(7)具体的な対策
高ランク冒険者たちの懸命の調査により、今回の氾濫の規模の予想が大体できて来た。
まず、モンスターの数は五千から八千程度で、まぎれもなく大氾濫と言っていい規模である。
ちなみに、数のぶれが多いのは、クラウンの支部が存在していない国側の山脈の調査が、クラウン基準でないために正しいかどうか分からないためだ。
あくまでも、それぞれの国にある冒険者ギルドの意見を合わせた結果、これほどまでにぶれたのだ。
ちなみに、クラウンの調査では、氾濫が起きてもその場に残るであろうモンスターのことも加味されている。
クラウンができて二十年以上経っていて、セントラル大陸ではすでに何度か氾濫も起こっているので、ある程度正確な数が出せるようになっているのだ。
残念ながら、他の国ではそこまで正確な算出方法は持っていない。
当然のように、国々の代表がその算出方法を教えろと言ってきたが、そもそも氾濫が起こっている場合のモンスターの正確な数の割り出しができる冒険者や軍人がいないので意味がないと、一蹴されていた。
ガゼランが各国代表者に宣言した「支部が無い国は助けられない」宣言は、未設置国からの強い反発にあいながらも受け入れられることとなった。
それもそのはずで、そもそも都合のいいときだけ利用されるのはごめんだというのは、どの世界でも共通の認識なのだ。
もしそれを認めてしまえば、弱小国は常に強国にたかられてしまうことになる。
クラウンと未設置国の間には、もともと約束事などもないので、助けられないというのは当然のことなのである。
これは、モンスター相手の場合に限らず、通常の戦争でも同じことなので、クラウンの主張が暗黙のうちに認められることとなっている。
もっとも、当事国はそんなことは関係ないとばかりに強弁を繰り返しているが、クラウン含め支部がある国はそれを無視している。
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調査の甲斐あって、支部設置国ではある程度の対策を立てることができた。
支部設置国は、もともとモンスターへの脅威の意識がある程度はある国なので、冒険者だけに任せず軍が出ることになっている。
最初はクリストフの意見をあざ笑っていた貴族たちも、いざ正確な結果が出れば顔を青くして、出すもの(私兵)は出してきたので、未設置国などに比べればまだましだと言えるだろう。
そんなわけで、クラウン支部がある国同士でまとまって話をしているわけだが、話の中心はクラウンがまとめることになっていた。
これほど大規模なモンスターへの対処方法は、それぞれの国が持っていないので、当然というべきかもしれない。
ただし、クラウン関係者は軍人ではないので、あくまでも軍の指揮権はそれぞれの国が持つことになっている。
とはいえ、連携は絶対に必要になるので、主導権はクラウンが握るということになったのだ。
今まで出て来た調査結果をもとに、ガゼランが各国の代表と冒険者代表に計画を話していた。
「――――以上が大まかな計画になるが、なにか質問はあるか?」
ガゼランの問いに、冒険者たちは沈黙を保ったが、国の代表者たち――すなわち、軍人たちから確認の声が聞こえて来た。
「要するに、冒険者たちが各個撃破を行って、我々が漏れた分を防ぐということでいいのか?」
冒険者がつつく場所によって、ある程度モンスターが漏れ出てくる場所はコントロールすることができる。
それぞれの国の軍は、それを叩いて行くというわけだ。
「まあ、端的に言うとそういうことだな。お前さんたちも領地の平定でモンスターに打って出ることはあっても、基本的には守りだろう?」
国に存在している軍――騎士たちは、対モンスターに関しては基本的に、町や商隊を襲ってくるようなモンスターから守ることを主としている。
今回のように、モンスター相手に打って出るという経験は少ないのだ。
それならば、常にモンスター相手に打って出ている冒険者が相手にした方が動きやすいし、動かしやすい。
各国の軍人たちの間に、ホッとした空気が流れているのが見えたガゼランは、彼らと同じように内心で胸を撫で下ろしていた。
ここで功にはやって騎士たちが打って出ることを主張し始めた場合は、作戦系統も含めて面倒なことになっていた。
いまはまだこちらから打って出るだけの余裕はあるが、氾濫自体はいつ暴発して人里向かって動き始めてもおかしくはないのだ。
できれば、そんな無駄な時間はかけたくないのである。
ただ、それでも今の空気は少しだけまずいので、釘を刺すことにした。
「だが、今回の氾濫は、いままでに経験したことがない規模のものだ。十分に気を引き締めてかかる必要がある」
ガゼランがそう言うと、代表の騎士のひとりが頷きながら答えた。
「無論だ」
その答えがいいきっかけになったのか、参加者の騎士たちの間にも気を引き締める空気が流れた。
それを確認したガゼランは、ふと視線をクリストフへと向けた。
「これは余計なお世話かもしれませんが、未設置国の動きに注意したほうがいいかもしれません」
さすがに相手が国王だけあって、ガゼランの言葉使いもある程度は丁寧になっている。
「・・・・・・どういうことかな?」
「いえ。ないとは思いたいですが、やつらに重大ななにかがあった場合、妙な言いがかりをつけてくるのでは、と」
「いや、さすがにそれは・・・・・・ないとは言えないね」
ガゼランの言葉にクリストフは額に手を当て、他の国の代表者たちも悩める表情になった。
クリストフの言った通り、いままでの彼らの態度を見ていれば、そうした態度に出てくる可能性も十分に考えられる。
額に手を当てながら首を左右に振ったクリストフは、さらにため息をついた。
「・・・・・・わかった。それはこっちの役目だろうね」
外交的な問題は、あくまでも国同士の対応であって、クラウンが関わるわけにはいかない。
もし関わってしまえば、それはクラウンが国と同等の組織だと認めてしまうことになるためだ。
それはクラウン的にも、支部がある国にとっても、あまりいいことではない。
早速各国との打ち合わせに行こうとしたクリストフだったが、なぜかガゼランがそれを止めた。
「あ~、すみませんが、あとひとつだけこの場の方々に伝えるべき、最重要事項があります」
改まってそう言ってきたガゼランに、その場の空気に緊張が走った。
今のところ氾濫の情報に関しては、クラウンが一手に握っている。
わざわざこう言い出したということは、なにか他には伝えられない重要な情報があるのではと考えたのだ。
そしてそれは、ある意味で当たっており、また外れでもあった。
一同の視線が集まったことを確認したガゼランは、ごそごそと懐を探ってとある魔道具を出した。
各国の代表が集まっているために、その場に一瞬緊張が走ったが、ガゼランが出したのは通信具の一種だった。
「・・・・・・準備ができたので、来てくれていいですよ」
ガゼランはそう言うと、その通信具を目の前のある空間にヒョイと投げた。
すると、その通信具だったはずの魔道具は、カツンと音を立てるのとほぼ同時に、直径二メートルほどの魔法陣が展開された。
そして、なにが起こっているのかと一同が目を瞠る中、消えた魔法陣のあとには五人の人影と二匹の獣の姿があったのである。
一体誰なんだ~。(棒)
ちなみに、次話できちんと書きますが、誰かさんたちは仮面をつけていたりしますw




