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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 帰還
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(12)帰還

 眼前に見慣れた光景が広がったのを確認した考助は、すぐに笑みを浮かべた。

「皆、ただいま。心配かけたみたいで、ごめんね」

「皆、すまなかったの」

「「「「「コウスケ(考助)、シュレイン、ミツキ!!」」」」」

 考助とシュレインが頭を下げると、集まっていた者たちが一斉に駆け寄ってきた。

 三人が戻って来ると聞いて、皆で待機していたのである。

 

 ひとしきりハグなどの抱擁を受けた考助は、視線をクラーラへと向けた。

「クラーラもすまなかったね。色々と手間をかけただろうに」

 女神であるクラーラがこの場にいるだけで、多くのことで迷惑をかけたということはわかる。

 元の時代に戻ったらすぐにこれだけは言っておこうと考えていたのだ。

 そんな考助に対して、クラーラは首を左右に振った。

「なにをいっているのよ。いま、貴方にいなくなられたら、神域だって大困りなのよ。これくらいは当然よ」

「そう。でも、まあ、ありがとう」

 考助がそう返すと、クラーラはそれ以上なにも言わずに、ただ優しい笑みを浮かべるのであった。

 

 

 立ち話もなんだからということで、一同はくつろぎスペースに集まることになった。

 ただ、その前にミツキはすぐに元に戻らないと駄目だということで、きちんと肉体に戻っている。

 さすがのミツキも長時間、肉体と魂が離れていたのはこたえたようで、いつもの様子に戻るのに一時間ほどの時間を要していた。

 元に戻ったミツキを見て、一同がホッと胸を撫で下ろしたところで、改めてくつろぎスペースで今回の件について話を始めた。

「とりあえず、改めて皆に心配をかけてごめんね。ミツキはともかくとして、僕とシュレインは、特におかしな調子になったりとかはないから安心して」

 考助が真っ先にそう言うと、これまで心配そうな視線を向けていたシルヴィアが、安心した顔になっていた。

 ほかの面々も心配していなかったわけではないが、シルヴィアは特に顔に出るくらい心配する様子を見せていた。

 

 考助がシルヴィアに向かって頷くのを見ながら、最初にフローリアが問いかけて来た。

「それにしても、今回の件は一体どういうことだったのだ?」

「あれ? クラーラから話を聞いていなかったの?」

 考助としては、全てではないにしろある程度はクラーラから話を聞いていたと思っていたので、思わず首を傾げてそう聞いてしまった。

 勿論、クラーラは自分の知る限りのことを話していたので、今回の事件(?)が起こった経緯は知っている。

 ただ、フローリアが聞きたかったことは、そういうことではなかった。

「ああ、すまん。過去に行った経緯は勿論知っているが、一体そこでどういうことがあったのか知りたかったのだ」

「あ、そういうことか」

 ようやく考助もフローリアの問いかけの意味に気付いて、過去の里で起こったことを話し始めた。

 

 

 時折シュレインが補足を交えながら、考助は過去に行ってからの話を全て話した。

「――――なるほど。なかなか得難い体験をしたようだな」

 すべての話を聞き終えたフローリアが感心したように頷いていた。

「過去に行っていたことは聞いていましたが、そこまで古い時代だったのですか」

「中々貴重な体験だったみたいですね」

 シルヴィアの言葉に続いて、ミアも呆れたような視線を考助とシュレインに向けて来た。

 ほかの面々は黙っていたが、皆同じような顔になっている。

 

 苦笑しながら皆の視線を受けていた考助だったが、ふと視線をシュレインの持つ錫杖へと向けた。

「一応今回の件は無事に終わったけれど、シュレインはどうする?」

「ふむ? どうするとは、どういうことじゃ?」

「クラーラはもうわかっていると思うけれど、その錫杖を使っている限り、また同じようなことになる可能性があるんだよね。もし、封印するんだったらクラーラがいる今のうちだけれど、どうするってこと」

 今回はたまたま考助がいるところで過去に行くことになったが、次も同じような状態になるとは限らない。

 もしそうなった場合は、シュレインひとりで対処しなければならないことになるのだから、考助が心配してそう聞いてくるのも当然だった。

 

 考助の言いたいことがわかってジッと錫杖を見つめたシュレインだったが、別のところから助けが来た。

「考助も意外に意地悪よね。ちゃんと伝えるべきことは伝えないと」

 少しだけ笑いをこらえるような表情でそう言ってきたのは、クラーラだった。

「・・・・・・どういうことじゃ?」

「だって、考助がきちんと教えていないことが、ふたつほどありますからね。ああ、それとも私に言わせるために、わざとそんな言い方をしたのかしら?」

 考助は、薄く笑みを浮かべたクラーラからついと視線をずらした。

「まったく、もう。まあ、いいけれどね」

 わざとらしくため息をついたクラーラは、シュレインへと向き直って説明した。

 

 考助が敢えてシュレインに伝えていなかったことのひとつは、すでにシュレインは一度過去に行くという経験を済ませていることだ。

 そしてもうひとつは、一度過去に行ったことで、錫杖の能力が安定して使えるようになっていることだ。

 さらに付け加えるなら、クラーラがいるいまのうちに、封印をするのではなく安定させることも可能なのである。

 勿論、今回のように条件を見付けて戻って来ることになるだろうが、対処法がわかってさえいれば、さほど慌てる必要がないのでは、というのがクラーラの言い分だった。

 

 クラーラの説明を聞いたシュレインは、ジッと考える顔になった。

 確かに封印さえしてしまえば、過去に行くかもしれないなんていう心配はしなくても済む。

 だが、本当にそれでいいのかという思いも浮かんでいるのだ。

 そこまで考えてからシュレインは考助へと視線を向けた。

「コウスケは、なぜクラーラ神が言ったことを黙っていたのじゃ?」

「クラーラに説明させた方がいいと思ったから・・・・・・それだけだと、それこそ説明不足か。今回僕はシュレインと一緒に過去に行ってしまったからね。自分の口から大丈夫だというのは、無責任すぎると思ったんだよ」


 もし自分が一緒に過去に行っていなければ、考助はきちんとシュレインに説明しただろう。

 だが、今回は自分も一緒に行ってしまったので、自らの口から大丈夫だという言葉を言うのが躊躇われたのだ。

 一緒に過去に行くという経験をした考助がそれを言ってしまえば、シュレインは普通に受け取ってしまうだろう。

 だからこそ、第三者であるクラーラにそれを説明させて、シュレインに考える余地を残させたのだ。

 クラーラが神であるために一定以上の信用が得られるということも、考助が説明を省いた理由のひとつとなっている。

 

 考助の説明を納得したうえで聞いていたシュレインは、錫杖を見ながらしばらくの間考えていた。

 クラーラはいつまでも管理層にいるわけにはいかないので、時間がないということもわかっている。

 ただ、事が事だけにある程度の時間を掛けるのは勘弁してもらうことにした。

 当然、クラーラもそのことで文句を言うことはなく、シュレインが結論を出すまでは戻ることはないと宣言していた。

 

 結局、十分ほど悩んでいたシュレインは、錫杖を強化してもらうという結論を出した。

 そのときの言葉が「吾が錫杖を使いこなせるようになればいいだけなのじゃから」というもので、それを聞いた他の面々を苦笑させたのは、のちの笑い話のひとつとなったのである。

これにて一件落着!

ということですが、あと一話だけ閑話的後日談を挟もうと思います。

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