(10)考助の傍にいる女性たち
リクとカーリのところに、ダーリヤが近寄ってきてフローリアを見た。
「あのままで大丈夫なのでしょうか?」
「うん? ああ、コウスケとシルヴィアか。大丈夫だろう、多分。・・・・・・気になるんだったら、甘砂糖を直接舐めるような覚悟で見に行ったらどうだ? 怒られはしないと思うぞ?」
笑いながらそう言ったフローリアに、ダーリヤは勢いよく首を左右に振った。
「馬に蹴られたくないので、行きません」
「そうだな。それが賢明な判断だと思うぞ」
ダーリヤの反応に、フローリアは大きく頷いた。
そんなフローリアを、カーリが不思議そうな顔で見ていた。
「どうした?」
「いえ。・・・・・・私たちはそれでいいのですが、フローリアさんは追いかけなくてもいいのかと思いまして」
フローリアが考助の夫人のひとりであることは、周知の事実である。
リクという結果がそばにいるのだから、それは否定しようのない事実である。
だが、だからこそ、仲良くしている考助とシルヴィアを見て、焦りなどの感情を覚えたりしないのかとカーリは不思議に思ったのだ。
そんなカーリに、フローリアは肩をすくめて答えた。
「そんなことをしたら収拾が付かなくなるだろう?」
言外に、自分が行けば、他のメンバーも加わっておさまりが付かなくなると言うフローリアに、カーリは納得したようなもしくはできないような複雑な表情を浮かべた。
そのカーリの顔を見て、フローリアは小さく笑ってさらに続けた。
「いまでこそ、考助の傍にいる女たちは、それぞれ里に戻ったりしているが、そうでなかった頃は全員がこの管理層にいたからな。一々他の女のやることに目くじらを立てていては、なにもできなくなってしまうだろう?」
だからこそくつろぎスペースではイチャコラ禁止なんてルールができたのだ、とフローリアは続けた。
フローリアを含めた考助の傍にいる女性たちが、よく聞くような争いをせずに仲良く過ごせているのは、考助自身の性格というよりは、女性たちのふるまいによるものが大きい。
誰が主導権を握るのかという争いすらなくここまでこれているのは、そうした細かい努力があるためだ。
勿論、それぞれの種族で恋愛に対する考え方の違いというのも大きいのだが。
付け加えていえば、それぞれの女性たちが得意とする分野が違っているというのもあるだろう。
もしこれで、同じ分野の女性がいたとすれば、もしかしたらその中での上下争いのようなものが出て来た・・・・・・かもしれない。
もっとも、これはあくまでも仮定の話で、絶対にそうなっていたわけではない。
「そうですか・・・・・・」
自分の話に小さく頷きながら視線をリクへと向けたカーリに、フローリアはにやりとした表情になった。
「ほうほう。そうか。そういうことか」
「・・・・・・えっ? あれっ? いや、そういうことじゃないですよっ!?」
フローリアの顔の意味に気付いたカーリは、慌ててそう言いながら右手をパタパタと振った。
もっとも、そんな態度を示していること自体が、答えを言っているようなものだった。
「カーリ。語るに落ちている」
容赦のないダーリヤからの突っ込みに、カーリはガクリと肩を落とした。
カーリとダーリヤのやり取りに、フローリアは相変わらずニヤニヤとした表情を向けている。
「まあ、リクの奴は誰かさんに似て、鈍いなんてもんじゃなさそうだから、頑張れとしか言いようがないな」
「・・・・・・応援、してくれるのですか?」
恨みがましいような、期待をしているような顔になるカーリ(とダーリヤ)に、フローリアは首を左右に振った。
「さて、どうだろうな? 私が味方をするのは、リクだからな。母親というのは、どこまで行っても我が子の味方だよ」
少し離れた場所で相変わらずほかの仲間たちと話をしているリクを見ながら、フローリアは目を細めた。
それを見ていたカーリとダーリヤは、その顔の中に確かに親としての愛情があるのを感じていた。
ふたりの視線の意味に気付いているのかいないのか、フローリアはふとなにかを思い出したような顔になった。
「ああ、そういえば、先ほどの話は、話半分に聞いておいた方がいいぞ? 特に私たちの場合は、参考にならないと思うぞ?」
「えっ!? それは、なぜですか?」
考助たちのようなあり方に憧れを抱いているカーリが、少し驚いたような顔になってそう聞いてきた。
「あー、そうか。これには気づいていなかったのだな。――――端的にいえば、私たちには、絶対の強者がいるからな」
なにかを言い含めるようにそう語ったフローリアの言葉を聞いて、カーリは思わず納得の表情になった。
フローリアがいう絶対の強者というのは、いうまでもなくコウヒとミツキのことだ。
このふたりは、男性女性に限らず、考助に近付いてくる者で、考助の邪魔になるようなことをすれば、容赦なく排除するだろう。
それは、男女関係においても同じことだ。
もし、誰かが平穏な関係を壊そうとすれば、間違いなくどちらかが動くだろう。もしかしたら両方動くかもしれない。
コウヒとミツキは、考助が絡むと情け容赦なく行動するので、考助の近くにいる者たちは、常にふたりの存在を意識しているといってもいいだろう。
もっとも、だからといって、恐怖政治のような状態になっていないのは、これまでのそれぞれのメンバーの立ち回りが上手くいっているということになる。
なんともいえない顔になったカーリに、フローリアが笑った。
「ハハハ。そんな顔をするな。いまでこそこんな偉そうなことを言って語っているが、そもそも私がそのことに気付いたのは、リクが生まれてから後のことだぞ?」
「え? そうなのですか?」
てっきり、最初から気付いていたのかと思っていたカーリは、きょとんとした顔になった。
「だから言っただろ? コウヒやミツキは、考助が絶対だと。私たちにそんなことを簡単に気付かせるような行動を取るはずがないだろう?」
フローリアを含めた女性陣が、最初からコウヒとミツキという絶対の存在を意識していれば、ここまで仲良くなることはできなかっただろう。
逆にいえば、コウヒとミツキが気付かせても問題ない、あるいは気付かせる必要があると考えたからこそ、自分は気付けたのだとフローリアは考えている。
「これは恐らくだが、ほかの者たちも同じじゃないかな? あくまでも私の予想だが」
最後にそう付け足したフローリアに、カーリは大きくため息をついた。
「なんというか・・・・・・凄まじいですね」
「ああ。まあ、代弁者というのは、そういう存在なのだろうな」
カーリたちは、すでにコウヒとミツキが代弁者であることは、リクから聞いている。
だからこそ、フローリアは、あっさりとそう返答したのである。
「まあ、私たちのことはこれくらいにして、其方たちはどうなっているんだ?」
「えっ!? いや、特には・・・・・・」
突然の話の方向転換で顔を赤くしたカーリに、フローリアは苦笑した。
「ああ、いや、済まない。そっちの話ではなく、冒険者ランクの話だ。そろそろSランクになってもいい頃だろう?」
「あ、そっちですか」
自意識過剰と思われる自分の反応に、カーリは思わずがっくりとしてしまい、代わりにダーリヤが答えを返した。
「どうでしょうか。Sランクは、倒してきたモンスターの質も関係していますからね。そうそう簡単にはいかないと思います」
「そんなものか? 其方たちであれば、それなりのモンスターを倒しているだろう?」
「そうなのですが、やはりSランクには足りないですよ。無理に倒しに行こうとは思いませんし」
なによりも安全第一と続けたダーリヤに、フローリアも納得の表情になった。
「まあ、それもそうか。本人たちがそれでいいと考えているのであれば、いいさ」
下手につつけば、妙なフラグになりかねないので、フローリアも敢えてそれ以上は突っ込まなかった。
そのことがすでにフラグになっている・・・・・・のかどうかは、それこそ神のみぞ知る、といったところであろう。
フラグかどうかは、私も知りません。(キリッ)
ちなみに、今話で第十一部第一章は終わりになりますが、第二章はまったく別の話ですw
・・・・・・十話くらいで終わればいいな。(これがフラグになったりして)




