(4)発表!
シュレインから話を聞いたシルヴィアは、慌ててフローリアを呼びに行った。
考助に話をするときにのけ者にしてしまうと、不機嫌になってしまうと考えた為だ。
そういう意味ではほかの者たちも呼ばなくてはならないのだが、管理層にはいないので我慢してもらうことにする。
シルヴィアがフローリアを呼びに行く間、シュレインはその場で待つことになった。
そこまでする必要があるのかと首を傾げるシュレインだったが、それを見たシルヴィアは、絶対に待っているようにと念を押していた。
さらに、シルヴィアに呼ばれたフローリアもなにも話を聞かずに連れてこられたのか、シュレインと同じように首を傾げていた。
「一体、どうしたのだ?」
「説明はコウスケさんと会ったあとで、シュレインがしますわ!」
と、シルヴィアがそう押し切って、三人は研究室の前まで来た。
本来、考助に用事があるのはシュレインということで、ドアをノックしたのはシュレインである。
「コウスケ。頼まれた物ができたから持って来たのじゃ」
「ああ、入っていいよ!」
中から考助の返答が来たので、シュレインがドアを開けて三人が揃って中に入った。
「随分と早かった・・・・・・って、三人揃ってどうしたの?」
てっきりシュレインだけが来ていると思っていた考助は、彼女の後ろにシルヴィアとフローリアの姿があるのを見て首を傾げた。
そして、考助からたまたま視線を向けられたフローリアは、首を左右に振った。
「いや、私も呼ばれただけで、なにがなにやらわからぬのだがな?」
「あれ? じゃあ、どういうこと?」
再度首を傾げる考助に、シルヴィアが少し前に出て説明をした。
「フローリアは私が呼んだのです。あとから説明するよりもいいかと思いまして」
「シルヴィアが?」
「はい。それはともかく、まずはシュレインの話を聞きましょう」
どういうことかと説明を求めようとした考助を遮って、シルヴィアはシュレインを見た。
シルヴィアの態度に、これはあっちの方を先に説明したほうがいいと察したシュレインは、少し緊張しながら考助を見た。
「うむ。これは実は吾も気付いていなくて、クラーラ神に言われてわかったのじゃが・・・・・・」
「クラーラが? なにかあったの!?」
クラーラの名前が出てきて少しだけ慌てた様子の考助に、シュレインは少しだけ間をあけてから答えた。
「――子ができたそうじゃ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!? 誰が? え、まさかっ!?」
微妙に頬を染めるシュレインを見て、考助はすぐに気が付いて、思わずまじまじとシュレインを見た。
その視線を受けて、シュレインは右手をお腹に当ててから小さく頷いた。
「うわっ!!!! ほんとに!? やった!!」
考助は、小躍りしそうな雰囲気で喜びをあらわにした。
そして、そのままの勢いでシュレインに近寄ろうとしてシルヴィアに止められた。
「コウスケさん、駄目です!」
「えっ!? いや、なんで?」
思った以上にシルヴィアの声が大きくて、考助はびっくりしたような声を上げた。
まさか、シルヴィアに止められるとは思わなかったのだ。
「気持ちはわかりますが、本人でさえまだ自覚がないくらいです。下手に刺激を与えると、どうなるかわかりません」
シルヴィアがそう答えると、考助は自分の迂闊さに頭を下げた。
「そういや、そうだったね。シュレイン、ゴメンね」
「む? いや、そこまで気を使ってもらう必要はないと思うのじゃが? クラーラ神も母子ともに健康といっておったぞ?」
シルヴィアの慎重さに、シュレインは首を傾げた。
そのシュレインに答えたのは、シルヴィアではなくフローリアだった。
「いや。安定するまでは油断はしない方がいいな」
「そうです。クラーラ神も大丈夫だとお考えになったから先ほどの作業を行ったのでしょうが、これからは自分では判断できないので慎重に行動した方がいいです。・・・・・・少なくとも安定期に入るまでは」
経験者ふたりの言葉に、シュレインは真面目な顔になって頷いた。
「ふむ。そういうものかの。よくわかった」
「それから、一度きちんと医師に診てもらったほうがいいだろうな。・・・・・・診察できるかどうかは微妙なところだが」
「そうですね。今がどの程度の周期に入っているかはわかりませんが、そのほうがいいでしょう」
「そうじゃな」
あくまでも慎重を期すふたりに、シュレインは素直に頷いた。
そこで、シュレインの顔を見ながらあることに気付いた考助が、先ほどとは違った様子でゆっくり近づきながら手を取った。
「シュレイン。未だに実感がないのかもしれないけれど、クラーラが言ったということは間違いないんだから、本当に気をつけてね」
「うむ。そうだな。自覚がないときが本当にやっかいだからな」
一度自覚症状が出て自分の体の中に子供がいる実感さえすれば、行動も慎重になる。
それが無い状態のときがついいつも通りの行動をしてしまうので、一番やっかいなのだ。
「クラーラ神のお言葉は、どちらかといえば、今後の行動を注意するためでしょうね」
クラーラの言葉はあくまでも現時点での状態であって、何かの拍子に流産となりかねないために、わざわざ忠告してきたのだ。
シルヴィアの言葉に、シュレインはもう一度真面目な顔になって頷いた。
「それにしても、ついにシュレインも母親か。どんな子供が生まれるのか、楽しみだね」
忠告めいた話が続いたため、敢えて考助は明るい話題に変えた。
そして、それに乗っかるように、フローリアが笑顔になった。
「そうだな。シュレインに似るといいのだが」
「あれ? それってどういう意味?」
速攻でそう突っ込んだ考助を見て、ほかの三人は声を上げて笑うのであった。
どう考えても自分の顔は美形ではない自覚がある考助は、苦笑しながら三人を見ていたが、ふと思いついたような顔になってシュレインを見た。
「そういえば、例のあれはできたんだよね?」
「ああ、そうじゃった。――これがそうじゃ」
シュレインはそう言いながら、考助に向かって右手を差し出した。
なにを受け取るのかわかっている考助も、すぐに右手を仰向けに差し出て、シュレインから物を受け取った。
「・・・・・・うーん。・・・・・・うん。きちんとできているね」
シュレインから受け取った丸い球を簡単にチェックした考助は、満足気な顔になって頷いた。
ふたりのやり取りを見ていたフローリアが、首を傾げながら聞いてきた。
「またなにか作ったのか?」
「うん。見せた方が早いから、ちょっと待ってね」
考助がそう言うと、あらかじめ用意してあった手のひら大の物を取り出して、その容器の中にシュレインから受け取った球を入れた。
「これを、こうして、こうすると・・・・・・」
考助がそう呟きながら、その容器をなにやらいじくっていると、やがてそこから小さな音がしてきた。
そして、考助が操作(?)を止めて、右手に持ったその容器をいきなり空中でパッと手放した。
「――すると、あら不思議、ってね」
考助の言葉に合わせるように、シュレインたちの顔が驚きに染まった。
考助が手を離したにも関わらず、その容器は空中に浮いていた。
シュレインが驚いているのは、考助から作ってほしい物を聞いていても、具体的になにに利用するかまでは聞いていなかったのだ。
驚きから覚めたフローリアは、浮いている物体と考助を交互に見ながら苦笑をした。
「また、常識はずれなものを作りおって」
「んー? だって、思いついたからには試してみないとね」
完全に開き直ってそう言ってきた考助に、他の三人は呆れたようにため息をつくのであった。
というわけで、ようやくシュレインにも子供ができました。
誕生までは今しばらくかかります。
当然、このあとでフローリアやシルヴィアの口から方々に広まることになりますw
そしてついでのようにオーバーテクノロジーな物を創りだす考助。
まあ、これはいつものことだからあえてここで触れる必要はないですね。




