(4)嬉しい報告、悲しい決定
その日、管理層はお祝いモードに包まれていた。
それもそのはずで、無事に第一子の出産を終えたシュレインが、子供――シュウとともに管理層に来ているのだ。
皆が無事に生まれてきたことを喜んでいるのだが、なに気に一番嬉しそうにしているのはミクだった。
「この子が私の弟になるの?」
「ああ、そうじゃ」
うきうき顔で尋ねて来るミクに、シュレインがこれまたにこやかな笑顔で頷いた。
ミクにとっては、初めての弟になるので、それはそれは嬉しそうだった。
そのミクの様子に、他のメンバーもつられるようにして笑顔が深くなっている。
どれだけ見ていても見飽きないと主張するように、ミクはその場所から離れずに、ずっとシュウのことを見ていた。
「そうじゃ、ミク。せっかくじゃから、シュウのために、何か曲を弾いてくれないかの?」
「曲? ストリープでいいの?」
「勿論そうじゃが・・・・・・まさか、ストリープ以外もなにか弾けるようになったのかの?」
シュレインが少し驚いたような顔でピーチを見たが、実の母親も驚きの顔になっている。
やはり違ったかと安心した(?)シュレインだったが、ミクは笑顔のまま大きく頷いた。
「うん! 先生に横笛も教えてもらったの!」
ミクが元気よくそう返事をすると、その場にいた全員の視線が、ピーチに集まった。
「えっ!? し、知りませんよ、私は!」
プルプルと首を左右に振りながら答えるピーチを見て、本当のことだと理解できた。
となると、一体誰がそんなことを言い出したのかということになるのだが・・・・・・。
その事実に気付いたのは、さすがというべきか、その当人の実の母親だった。
「ふむ。ミア、どうせ逃げられないのだから、さっさと弁明したほうがいいと思うぞ?」
「ちょっと! 弁明ってどういうことですか! べ、別に悪いことはなにも・・・・・・」
していません! と続けようとしたミアだが、周囲の視線からたじろぐ姿はまったく説得力がなく、尻すぼみになって行った。
「なるほどね。まあ、ミアへの追及は後でするとして、いまは、ミクの演奏を聞こうよ」
自分が何かをやらかしたのかと不安そうな顔になってフローリアとミアを見比べているミクを見ながら、考助がそう助け舟をだした。
しっかりと追及はすると言ったところで、ミアが落ち込んでいたが、他の面々は完全にスルーしていた。
ミアの様子には気づかなかったミクは、嬉しそうにストリープを抱え込んで、演奏をする体勢になった。
それを見た考助が「いつでも始めていいよ」と声を掛けると、ミクは演奏を始めた。
シュウに聞かせるように穏やかな曲を弾き始めたミクは、さらに腕を上げていた。
しかも、魅了の力に頼るのではなく完全に力を制御したうえで、自らの腕だけで弾いていた。
しばらくミクの演奏に聞き入っていた考助が、ぽつりと呟いた。
「正直、これだけで十分贅沢な生活を送っているといえるよね」
「そうだな(ですよね)」
両隣に座っていたフローリアとミアが、考助の感想に同意してきた。
「まあ、だからといって、ミアのことを見逃すわけじゃないけれど」
「そうだな」
「そこは見逃すと言って!」
「駄目」
若干涙目になってそう言ってきたミアだったが、考助は短く答えて、首を左右に振った。
ミクの音楽に付随した魅了の力は、いつ何時爆発するかわからない。
それを考えれば、横笛をミクに与えたミアは、迂闊だったともいえる。
ただ、まだミア本人からなにを考えて渡したのかを聞いていないので、考助としては保留にしているのだ。
さらにいえば、なぜそのことを考助たちに黙っていたのか、という問題もある。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
ミクに好きなだけストリープを引いていていいよと言い置いて、考助たちは別の部屋へと移動した。
シュレインは、シュウと一緒にミクのストリープを聞いているので、来ていない。
「それで? とりあえず、言い訳を聞こうか」
「言い訳って・・・・・・最初から怒る気満々ですか・・・・・・」
考助の言い方に、ミアはガクリと項垂れた。
珍しくお怒りモードになっている考助に、ミアの心臓はドキドキしっぱなしである。
それに気付いたフローリアが、多少慰めるようにミアに声をかけた。
「仕方ないだろう? ミクの力のことは、ある意味子供たちの中では最重要事項だ。当人にもどうすることもできないのだからな」
これが、セイヤとシアの精霊術のようにきちんとコントロールできるというのであれば、考助もここまでミアのことを責めるような態度には出なかっただろう。
だが、ミクの魅了の力は当人がコントロールできるようなものではない。
この力が表に知られれば、どんな扱いになるか知れたものではない。
いざとなればコウヒやミツキがいるので最悪の事態にはならないのだが、下手をすればミクは、一生を塔の中で過ごすことになってしまう。
フローリアの言葉にコクリと頷いたミアは、そろそろと話を始めた。
「最初のきっかけは、城でミクが演奏しているときのことでした。一緒に演奏していた楽団の人が、ミクに横笛を渡したのです」
最近のミクは、楽団に混じって演奏することもあった。
その場合、ミアがすぐに手を出せる範囲にいないので、止めることができなかったのだ。
楽団と一緒に演奏をさせること自体が迂闊といえば迂闊だったのだが、期待するミクの視線と人前で演奏することになれて来ていたので、つい許可を出してしまったのだ。
その後は、なし崩し的に何度か一緒に演奏することになり、何度目かの合奏時にその楽団員のひとりがミクに横笛を渡したのだ。
「私が気付いた時には、もうすでにミクは演奏を始めていました。ただ、そのときの演奏でも特に魅了の力は出なかったのと、一緒に聞いていたフェリシアも大丈夫だと言っていたので・・・・・・」
特に問題ないだろうと、そのまま演奏させることにしたのだ。
ついでに、ミクが横笛を吹けることがわかったフェリシアが、その後も続けて練習をさせていたようだった。
ミアの話を黙って聞いていた考助は、納得の表情で頷いた。
「なるほどね。とりあえず、きっかけがミアには止められなかった状況だったということは理解できたよ。ただ、そのことをなぜ僕ら・・・・・・はともかく、ピーチにも黙っていたの?」
「ええと、それは・・・・・・」
一瞬言い淀んだミアは、諦めたようにため息をついてから告白した。
「ミクから上手になって驚かせたいから黙っていてほしいと言われて・・・・・・つい」
「あ、あ~・・・・・・なるほど」
ミクからそう言われてしまえば、考助であってもそのお願いを聞いてしまう自信があった。
考助が周囲を見れば、固かった空気が弛緩して、多少ミアに同情する向きになっている。
そして、ミクの実の母親であるピーチは、完全にミアに同情するような表情になっていた。
日ごろからミクの「お願い」を断っているピーチは、その苦労がよくわかっているのである。
だからといって、ミアを完全放免するわけにはいかない。
さてどうするかと悩んだ考助は、
「とりあえずミアは、しばらくリトルアマミヤへの出入りは禁止ね」
「そ、そんなっ!?」
考助の沙汰に、ミアは悲鳴のような声を上げたが、他の面々はそんなものかと同意する顔になっていた。
リトルアマミヤにもゴーレムはいるので、眷属たちが飢えることはない。
塔に出入りできなくなるミアが罰を受けるだけで、他への影響は最小限なので、妥当なところだろうと判断されたのであった。
というわけで、(ミアにとっては)嬉しい報告、悲しい決定でしたw
あとは、結局甘々お父さんということになるのでしょうか。
ミクの将来のことを考えれば、この処分が軽いのか重いのかは・・・・・・微妙なところでしょうね。
ちなみに、ミアにとってはかなりの痛手ですw
あ、あとシュウの漢字は、一字で星になります。
こんな読み方、調べない限りは絶対に読めません。(ネット様様ですねw)
読みに関しては、某担当者さんのご意見をそのまま盗よ・・・・・・活用しました。(ありがとうございます)




