閑話 その後のガールズトーク
(1)企み
錫杖を安定させるための改良を施すために、考助とクラーラは研究室へと行った。
それを見送っていたシュレインは、ふと自分を見つめる複数の視線に気付いて、思わず一歩後ろに下がってしまった。
複数の視線と言うか、その場にいる全員の視線が集まっていたので、妙な迫力があった。
「な、なんじゃ?」
どうにか後ろに下がるのは一歩だけで踏みとどまって、そう問いかけたシュレインだったが、さらなる追及の手が迫ってきた。
「はい、ギルティ」
とは、コレット。
「ギルティですね~」
「そうですね」
「そうだな」
ピーチ、シルヴィア、フローリアと続いた。
言葉には出していないが、ミアも深く頷いていた。
「いや、すまぬ。本当になんのことかわからないのじゃが?」
皆に詰め寄られる理由がわからずに、シュレインは冷や汗を流しながら弁明を行う。
その様子をピーチがジッと見ていたが、やがて首を左右に振りながら皆を順に見た。
「どうやら、本当にわかっていないようですね~。無自覚なのは、ここにもいたようです」
「そのようじゃの」
ピーチとフローリアがそう言って身を引くと、同じようにコレットとシルヴィアも一歩下がった。
彼女たちの行動の意味がわからずに、シュレインは思わず愚痴めいたものをこぼしてしまった。
「なんなのじゃ、一体?」
その言葉を聞いたピーチは思わずといった感じでため息をついた。
「あ~、みなさん。これは駄目ですね。無自覚みたいですよ~」
「なんと? まさか、コレット病にかかっている者がまだいたとはな。・・・・・・あ奴は抜かして」
ピーチの言葉に、フローリアがそう驚けば、
「そうですね」
シルヴィアが、真っ先にそれに同意した。
そして、引き合いに出された張本人はといえば、
「ちょっと! 昔のことを引き合いに出さないでよ! いまの私は、まともよ!」
と抗議した。
そんな彼女らのやり取りを、シュレインは意味がわからずに困惑した表情で見ていた。
その様子を少し離れた場所で見ていたミアが、ため息をつきながら助言めいたことを言ってきた。
「本人が無自覚なだけに、これ以上続けても、むしろ悪化するだけだと思いますよ? いい加減本題に入ってはいかがでしょうか」
「確かに、それはそうだな」
実の娘の言葉に頷いたフローリアは、真剣な表情になってシュレインを見た。
そして、その瞬間、シュレインは本能的に嫌な予感がしていた。
次のフローリアの言葉は、自分になにかよくないものだと。
果たして、そのフローリアの言葉というのは、
「向こうで、どの程度コウスケと進展したのか、洗いざらい話してもらおう」
「・・・・・・・・・・・・ハイ?」
突然のフローリアの台詞に、シュレインの目が点になっていた。
そして、他の面々が大真面目な顔で頷くのを見て、なぜかシュレインはとっさに逃げることを考えてしまった。
だが、残念ながらその行動は、シュレインの後ろに回ったピーチに阻止されてしまう。
「逃げようとしても無駄ですよ~。ことコウスケさんとのことについては、私たちの間で秘密はなしです!」
こんなことで本気にならないでほしいと思いつつ、シュレインはガクリと肩を落とした。
少なくとも魔法なしでピーチの本気を躱すのは、シュレインは不可能なのである。
シュレインがピーチに追い込まれてからしばらくあとのこと。
シュレインは、過去に行ったときの考助とのやり取りを、言葉通りすべて白状することとなった。
ただし、シュレインが心の中で恥ずかしさで打ち震えている一方で、他の女性陣はつまらなそうな顔になっていた。
「なんだ。あまり大した話ではなかったな」
「そうですね」
フローリアの一歩間違えればシュレインを貶めるような(?)台詞に、シルヴィアが頷いた。
そして、ピーチが、それに追い打ちをかけて来た。
「なんというか、いまさらですか。というところでしょうか~?」
「まあ、種族的な弱点というのは、当事者は中々気付けないからねぇ」
と、一応コレットは、自身の過去の経験からシュレインに対してのフォローをしてきた。
もっとも、その表情ははっきりと「いまさらか」というものになっていたのだが。
情け容赦ない自身に対する評価に、シュレインは体を縮こませながらほかの面々をそろそろと見た。
「もう、これで十分じゃろう?」
なんとか勇気を振り絞って(?)そう反抗したシュレインの言葉に、ピーチが首を左右に振った。
「それは甘いというものですよ~」
「そうだろうな。このままでは、せっかくシュレインが自覚できたのに、なんの意味もなくなってしまう」
「い、いや。あのじゃな・・・・・・」
ピーチとフローリアの顔に、再び嫌な予感を覚えたシュレインだったが、残念ながらそれを許してくれるような者たちではない。
少し考えるような顔になったコレットがニヤリとした顔になって言った。
「そうね。せっかくだから、私たちでおぜん立てをしましょうか」
シュレインは、なにをじゃと叫びそうになったが、なんとかそれをこらえる。
コレットの言葉に、シルヴィアがすぐに追撃してきたため、言う暇がなかったともいえるのだが。
「そうですね。いまのコウスケ様の状態でしたらなんとかうまく行くでしょう」
こういうときに巫女としての才能を発揮しなくてもいいのだが、シルヴィアはそれを見ながらそう言ってきた。
やはり、どう考えてもシュレインには、逃げ道というものが存在していなかった。
(シュレインを除いた)彼女たちの企みがどういうものであったのかは、シュレインの名誉のために、実行後に誰も語ることはなかった。
ただし、その結果、誰もが満足を得る結果を得た、ということだけは間違いのない事実なのであった。
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(2)しばらくぶりの再会
過去から戻ってきた翌日。
シュレインは、ヴァミリニア城でとある人物と会っていた。
その人物とは、プロスト一族のイネスである。
最初、イネスはシュレインに呼ばれた理由がわかっていなかった。
ここ数日、シュレインが城に顔を見せていなかったことは知っているが、それはよくあることなので、いつものことだと考えていたのである。
「なにかありましたか?」
顔を出すなりそう聞いてきたイネスに、シュレインは彼女に近寄って右手を差し出した。
それに対してイネスは首を傾げつつも同じように右手を差し出す。
その手のひらの上に、シュレインはある物をポトンと落とした。
「これは、役に立ったかの?」
「!!!!」
自分の手のひらの上に乗せられたものを見て、イネスは思わず左手で口元を抑えつつ驚愕の表情になった。
やがて驚愕の表情を抑えたイネスは、目に涙を浮かべつつ、
「・・・・・・ハイ」
と万感の思いで答えながら、小さく頷いた。
そして、それを確認したシュレインは、その顔に笑みを浮かべるのであった。
イネスの感情が落ち着くのを待っていたシュレインは、しばらくしてから問いかけた。
「ところで、あのときに渡した宝玉はどうなったのじゃ?」
過去に渡した宝玉がどう使われたのか、シュレインは興味があったのだ。
イネスのことだから、無駄なことに使われたとはかけらも考えていない。
だが、そのシュレインの問いに、イネスは呆気にとられたような顔になった。
「気付かれていなかったのですか? 以前アルキスでビアナが渡したのが、それですよ?」
「なんじゃと!?」
この答えには、シュレインもさすがに驚いた。
まったくもって予想していなかったのだ。
ただ、それと同時に、過去でイネスに宝玉を渡したときの考助の態度を思い出した。
「あ~、なるほどの。だからコウスケは、あのとき止めなかったのじゃな」
「そうなのでしょうね」
シュレインの言葉に、イネスも感慨深げに頷いた。
今更ながらに、考助がシュレインがイネスに宝玉を渡したのを止めなかった理由を察したのである。
こうして、本当の意味でシュレインにとっての初めての過去への旅は終わりを迎えたのであった。
閑話にする意味があったのか、なかったのか……。
まあ、考助が出てきてないからということで、ご容赦ください。
それはともかくとして、これにて本当の意味で過去編は終わりになります。
最後のフラグを回収するかどうかは、作者にもわかりませんw




