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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 帰還
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(5)現状確認

 考助とシュレインが昔のヴァンパイアの生活の違いについて考察していた一方で、元の時代にいるクラーラは忙しそうに連絡を取っていた。

 その相手は、当然というべきか、神域にいるエリスだ。

「――ええ。では、その方向で調整するわ。・・・・・・わかったわ」

 シルヴィアたちのように神具を持っていないのに、きちんとエリスとやり取りできるのは流石というべきだろう。

 もっとも、手になにも持っていない状態で、近くに相手もいないのに話をしている姿は、奇妙ともいえなくはないがそれがクラーラ(女神)となれば、話は別だ。

 それに、いまクラーラの傍にいるのはシルヴィアだけなので、不敬になるようなことを考えるはずがない。

 さらにいえば、いまのシルヴィアには、そんなことよりももっと気を取られていることがある。

 それがなにかといえば、何の因果か過去の時代へと飛んでしまった考助たちのことだ。

 

 通信を終えたらしいクラーラが黙り込んだのを見て、シルヴィアがそっと話しかけた。

「あの、クラーラ様。どんな様子なのでしょう?」

 クラーラは、過去に行ってしまった考助とシュレイン、ミツキを戻すためにいろいろ手を尽くしている最中なのだ。

 その話相手がエリスを筆頭とした女神たちなのだから、とてもではないがシルヴィアが手を出せるような段階ではない。

 それでも状況が気になってしまうのは、仕方のないことだろう。

 付け加えれば、この状況が気になっているのはシルヴィアだけではなく、他の面々も同じことだ。

 

 不安そうな顔で自分を見てくるシルヴィアに、クラーラは安心させるように笑みを見せた。

「大丈夫よ。いまのところ悪い方には進んでいないから。ただ、かなりの過去に飛んだようで、さすがのエリサミールたちも時間がかかるみたいね」

 女神という相手にそんなことを聞いていいのかと葛藤しながらも、考助たちのことが心配で、どうにか話を聞こうとして来るシルヴィアに、クラーラもいま説明できることを丁寧に話している。

 そもそもクラーラがアマミヤの塔の管理層に降臨しているのは、考助たちの手助けをするための現地要員としての役目もあるが、シルヴィアたちの暴走・・を防ぐためでもあるのだ。

 本人たちは気付いていないが、管理層にいるメンバーは、それぞれが神族になっている。

 その彼女たちが、考助という支柱を失った反動で、どんな状態になるかわからないため、それを見張っているのだ。

 見張るというよりは、見守るといったほうが正しいかもしれないが、本質的にはそういうことだ。

 

 自分たちが女神の監視下にあるとはつゆ知らず、シルヴィアはホッとした表情になった。

「そう、ですか」

 その顔は、最悪考助たちが戻ってこれないかもしれないという覚悟を持っていたように見えた。

 それが意外だったクラーラは、少しだけいたずらっぽい顔を浮かべた。

「あらら? もしかして、シルヴィアは私たちを信用していなかったのかしら?」

「い、いえ!! そういうわけではありません!」

 案の定、少しだけ顔を青くしながら慌てて首を左右に振ったシルヴィアを見て、クラーラは内心で少し意地悪しすぎたかしらと反省していた。

 

 そんな内心を悟られないようにクラーラは、ことさらに笑みを深めて答える。

「いやね、冗談よ。貴方がそんなことを考えているなんて思ってもいないわ。単に、考助のことが心配だったのよね?」

 そう言いながらクラーラは、まっすぐにシルヴィアを見た。

 神としての眼差しでクラーラに見詰められたシルヴィアは、即座に反応して頬をわずかに赤く染めた。

「そ、そういうわけ・・・・・いえ。そうですね。ですが、やはり不敬でした。申し訳ありません」

 いったんは否定しようとしたシルヴィアだったが、女神を相手に誤魔化しても仕方ないと考えて、改めて肯定したあと謝罪した。

 

 そんなシルヴィアに対して、クラーラは笑いながら右手を振った。

「いいのよ。わざわざ謝ってもらうようなことではないもの。どちらかといえば、ご馳走さま?」

「クラーラ様!」

 からかうような視線を向けて来たクラーラに、シルヴィアは思わず抗議の声を上げた。

 さすがのシルヴィアも、クラーラの手のひらの上で転がされている感じだが、その当人シルヴィアが悪い気がしていないのは、やはりクラーラの人(神?)徳といったところだろう。

 ともあれ、つい先ほどまであったシルヴィアの固い緊張のようなものは、このときにはすっかりほぐれていたのである。

 

 シルヴィアの叫びにひとしきり笑ったクラーラは、まじめな表情に戻って言った。

「それはともかく、いまの状況は説明したほうがいいと思うから、ほかの人たちを集めてもらってもいいかしら? 誰を集めるかは任せるわ」

 シルヴィアからほかのメンバーに伝えるようにしてもいいのだが、クラーラはこのタイミングで直接話した方がいいと判断したのだ。

「畏まりました」

 その要請を受けたシルヴィアは、丁寧にお辞儀を返すのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シルヴィアの呼びかけに集まったのは、普段管理層にいるメンバーは勿論、子育て中のコレットやピーチに加えて、最近では城にいることが多くなっているミアもいた。

 たまたま管理層に戻ってきたときに、フローリアから話を聞いていたのだ。

 その時に、なにか進展があれば連絡をするように言われていたので、フローリアが出向いて呼んできたのである。

 

 緊張した様子で自分を見てくる者たちを見ながら、クラーラは不思議そうな顔でシルヴィアを見た。

「ある程度の話はしたのではなかったの?」

 悪い方向には向かっていないということは、シルヴィアに伝えてある。

 その程度の話は、この場に集めるときに話をしていると考えていたクラーラは、彼女たちの緊張した様子が不思議だったのだ。

「は、はい。勿論、伝えてあります。・・・・・・皆が緊張しているのは、クラーラ様の前だからかと・・・・・・」

 申し訳なさげに言ったシルヴィアを見て、クラーラは納得の表情になった。


 つい考助と話をしているような感覚でいたが、そもそもクラーラは大地母神で上から数えた方が早いほどの力を持った女神なのだ。

 緊張するなというほうが無理なのである。

 クラーラが来たばかりのときは、考助がどうなっているのかという不安のほうが大きかったが、話ができるようになってある程度安心できたので、改めて女神が間近にいるという状況に思い至ったのが今だった。

 それでも、いまの状況を説明すると声をかけたら、きちんと集まるというのはさすが、考助に近しい者たちというべきだろう。

「あー。そういうことね。・・・・・・まあ、いいわ。ただ、緊張しすぎても疲れるだけだから、少しは落ち着いてほしいけれどね」

 そう前置きをしたクラーラは、先ほどのエリスとのやり取りを一同に話しはじめた。

 

 考助たちの居場所が特定できたことで、ある程度の安全は確保することができた。

 ただ、まだ正確な時代特定ができていないため、簡単に今の時代に戻すということはできない。

 さらに、戻って来る際にもいくつかの条件をクリアしなければならないために、すぐに戻すということも不可能なのだ。

 いくら女神といえど、そうそう簡単に過去へは干渉できないのである。

 

 まずは安全が確保できているという話を聞いた一同は、ホッと胸を撫で下ろした。

 次いで話された内容には厳しい表情になったが、そもそも簡単に戻れるとは考えていなかったところもあるので、取り乱したりするような者は出なかった。

 そんな簡単に解決できるのであれば、わざわざクラーラが出張ってきたりはしないだろうということもある。

 ともあれ、いまはある程度の状況を確認できた管理層の面々は、それぞれの生活へと戻って行くのであった。

シルヴィアをからかうクラーラの図。でした。


それはともかく、過去に行ってしまった考助たちを戻す作業は、いくら女神といえど簡単にはいきません。

ただ、連絡はいつでもつけられるので、以前よりはかなりましな状況です。

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