになります。
あるいは、もし他の者たちにこのことが知られれば、『神の試練』と呼ばれるようになるかもしれませんね。
 




