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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 南大陸での大騒ぎ
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(1)依頼受諾

 リクたち『烈火の狼』の面々は現在、驚きに包まれていた。

 その理由は、彼らの目の前に、いるはずのない者が立っていたからだ。

「君が『烈火の狼』のリクか。なるほど、確かにあの方によく似ているね」

 その言葉に、リクは目の前の人物が考助と面識があることがわかった。

「…………父上と面識がおありでしたか、クリストフ国王」

 冒険者らしからぬ丁寧な姿勢で頭を下げたリクに、スミット王国クリストフ国王は、ニコリと笑って頷いた。

「ああ。もうだいぶ昔のことになるけれどね。……忘れようと思っても忘れられないよ、あの出来事は」

 クリストフは、そう言いながら昔を思い出すように目を細めるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 クラウン本部でとある依頼を受けたリクたちは、細かい内容を聞くために、スミット王国の王城を訪ねた。

 リクは、その時点で嫌な予感がしていたのだが、案内された部屋で仲間たちと待っていると、宰相とともに現れたのがクリストフ国王だったのだ。

 一冒険者に国王がわざわざ直接対面することなどありえないので、疑うのが普通である。

 ところが(残念ながら?)『烈火の狼』は、というよりもリーダーであるリクは、普通ではなかった。

 本格的に冒険者として活動する前、まだ本当の子供だったときに、一度遠目でクリストフ国王(当時はまだ王子)を見たことがあった。

 そのときは、リクは正式にクリストフの前に出たわけではないので、クリストフはリクが見ていたことを知らない。

 だからこそ、先ほどのクリストフの言葉に繋がるのである。

 

 メンバーの中で誰よりも早く落ち着きを取り戻したリクが、内心でため息をつきつつ依頼について話を聞くことにした。

「今回の依頼は、国王自らの依頼ということでしょうか?」

 いち早く落ち着いたリクを見て、クリストフは一瞬面白そうな表情を浮かべてから頷いた。

「うん、そうだよ。といっても、私個人の依頼になるか、それとも国としての依頼になるかは、結果次第だね」

「・・・・・・というと?」

 意味が分からずに眉を顰めるリクに、クリストフは一度頷いてから傍に立っていた宰相を見た。

 

 国王からの視線を受けて、宰相が一枚の紙をリクに差し出した。

「これは・・・・・・?」

「説明する前に、それに目を通してもらえるかな? そのほうが、話が早い」

 クリストフにそう言われてしまっては、拒否するわけにはいかない。

 リクはいぶかしく思いつつも、その紙面に目を通し始めた。

 

 

 一国の王を待たせるわけにもいかないので、リクはメンバー全員が紙面に目を通す前に、クリストフに話しかけた。

「クリストフ王は、森の様子がおかしいと思われているのですね?」

 クリストフから渡された紙面には、スミット王国内に存在しているとある森のモンスターの出現状況がまとめられていた。

 過去の出現状況も合わせてまとめられているその資料では、モンスターの出現率が明らかに落ちていた。

「そういうことだね。正確にいえば、その森を含めた山脈全体を調べてほしいのだよ。といっても、さすがに山脈全部を見て回るわけにはいかないだろうから、一部だけになるだろうけれどね」

「なるほど、仰りたいことは理解しました」

 クリストフの説明に、リクは一度は納得して頷いた。

 

 ただ、そこでリクはさらに疑問に思ったことを問いかけた。

「ですが、もし国内に不穏な気配があるのであれば、直接軍を動かして調べればいいのではありませんか?」

 リクの言う通り、王自ら気になるような事態であれば、その権限で軍を動かして調べればいいのだ。

 ましてや、調べる対象は複数の国にまたがった山脈全体ときている。

 わざわざ、一冒険者に依頼するようなことではない。

 

 そのもっともなリクの問いに、クリストフは真面目くさった顔で頷いた。

「まったくもってその通りだね。ところが、そう簡単にはいかない。・・・・・・いや、あるいはラゼクアマミヤでは、想像もつかないのかな?」

 独白のようなクリストフの言葉に、リクは首を傾げてさらに詳しく話を聞こうとしたが、その前に宰相が口をはさんできた。

「我が国とその周辺国では、たかだか冒険者の報告に、わざわざ軍を動かす必要はないという声が大きいのです。この時点で下手に軍を動かせば、王が笑いものになるのは必至でしょう」

「・・・・・・あ~、なるほど」

 宰相の説明に、リクは盛大に呆れたような顔になった。

 

 セントラル大陸以外の四大陸では、モンスターによる被害が少ない。

 そのため、軍が動くのはあくまでも対人間、もっと言えば国を相手にするときだけで、モンスターの相手は冒険者がしていればいいという風潮が強いのだ。

 だが、十年に一度は確実にモンスターの氾濫に見舞われるセントラル大陸出身の面々は、リクと同じように呆れたような顔になっていた。

「お国の事情は理解いたしました。ですが、それでは私たちが結果と出しても同じことなのでは?」

「そうだけれどね。少なくとも信用度は多少変わってくるだろうさ」

 殊更明るく言ったクリストフに、リクはため息を交えつつ肩をすくめた。

「・・・・・・そんなものでしょうか?」

「残念ながらそんなものなんだよ。貴族ってやつは。・・・・・・おっと、これは失言だったかな?」

 わざとらしくそう付け加えたクリストフは、クスクスと笑い出した。

 

 リクは、一流の冒険者であると同時に、現ラゼクアマミヤ国王の実弟だ。

 そのため、他国の貴族にとっては、一応は(・・・)耳を傾けざるを得ない相手になる。

 少なくとも、今までのように「たかが冒険者」と一顧だにしないわけにはいかなくなる。

 勿論、それだけですぐに軍が動かせるようになるわけではないが、これまでとは発言力が段違いに変わってくるのだ。

 それにクリストフは、結果次第では、別の効果も期待している。

 

 そのことに気付いたリクは、ジッとクリストフを見詰めた。

「クリストフ王は、氾濫の可能性も視野に入れておりますね?」

「うん、そうだよ。・・・・・・できれば、ただの勘違いであってくれればいいけれどね」

 もしモンスターの氾濫となれば、流石にモンスター相手に軍を動かすのは・・・・・・なんてことは言っていられなくなる。

 さらにいえば、そのときにはクリストフが期待している別の効果が発揮されることになる。

 それがなにかといえば、クラウン本部が対応に動き出すということだ。

 

 モンスターの氾濫により、複数の国にまたがって被害が及ぶ可能性がある場合は、それぞれの国が連携して対応することも必要だ。

 だが、建前上では国の影響を受けていないクラウンは非常に重要な役目を果たすことになる。

 もし、森でのモンスターの異変が氾濫であった場合、Aランクパーティがクラウンに報告した時点で、即座に動いてくれることをクリストフは期待しているのだ。

「なるほど。理解はしました。・・・・・・ですが、今の(・・)私ができることは、あくまでも冒険者としての活動だけになりますが、よろしいでしょうか?」

「勿論。私もそれを期待して、君たちに来てもらったんだ」

 裏の目的はともかくとして、始めのうちはあくまでも一冒険者に依頼をするということになる。

 だからこそクリストフは、初めに曖昧な立場での言い方をしたのだ。

 

 リクは、まずは一冒険者として、クリストフからの依頼を受けることにした。

 対象の森、およびその周辺のモンスターの調査は、それこそ冒険者の依頼としてはごく一般的なものだ。

 その依頼の相手が一国の王であることは普通ではないが、それはひとまず棚に上げておくことにする。

 依頼を了承して、宰相の手から活動資金としての前金を受け取ったリクたちは、その日のうちに対象の森へと出発するのであった。

考助の登場なし!w


というわけで、新章の開始です。

このあとも考助は出てきますが、この章ではあくまでもメインはリクになりそうですw

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