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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 新たな大地と種族
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(8)神の勅言

 その日、アースガルドは数世紀ぶりの事態に、大いに揺れた。

 神々からの勅言。

 それは、神々が大地に住まうすべての人々に対して、神の言葉を伝えることである。

 ある地域に降臨したり、極限られた人々に交神をしたりすることはあるが、多くの人々に伝える勅言となると限られた前例しかない。

 その勅言が、その日の昼間に行われたのだ。

 その日の勅言の対象となったのは、子供を除いたほぼすべての人々だった。

 頭の中に言葉が流れた瞬間に神からの言葉だと理解でき、中にはその場で泣き出し跪くものまで現れた。

 そんなことが起こったにもかかわらず、暴動などの騒ぎにならなかったのは、神からの勅言だったためだろう。

 

 神からの勅言の内容は、アースガルドに新たな種族を迎え入れるというものだった。

 しかも、その種族は背に一対の翼を持っていて、人々が知る代弁者とよく似ているという。

 ただし、代弁者とはまた別の存在であるため、ゆめゆめ注意をするようにということが、人々に説明された。

 さらに、その新しい種族――天翼族は、現人神・・・によって作られた新たな大地に住まうことになるということが知らされたのである。

 

 その勅言を聞いた一般の人々は、新しく世界に加わる種族について思いを馳せ、新しい大地とはどんなところなのかと想像に胸を膨らませた。

 そして、支配層にいる者たちは、新たな権益になるのではと野望に頭を働かせる。

 そんな中で、ついに勅言にあった通り、新しい種族とその種族が住むための大地が現れた。

 その場所は、セントラル大陸の北側海上であった。

 幸運にも新しい大地・・を見ることができた人々は、その予想外の場所に驚くこととなる。

 なにしろ、その大地は、空の上に浮かんでいたのだ。

 

 幸いにして(?)その大地が浮かんでいたのは、人々が住んでいる場所からは離れていたために、ある程度の全景を見ることができた。

 といっても、小さめの島ほどの大きさのその大地は、遠目からは♢(ダイヤ)のような形をしている位しか分からなかった。

 そして、恐らくその大地の上にいるであろう天翼族は、残念ながら姿を見ることはできなかった。

 それでも、神々の勅言という非常に珍しい体験をして、それが正しいものだったと確認できた人々は、興奮した様子でその大地を見ているのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

「随分と騒がれているようですね」

 浮遊島からセントラル大陸の様子を見ていたエイルが、誰にいうでもなくそう呟いた。

 既にアースガルドに移動してきたため、浮遊島にはエリスを始めとした女神たちは存在していない。

 考助だけは、もともとの住まう場所がこの世界であるため、天翼族たちと一緒に移動してきていた。

「うん。まあ、それはそうなるだろうね」

 別に返答を求めての呟きではないことはわかっていたが、エイルのつぶやきが聞こえた考助は、そう返した。

 女神たちから新しい種族が増えるとお告げがあっただけでも驚きなのに、空飛ぶ島が現れれば騒ぎにならないはずがない。

 遠すぎて実際の騒がしい様子を見ることができていない考助は、冷静にそう判断することができた。

 

 セントラル大陸では、浮遊島を見て騒いでいるようだったが、浮遊島にいる天翼族は考助からは意外に落ち着いているように見えた。

「天翼族はあまり騒いでいないね?」

「もとから新しい世界に移動することはわかっておりましたし、いまは島自体を把握することで忙しいですから」

 浮遊島には城はあるが、建物はひとつだけなので、移ってきた全員が落ち着いて生活できる場所はまだない。

 そのため、まずは人々が生活できる建物から作ってかなくてはいかない状態なのだ。

 さらに、島全体の調査もまだ不十分なので、まずはそこから調べなければならない。


 はっきりいえば、いまはまだ、島外の世界に目を向ける余裕がないのである。

 勿論、いずれは外にも目を向けなくてはならないのだが、それは中々難しいということもエイルは把握していた。

 というのも、世界を移動してくる前のエリスの教えにより、天翼族がアースガルドではどこに行っても目立つ存在だということを聞いていた。

 なぜなら、この世界には、背に翼がある者は特別視をされていて、さらに天翼族以外には存在していないためだ。

 そんな目立つ存在が、簡単に世界中に出向くわけにもいかない。

 下手をすれば余計な騒動に巻き込まれることはわかっているので、まずは話し合いの結果、様子を見ることになっていた。

 

「まずは、島内での生産に力を入れたいところですね。・・・・・・ゴブリンでもいればいいのですが」

 最後にぽつりと付け加えられた言葉に、考助はそのまま聞き流すところだった。

 だが、その言葉が頭に入ってきて、遅れてその意味が理解できたときに、思わず呆けた声を出してしまった。

「へっ!?」

「どうかなさいましたか?」

 間の抜けた声を出した考助に、エイルが首を傾げた。

「いま、ゴブリンでもいれば、と言った?」

「はい? 言いましたが・・・・・・まさか、いるのですか!?」

 考助が驚いている意味に気付いたエイルは、これまた考助と同じように驚いた。

 

 考助は考助で、エイルの言葉に驚いている。

 なぜなら、話の流れからあることが予想できたためだ。

「もしかして、天翼族って、ゴブリンを労働力とかに使ってた?」

「あっ、はい。彼らは食事さえ与えておけば、良くいうことを聞いてくれますから。ある程度の強さがあれば、彼らの性の対象にもなりませんよ?」

 エイル曰く、最初のうちに強さを見せつけてしまえば、ゴブリンたちはよく働く労働力として重宝するそうだ。

 勿論、代が変わるごとに強さを見せなければならないが、それは大した手間ではない。

 個々の戦闘力が強い天翼族にとっては、ゴブリンは使い勝手のいい労働力なのである。

 

 エイルの説明を聞いていた考助は、考え込むような顔で頷いた。

「なるほどね。ゴブリンをね。こっちの世界のゴブリンと、エイルの知るゴブリンが同じであるかどうかはわからないけれど・・・・・・」

「そうですね。その辺は慎重に調べなければなりませんね」

「いや、それもそうなんだけれどね」

 なにやら口を濁して考え続ける考助に、エイルは首を傾げた。

 

 そのエイルに、考助は自分が管理している塔にいるゴブリン(眷属)について話をした。

「なんと!? そのような存在が?」

 さすがです! と続けたエイルに、考助は苦笑を返した。

「いや、さすがかどうかはともかくとして、エイルさえよければ、眷属のゴブリン、使ってみる? 色々見せなければならないこともあるけれど」

「是非お願いします!」

 エイルはそう言いながら、両手を前に組んで前のめりになるようにして、考助に近寄ってきた。

「ああ、うん。わかったよ。エイルさえよければ、今度塔に・・・・・・」

「コウスケ様! エイルさま! 緊急事態です!」

 案内するから、と続けようとした考助だったが、城の外から駆け込んできた天翼族のひとりに止められた。

 その様子を見れば、なにか緊迫した事態が発生していることはわかる。

 

 慌てた様子の天翼族に、エイルが顔を引き締めて問いかけた。

「なにがあった?」

「は、はい! この浮遊島に向かって近寄って来る物体があるようです! その数ふたつ!」

 その報告に、エイルはどうしようかと考助を見て、すぐに首を傾げた。

「コウスケ様?」

 エイルが振り返った先で考助は、こめかみに手を当てていたのだ。

「あ~、うん。とりあえず大丈夫だから、島の結界を解いて迎え入れてあげて。あと、たぶん、ここに直行してくるから、それまで手出しは厳禁ね」

 思い当たりがありすぎるその存在に、考助はため息をつきながら天翼族にそう指示を出すのであった。

※勅言は、私が作った造語ですので、辞書で調べたりしないようにお願いします。

意味はまあ、言葉の通りですw



さあ、果たして浮遊島に何が近付いてきているのか!

次回「本当の狂信者!」

 ※タイトルはまだ未定です。


(わざとらしい終わり方になったので、珍しくタイトル予告もどきをしてみたかった)

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