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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第5章 帰還
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(2)思い付き

 考助とシュレインが、ヴァンパイアでいうこところのアムとして存在できているのは、大地母神クラーラのお陰だということがわかっている。

 それは、錫杖にある宝玉が元の時代と繋がっているためである。

 さらにいえば、その宝玉にクラーラが直接手を入れていたために、この時代でもなんとか存在できているわけだ。

 ちなみに、ミツキに関しては、無理やり考助に引っ付いてきたという感じなので、この法則(?)には当てはまっていない。

 だからこそ、いままでひとりもミツキの姿を見ることができていないのだ。

 シュレインがミツキを確認できているのは、あくまでも考助が手助けをしたためである。

 

 錫杖が元の時代と繋がっているとわかった考助は、なんとかそれを鍵にして、元の時代に戻れないかと調べていた。

 だが、いくら錫杖を調べても今以上の変化は起きなかった。

 そもそも錫杖がこんな使い方をされると想定していなかったので、考助にもなにをどうしていいのかさっぱりわからないのである。

「うーん・・・・・・。さて、どうしたもんだか」

 腕を組んで悩む考助に、声をかけてくる者がいた。

「あまり根を詰めても仕方ないのじゃから、少し休んだらどうじゃ?」

 長老の庵から戻ってきたシュレインだった。

 考助が錫杖を調べている間、シュレインはシュレインで変わらず調べ物をしているのだ。

 

 声を掛けられて、ようやくシュレインがいることに気付いた考助は、折角なのでその提案に乗ることにした。

「そうだね。そうするか」

 このまま続けても煮詰まってしまって、良い思い付きなど出てくるはずもない。

 わかってはいたのだが、きっかけがつかめずにずるずると続けていたのだ。

 そう言う意味では、シュレインの帰宅は、ちょうどいいタイミングだったのである。

 

 考助の様子を見て、状況は芳しくないとわかったシュレインは、そのことは聞かずに別の話題を振ることにした。

「今日も長老の庵で調べ物をしていたのじゃが、なかなか興味深いものが多かったぞ」

「うん? そうなの?」

「うむ。中には、失われた秘術と呼べるようなものもあったからの」

 さらりと告げられた言葉に、考助は目を見開いた。

「それは、また。いろんな意味で大丈夫なのかと思えるね」

 考助のイメージでは、失われた技術というのは、基本的に「危ないもの」となっている。

 せっかく時代の流れて消えて行ったものが、元の時代に戻ったときに復活して大丈夫なのかという意味での言葉だ。

 

 そんな考助に対して、シュレインは苦笑を返す。

「言いたいことはわかるのじゃが、いまのところ、そこまで大層なものはなかったがの」

「どういうこと?」

「なに。失われた秘術といっても、色々なものがあるからの。中には効率が悪すぎて時代の流れで消えて行くようなものもあるのじゃ。今回見つけたのは、そういったものばかりじゃった」

 時代の流れというのは、より効率的になりさらに複雑化していくといってもいい。

 そうした流れの中でいろいろなものが取捨選択されていき、効率が悪いものはなくなっていく。

 それは別にヴァンパイアの儀式だけではなく、考助が得意とする魔法陣だって同じことだ。


 古い資料を調べて行けば、使われなくなって久しい魔法陣が、新しい理論で有効活用できることなど多々ある。

 それがわかっているからこそ、考助はシュレインの言葉に素直に納得はしなかった。

「そうなの? でも、利用できると思ったからこそ、シュレインは喜んでいるんだよね?」

「やれやれ。やはりコウスケに隠しごとは無理かの」

「なにを言っているのさ。シュレインが本気で隠そうと思っていたら、こんなに簡単に気付かないよ」

 本心からの考助の言葉に、シュレインはニヤリと笑った。

 実際シュレインは、隠すつもりが無いから、単なる話題として出したのだ。

 考助の言う通り、隠すつもりがあれば、最初から話したりしていない。

 また、それがわかっているからこそ、考助も軽口っぽく返しているのである。

 

「まあ、確かに使えそうなものもあったがの。だからといって、劇的になにかが変わるようなものがあったわけではないからの?」

 ひとつの街をつぶすことができるような大魔法を見つけたわけではないと釘を刺してきたシュレインに、考助は肩をすくめた。

「いや、いくらなんでもそんなものがあるとは思っていないよ」

「そうか。とにかく、今回見つけたのは、生活に密着したこまごまとしたものだからの」

「ふーん。例えば?」

「そうじゃの、例えば・・・・・・言葉を発しなくとも相手に言葉を伝える方法とかかの」

 シュレインの言葉に、考助は目を見開いた。

「えっ!? 思ったよりも便利だと思うんだけれど? そんなものが無くなってしまっていたの?」

「うむ。例によって効率の問題だの。この術を使うのに、コップ一杯分もの血を使うからの。使いどころがなさすぎる」

 その他にも、この術を使っている間は、話すことができないなどいろいろな制約がある。


 そうした説明を聞いた考助は、納得の表情になった。

「なるほどねえ。それは確かに使えないと判断されてもおかしくはないか。対話の魔術はこのあとにいくらでも・・・・・・」

 と、不意に言葉を区切った考助に、シュレインはいぶかし気な表情を向けた。

 いくらなんでもいまの話の切り方は不自然すぎる。

「コウスケ? どうしたのじゃ?」

 シュレインが呼びかけるが、その当人はその言葉に反応しなかった。

 どこかに焦点を合わせているわけではなく、ただ一点を見つめているような表情で、黙り込んでいた。

 

 その考助の顔を見たシュレインは、なにも言わずにじっと待っていた。

 今までの経験上、こうなったときの考助は、なにかを思いついているのだとわかっているためだ。

 そして、その予想通り考助は、やがて右手を握って左手にポンと打ち付けた。

「そうか、そういうことか! というか、いままでなんでそんな簡単なこと思いつかなかったんだ!」

「ふむ。なにか思いついたようじゃの」

 興奮気味になっている考助に、シュレインは期待するような視線を向けた。

 いまの会話で考助がなにを思いついたのかはわからないが、その顔を見れば、なにかいい方法を思いついたことはわかる。

 

 あえて落ち着いた様子を見せているシュレインに、考助は満面の笑みを向けた。

「おかげさまでね! これで、少なくともいまの八方ふさがりの状況からは脱することができる・・・・・・はずだよ」

「なんと!? そこまでか?」

「うん。まあ、いまの思い付きが上手くいけば、だけれどね」

 予想以上の展開に驚くシュレインに、考助は自信満々の顔で頷いた。

 

 その考助の顔で、本気で言っていることがわかったシュレインは、ごくりと喉を鳴らした。

「それで? どうするつもりじゃ?」

 正直に言えば、シュレインはそこまで劇的な方法があるとは思っていなかった。

 興奮状態の考助が、暴走(?)しているだけではないのかと、どこかで疑っているところもある。

 そして、それを止めるのも自分の役割だと気を引き締めているのだ。

 

 そんなシュレインに対して、考助はいま自分が思いついたことを話し始めた。

 そして、その話が進むにつれて、シュレインの顔も徐々に明るいものになっていった。

 たしかにそれは、考助が言った通り、なぜいままで思いつかなかったのだと方法でもあった。

「・・・・・・なるほどの。確かにやってみる価値はある・・・・・・というか、それしかないともいえるかの」

「やっぱりそう思うよね」

 シュレインの感想に、考助も頷いた。

 正直に言えば、これでダメならほかに思い付く方法はなにもないといっていい。

 とにかく、その方法を試すべく、考助はさっそく錫杖をその手に取るのであった。

なにやら思いついた考助。そして、それを聞いて喜ぶシュレイン、でした。

次話で分かりますが、直接帰る方法を思い付いたわけではありませんw

詳しくは次話で。

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