(6)ごく普通の日常
フローリアは、くつろぎスペースの一角でふわふわと浮いている物体を見ながら首を傾げた。
「コウスケ。これ、このあとどうするつもりなんだ?」
「んー。いや、実は、なんとなく思いついただけで、なにに使うかまでは考えていないんだよね。どうしようか?」
寝転がっていたソファから上半身を起こして、考助はフローリアのいるほうを見る。
ふたりの先にある浮いている物体は、先日考助が作り上げたものだ。
いまでは、立方体だった箱の周囲が、なぜか綿のような物でおおわれている。
ちなみに、その綿のようなものは、とあるモンスターの体毛を寄せ集めて作られたものである。
考助がしばらくの間、箱の状態のままで放置していたのだが、どこから集めて来たのかスーラがペタペタと貼りつけて行ったのだ。
スーラがどのようにしてそれらの体毛をくっつけているのかは、考助にもわかっていない。
一応、スライムが出せる特殊な分泌液を使っているのだろうという予測はしているが、本当のところはわかっていない。
考助に利用方法を聞かれたフローリアは、初めのうちは真剣に考える様子を見せたが、突然なにかを振り切るように首を左右に振った。
「・・・・・・どうしたの?」
突然の動作に、考助が少しばかり驚いてフローリアに問いかけた。
「いや。色々と考えたのはいいが、コウスケならすべて実現してしまいそうでな」
「フーン。・・・・・・例えば?」
何気なく聞いてきた考助に、フローリアはつい素直に答えてしまった。
「そうだな。もっと規模を大きくして、空飛ぶ輸送船なんてつくったらどうだ?」
「へー。面白そうだね」
こういった考助の口元が歪んでいたりしたが、幸か不幸かフローリアは珍しくそのことに気付かなかった。
そして、畳みかけるように考助に聞かれて、つい続けて答えてしまう。
「ほかには?」
「ほかか? 空中を移動できる要塞なんて有れば・・・・・・はっ!?」
途中まで答えたフローリアだったが、ここでようやく考助のニンマリとした表情に気が付いた。
「なんだ。なんだかんだ言って、フローリアだって十分非常識じゃないかな?」
「いや、待て。いまのは、為政者が皆考える夢の道具であって、実現しようなんてことはこれっぽっちも考えてない!」
慌ててそう切り返してきたフローリアに、考助がジト目になって聞き返した。
「へー。そうなんだ~」
「・・・・・・・・・・・・タブン」
わざとらしく視線を逸らしながらそう答えたフローリアは、説得力というものが皆無だった。
考助としても別にフローリアを責めるつもりで出した話題ではなかったので、それ以上突っ込むことはしなかった。
「まあ、それはともかくとして、少なくともいま浮いているあれだけじゃあ、そんなものを作るのは無理だけれどね」
「・・・・・・なにやら引っかかる言い方だが、そうなのか?」
「うん。だって、あれ、人一人乗るのがやっとだから」
非常に単純明快な考助の回答に、フローリアは拍子抜けしたような顔になった。
「なんだ。思ったよりも性能が低いな」
「まあ、試しに作ったものだからね。ただ、あれを作ったお陰で、もっと性能がいいものは作れると思うけれど、試してみる?」
いたずら小僧のような顔になった考助を見て、フローリアはわずかに呆れたような顔になって首を左右に振った。
「やめておこう。其方が本気を出すと、私が先ほど言ったものよりも、とんでもないものが出てきそうだ」
「ハハハ。まあ、それは間違っていないね」
フローリアの言葉に、考助は否定せず笑うだけにとどめておいた。
ちなみに、このときの会話が、後にとんでもない事態を引き起こすことになるのだが、未来を予測する能力のないふたりは知らずに暢気に笑っていた。
もしこの場にピーチでもいれば、もしかしたら流れが変わったのかもしれないが、実際にはいなかったので考えても仕方のないことなのであった。
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スーラが考助の作った浮遊装置(仮)に興味を持ったのは、特に大きな理由はない。
強いていうなら、浮いているときの感覚が居心地が良かったので、こだわりを持って魔改造(?)を行ったのだ。
スーラがやることを考助が止めなかったのも、浮遊装置(仮)に綿毛が集められ続けられた理由のひとつとなっている。
完全にスーラの遊び場と化していた浮遊装置(仮)だが、現在最大の危機に陥っていた。
浮遊装置(仮)は、ただ浮いているだけのものなので、完全にただその場に浮いているだけである。
勿論、スーラが飛び乗ったときには動いたりするのだが、それはあくまでもそのときの勢いと惰性で動いているだけなのだ。
ところが、その動きが気に入ったのか、スーラが乗っている浮遊装置(仮)に、攻撃を仕掛ける者が出てきたのである。
「っ!?」
そのときもスーラがのんびりと浮遊装置(仮)の上で休んでいた。
ところが、突然の攻撃に、浮遊装置(仮)が、パンチされた勢いでスススーっと移動した。
慌てて体勢を直したスーラは、浮遊装置(仮)から落とされないように、思いっきり踏ん張った。
ここでポイントなのが、力を入れすぎるとスーラ自身の重さで浮遊装置(仮)が落ちてしまうことだ。
落ちない程度に力を入れて踏ん張るのが重要なポイントだ。
そうこうしているうちに、攻撃者が新たな攻撃を加えて来た。
まったく別方向からの攻撃に、スーラは再び体勢を整えなくてはならなかった。
一応スーラは、助けを求めて主(考助)を見てみるが、なぜだか楽しそうに笑ってこちらを見てくるだけで、当てになりそうにない。
それどころか、にっくき攻撃者をまるで応援するようなことまで言ってくる始末だ。
「ナナ、ちゃんと加減しなよ」
「バウ!」
主の言葉にますます張り切る様子を見せる攻撃者に、スーラは絶望的な気分になっていた。
こうなれば、いつものように、嵐が過ぎ去る(ナナが飽きる)のを待つしかない。
それまでは、必死に攻撃に耐え抜くしかないのである。
厄介なのは、攻撃者が主に注意された通り、浮遊装置(仮)が壊れない程度の力でしか攻撃をしてこないことである。
もし、本気を出して攻撃をすれば、浮遊装置(仮)は壊れてしまって、攻撃者が主に怒られることになるのだが、そうそう都合よくはいかない。
スーラも魔法を使ってナナを攻撃することはできるのだが、さすがに今いる場所で派手な攻撃魔法を使っては駄目だということはわかる。
そもそも、ナナも攻撃魔法は使わずに、単純に肉体の力(物理)だけで攻撃して(遊んで)いるのだから、スーラも使うことはしない。
結局、いつものように、どちらが根負けするのかが勝負の分かれ目になるのである。
果たして、この日の勝負は、スーラの勝ちとなった。
攻撃者が主に呼ばれて、モフられることに夢中になったからだとしても、スーラが無事に浮遊装置(仮)を守り切った事実は変わらない。
結局この日はスーラがひとつの勝ち星を上げることとなり、これまでの通算成績は5勝2敗1分となるのであった。
ちなみに、この勝敗の分け方はあくまでもスーラ基準であり、ほかに誰かの裁定が入っているわけではないことだけは、ここに記しておく。
・・・・・・。
はい、すいません。
前半はともかく、後半は完全に悪のりして書いてしまいました。
まさかこんな話に一話の半分も使ってしまうとは><
(書き上げた満足感だけはありますw)




