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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 新たな大地と種族
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(6)移動の準備

 考助のあずかり知らぬところで天翼族の移住計画は、着々と進んでいた。

 といっても、別に故意に隠していたわけではない。

 単に、浮遊島を作るのに一番忙しかったのが考助だったので、細かい内容まで知らせる時間が無かったのだ。

 合間を縫って、天翼族のことは話に聞いていたが、どのようにアースガルドに浮遊島を移動させるかなどはまったく聞いていなかった。

 そのため考助は、エリスにその素朴な疑問をぶつけた。

「ところで、どうやって浮遊島を移動させるの? 天翼族――エイルたちは先に移動させてからとか?」

 それだったら今のうちから浮遊島に連れて来る意味はないよなあと思いながらも、考助は首を傾げた。


 その考助の疑問に、エリスは首を左右に振った。

「勿論、違いますよ。天翼族はこのままで、浮遊島ごとあちらに移動します」

「へー。そうなんだ。どうやって?」

「どうやっても何も・・・・・・考助様もできるのではないですか?」

 不思議そうな顔でそう聞いてきたエリスに、考助はキョトンとした顔になった。

「考助様もご自身の神域が創れるはずです。それを、その中身をそのままアースガルドに開放すればいいのですよ」

「え、あー・・・・・・なるほど。確かに言われてみれば、できるかもね」

 そもそも神域を、そんな使い方をするつもりのなかった考助が、感心した表情で頷いた。

 

 確かにエリスの言う通り、自ら創った神域は、壊す際にその中身をそっくりそのまま別世界に移すことが可能だ。

 もっとも、考助の場合は、移す場所がアースガルドか自分が創った神域だけと限定されているので、試そうとすら思わなかった。

 そもそも作った神域の中身を移す必要に迫られたこともない。

 エリスから言われて、ようやくそのことに気付いたというのは、そうした理由からである。

 

 考助の様子を見てクスリと笑ったエリスは、

「はい。できるのです。というわけで、天翼族は浮遊島ごと、アースガルドのセントラル大陸の上空に移動することになります」

「なるほどn・・・・・・ん? ちょっとまった。いま、おかしなこと言っていなかった?」

 少しばかり聞き捨てならないことを耳にした考助は、目をパチクリとさせてからエリスを見た。

 ところが、見られた本人は、なにがおかしいのかわからないという感じで、首をかしげている。

「いや、だから。セントラル大陸の上空って・・・・・・? なんでわざわざ目立つ方法を?」

 いくら小規模な島といっても空を飛ぶにしては、かなりの大きさがある。

 はっきり言えば、そんなものがいきなり現れれば、目立つなんてものではないだろう。

 

 ここで、これまで出来るだけ目立たないようにしてきた考助の性格が出たわけだが、エリスはまったく逆のことを言った。

「目立たせるためですよ」

「えっ!?」

「はあ。やはり考助様はそう考えるのですね。では逆に聞きますが、天翼族がいきなりアースガルドの住人の前に姿を現したら、どうなると思いますか?」

 そうエリスに問われた考助は、ふたりの会話を黙って聞いていたエイルの背中にある翼(・・・・・・)に目を向けた。

「あっ!」

「はい。そういうことです」

 最初から天翼族のことを目立つように動いている理由に気付いた考助に、エリスは考助の言葉を聞かずに同意した。

 

 これまでアースガルドにおいて、背中に翼を持つ者というのは、代弁者と呼ばれている存在だけだった。

 そんな状態で大量の天翼族がいきなり現れれば、控えめにいっても世界中が混乱に陥るだろう。

 さすがにそんなことは、アスラを始めとした女神たちも望んでいないので、神託とともに浮遊島をアースガルドに出現させることを決めたのだ。

 さらに、神託の信憑性を上げるために、セントラル大陸の上空に出して、きちんと人々の目に付くようにしたのである。

 

 エリスたちの思惑が分かった考助は、納得の表情になりながらも微妙に渋い顔になった。

「そうか。となると、ある程度天翼族は、他の種族と交流を持つことになるんだね」

「そうでしょうね」

 考助の言葉に、エリスも頷いた。

 

 アースガルドの世界には、飛行機や空飛ぶ船といったものはない。

 あえて挙げるなら、スーラが乗っている天空石が一番近い魔道具だろう。

 ただ、だからといって、人々が空を飛ぶ手段がまったくないわけではない。

 この世界には魔法という存在があるので、個人であれば浮遊島と交流を取る方法はいくつかあるのだ。

 そうなれば、当然天翼族と接触することになり、そこから芋蔓式に天翼族の考助への信仰心が――。

 

 と、ここまで考助が考えたところで、エイルが首を傾げながら考助を見て来た。

「コウスケ様、我々が他種族と交流を持つことに、問題がありますか?」

 現在に問題があるなら独自で島に籠って生活をするという顔になっているエイルに、考助は「うっ」と詰まった。

 考助的には、自分を持ち上げるであろう天翼族には、できるだけ表に出て欲しくないという思いはある。

 ただ、それはあくまでも考助自身の「わがまま」であって、そんなことで天翼族を縛ってはいけないという考えの方が強い。

 純真な眼で自分を見てくるエイルに、考助は内心で盛大にため息をつきながら首を左右に振った。

「いいや。特に問題はないよ」

「そうですか。良かったです。我々だけで文化を築こうとすれば、やはりどこかにいびつなところは出てきますから」

 どこまでも天翼族のことを考えてそう言ったエイルに、我欲にまみれたことを考えていた考助は、心の中で「ごめんなさい」をするのであった。

 

 

 こんなことを考助たちが話をしている間に、天翼族の島内調査は進んでいるようで、続々と城にいるエイルの元に報告が入っているようだった。

 報告が上がってくるたびに、エイルの顔が明るい物になって行くのを見て、考助は思わず聞いてしまった。

「・・・・・・ごく普通の島のはずなんだけれど、そんなに喜ぶようなことがあった?」

 考助の問いかけに、エイルは一瞬キョトンとしたあとで、自虐気味な表情になった。

「ごく普通であることが、私たちにはありがたいのです。・・・・・・なにしろ、以前の世界では、一方的に外れ者にされていましたから」

「あ~。なるほど。ごめん」

 エイルの短い説明で、なんとなく事情を察した考助は、すぐに頭を下げた。

 以前の世界でのエイルたちの扱いが良くなく、土地なども碌な所でなかったことが理解できたのだ。

 アスラがこの世界にエイルたちを転移させてきたのもよくわかる。

 

 ところが、そんな考助に、エイルは慌てた様子で頭を勢いよく左右に振った。

「いいえ! なにもコウスケ様が謝られることはありません。おかげで、こうしてコウスケ様を主神とできたのですから!」

 そう力説してきたエイルに、考助は微妙に引きつった顔になった。

「あ、はい。ソノトオリデスネ」

 棒読みになりながら半歩だけ下がった考助に、エイルは気付かなかったが、横で話を聞いていたエリスは笑いをこらえるように口元を右手で隠した。

 

 そして、自分をにらんでくる考助を軽く躱しながら、エリスはエイルに話しかけた。

「そろそろ移動の準備ができそうです。天翼族もそのつもりで」

「畏まりました。すぐに皆を集めます」

 多くの天翼族は島の調査のために、各場所を飛び回っている。

 アースガルドに移動する際は、不測の事態に備えるために、一か所に固まるように伝えているのだ。

 エリスの言葉にエイルが仲間のひとりに指示を出して、すぐにその者は、他の者たちに伝えるべく城の外へと飛び出すのであった。

こうして考助包囲網(?)が段々狭まって行きますw

アースガルドへの移動は次話。

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