(6)気になること
シルヴィアとココロが百合之神宮についての話し合いをしているところを見つけた考助は、少し気になっていたことをココロに聞いた。
「そういえば、リリカっていまなにしているの?」
「リリカさんですか? いつも通り城に詰めていると思いますが、なにかありましたか?」
「いや、特になにかがあるわけじゃないんだけれどね。少し気になったから」
「そうなんですか」
ココロが納得したところで話は終了、となるはずだったのだが、ここでなぜかシルヴィアが口を挟んできた。
「その少し気になったところとは、なんでしょう?」
「えっ!?」
まさかここでシルヴィアがそんな反応するとは思っていなかった考助が、驚いた顔になった。
勿論、シルヴィアもなにかの確信があって突っ込んで聞いたわけではない。
ただ、少し気になったと言ったときの考助の顔が、それこそシルヴィアには気になったのだ。
ジッと自分を見てくるシルヴィアを見て、考助はうーんと首をひねった。
この時点で考助は、シルヴィアが自分の言葉からなにかを感じていることを察していた。
もっとも、その「察し」は、本当に必要なことからどうでもいいことまで、ピンからキリまであるのだが。
「うーん。・・・・・・なにと言われてもなあ。本当にちょっと気になったとしか、言いようがないんだよな」
考助にしてみれば、具体的になにかを思いついたわけではないので、思い出せそうで思い出せないということもまったくなかった。
「お母様は、なにを感じたのでしょうか?」
首をひねっている考助を見たあとで、シルヴィアに視線を移したココロがそう問いかける。
「これは困りましたね。実は、私も具体的になにかをわかって言ったわけではないのです。ただ、なんとなく、コウスケ様を見てそう感じただけで・・・・・・」
困ったような顔になってそう言うシルヴィアを見ながら、ココロは心の中で「似たもの夫婦」と考えていた。
考助とシルヴィアを見比べていたココロは、これ見よがしにため息をついた。
「普通であれば、その程度のことでは気にも留めないのですが・・・・・・ふたりのことは無視できませんからね」
現人神である考助はもちろんのこと、シルヴィアはこと考助のことに関しては、一級の勘を発揮することができる。
少なくともココロの中では、シルヴィアの巫女としての実力は、歴史上でも並ぶ者はないとさえ考えている。
だからこそ、考助とシルヴィアの意見は無視することができないのだ。
「そう言われてもなあ・・・・・・」
「胸の中にもやもやするものはあっても、具体的になにと言われても・・・・・・」
実の娘に念を押されて、考助とシルヴィアは、お互いに顔を見合わせた。
それを見たココロは、もう一度ため息をついてから、つい今しがた思いついたことを口にした。
「結局のところ、元はお父様の言葉から始まっているのです。直接ご覧になってはいかがですか?」
「直接?」
「ああ、なるほど」
ココロに提案に、考助は首を傾げ、逆にシルヴィアは納得の顔になって頷いた。
「私としては、お父様はともかく、お母様がこのことに思い至らなかったのが、不思議です」
娘の容赦のない突っ込みに、考助は肩を落とし、シルヴィアはごまかすように曖昧に笑うのであった。
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ココロの提案は、要するに考助が気にしたリリカを、直接考助の目の前に連れてきてはどうか、ということだった。
目の前に当人がいれば、考助も何に引っかかったのか、思いつくかもしれないという、実に簡単な理屈だ。
考助はともかく、シルヴィアがそのことを思いつかなかったのは、自分があの時に感じた直感がなんであるかに主眼を置いてしまって、考助の言ったことがどういうことかを考える視点が抜けてしまっていたためだ。
逆にココロが思い付けたのは、一歩引いたところで、ふたりの会話を聞いていたためだ。
もっとも、だからといって、それが解決に直接つながるかどうかは、まだわからないのだが。
というわけで、リリカが久しぶりに管理層に来ることになった。
ココロがどういう結果になるのかを直接自分の目で確かめたがったため、リリカが管理層に来たのは次の日になっていた。
そうして管理層に顔を見せたリリカは、若干緊張した様子で、考助の前に立っていた。
「やあ、リリカ。久しぶりだね」
「お、お久しぶりです!」
考助の気楽な挨拶に、リリカは完全に恐縮した様子で頭を下げた。
その様子を見ていたココロは、感心とからかいが混ざったような顔で、考助とリリカを交互に見ていた。
「あの厳しいリリカさんがこうなるなんて、さすがにお父様というところでしょうか」
「ココロ様!」
完全にからかうように言ってきたココロに、リリカが思わずといった感じで声を上げた。
ただし、その後すぐに考助を見てからすぐに自ら口を押えた。
そして、それを見た考助は、言わなくてもいい一言をリリカに向かって言った。
「うーん。なんというか、何年たってもリリカは変わらないなあ」
「あ、いえ、はい。す、すみません?」
考助の反応に、どう応えていいのか分からなくなったリリカは、混乱しながらなぜか謝った。
ここでシルヴィアが、ため息をつきながら割って入った。
「このままでは話が進みませんので、そろそろ終わってもらってもいいでしょうか?」
「あ、はい」
シルヴィアの提案(?)に、考助が素直に頷いた。
そして、リリカは戸惑った表情になった。
「あの・・・・・・私は、ココロにここに来るように言われただけで、なにをするのかまでは聞いていないのですが・・・・・・」
「ああ、それは仕方ないですね。なにしろ、私たちもわかっていないのですから」
「はい?」
シルヴィアの説明に、リリカはますます意味が分からないという顔になる。
ここでシルヴィアが、リリカを管理層に呼んだ説明を行った。
それでリリカは納得した顔になったのだが、問題は考助だ。
シルヴィアが説明を終えると、さらりと付け加えてきたのだ。
「まあ、お陰であの時感じた『気になること』がなにか、わかったから来てもらって良かったかな?」
「「本当ですか!?」」
考助の言葉に、シルヴィアとココロが驚いた。
シルヴィアとココロの反応に、考助が頷いた。
「うん、本当。・・・・・・というか、そこまで驚くことはないだろうに。そもそもリリカをここに呼ぶように言ったのは、ココロだよね?」
「それはそうなんですが・・・・・・」
確かにそう提案したのはココロだが、まさかこんなにあっさりと解決するとは考えていなかったのだ。
「それで、気になることとは何だったのでしょう?」
驚きから立ち直ったシルヴィアが考助にそう聞くと、ココロとリリカの視線が考助に向いた。
「まあ、そんなに大したことではないんだけれどね。リリカが良ければ、そろそろ引退して管理層でのんびり暮らしたらどうかなと思ってね」
「えっ!?」
唐突すぎる考助の提案に、リリカが驚いた顔になる。
いままで全くそんな話を聞いていなかったのだから、驚くのは当然だ。
一方で、先日のエリとの話を聞いていたシルヴィアは、納得の顔になった。
「そういうことでしたか。確かに、引き際としてはちょうどいいでしょうね。私もリリカにはこっちでやってもらいたいことがありますし」
「は、初耳ですよ!?」
シルヴィアの言葉に驚くリリカに、その当人が頷いた。
「初めて言いましたからね。いないならいないで何とかなりますし・・・・・・いてくれれば私が多少楽になる程度のことです。ですが、せっかくのコウスケさんの提案です。考えてみてはどうでしょう?」
「・・・・・・急なことですので、今すぐ答えるのは・・・・・・」
そう言い淀むリリカに、考助は当然だと頷いた。
「それはそうだよ。いきなり答えを出せなんて言わないから。ただ、そんな道もあるよと言いたかっただけ」
考助がそう言うと、シルヴィアもそうですねと頷いた。
いきなりすぎることは、考助もシルヴィアも自覚しているのだ。
結局、リリカが答えを出すのにはしばらくの時間がかかるのだが、どの道を選ぶことになるのか考助たちが知るのはまだ先のことなのである。
前話のエリに続いて第二弾です。
初期に登場している人たちは、そろそろいい年ですからね。
世代交代も含めて、今後は管理層かどこかの階層でのんびり過ごしてもらおうかと画策中ですw
※明日は二話更新、内一話はちょっとした特別篇をお届けします。
間に挟む投稿時間は0時ちょうどです。(二話目はいつも通りの時間)
何のネタかは、時間でお判りになるかと思いますw




