6話 蹂躙
「う・・・うう・・・。み、皆さん、ひどいです~」
何やらピーチが、干からびたヒトデの様にソファーの上にうつ伏せになって萎びていた。
シュレインやシルヴィア、コレットが、耐久テストと称して次々とピーチに攻撃を仕掛けていった結果だ。
それを見た三人は、何となく気まずそうに顔を見合わせていた。
最初は、まさしく実験と言う感じで軽く攻撃を当てていたのだが、全くびくともしないと分かると、調子に乗ってどんどん威力を上げていっていた。
最後の方は、攻撃が全く通らないのを見て、威力の高い攻撃をどんどん繰り出していた。
それでもその中心にいたピーチは、一つの怪我もなく立っていたのだが。
とはいっても、あれだけの攻撃の中心に立っていた本人としては、気が気でなかっただろう。
その結果が、現状のピーチと言うわけである。
「い、いえ。ごめんなさい。つい、調子に乗っちゃって・・・」
「うむ。正直すまんかった」
「ごめんなさいですわ」
さすがにやりすぎたと思っているのだろう、三人がピーチに対して頭を下げていた。
「も、もういいです~」
それを見たピーチが、慌てて手を振ったが、それでも三人の中には気まずさが残っている感じだった。
「そ、そうね・・・それじゃあ、こうしましょう」
突然コレットが、シュレインとシルヴィアを引き寄せて、ひそひそと声を潜めて何やら相談し始めた。
その相談が終わったころには、三人の顔がニッコリとほほ笑んでいた。
「ピーチ、今回の件のお詫びを用意したからそれを受け取って頂戴。それで、今回のことは無しにしましょう」
「いえ~。別にそこまでして貰わなくても・・・」
「そのお詫びが『コウスケ殿を一日自由にしていい権利』であってもかの?」
ソファーに伏せていたピーチが、勢いよく上半身を起こした。
「喜んでもらいます~」
シュレインの提案を聞いた瞬間、即行で受けとることを決めたピーチだった。
「え~? それって僕に何のメリットも・・・・・・」
「黙りなさい。そもそも、最初は普通の攻撃を当てていたのに、途中であおってきたのは誰?」
「何か、攻撃を当てられてる最中に、おお全く効いてないなぁ、とか聞こえてきました~」
「喜んで景品になります」
これまた即行で頭を下げた考助であった。
「それに、こんな美人と一緒に過ごせるのに、何か文句でもあるの?」
コレットのその言葉に、改めてピーチを見直す考助だった。
改めて考えてみなくても、ピーチはメンバーの中でも、コウヒやミツキに次ぐ美貌の持ち主である。
そもそも考助の感覚で言えば(ちなみにこの世界の価値観でも)、塔のメンバーは揃って美形だったりする。
よくもまあ、ここまでタイプの違った美形が揃ったもんだと、改めて思い直した考助だった。
「いえ。とんでもありません。謹んでお受けいたします」
「やったあ~」
現金なことに、先ほどまでの態度を一変させて、喜び勇んで飛び上がるピーチ。
それを見た考助も、たまにはそういう日があってもいいか、と思うのであった。
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デート、デート、一日デート~。
とよくわからない歌で喜ぶピーチを、不思議そうな顔でミツキが見つめていた。
今まで考助の傍にいたのは、コウヒだったので、ミツキは別の場所に行っていたのである。
「何かあったの?」
「・・・ああ、うん、まあ。色々と」
「ふーん・・・まあ、いいけど。ところで、第九十一層の神力回収値見た? なかなか面白いことになっているわよ?」
「・・・え? 見てないけど?」
ミツキの言葉に、すぐにチェックをしてみた。
ちなみに塔の管理メニューで、各階層ごとに神力の回収値を見ることが出来るようになっている。
ミツキはそれを見るようにと言っているのである。
そして、指定の第九十一層の神力の回収値を見た考助は、目を丸くした。
「・・・は!? 何、これ?」
昨日までの第九十一層の神力回収値は、自然発生値では一日ごとに百に達していなかった。
それが、今日この時点で一万近くなっていた。
第九十一層は、上位系モンスターが出現する階層だ。
モンスターさえ倒せれば、可能な数値であるので、不思議ではないのだが、それを誰がやったのかが問題なのだ。
「ミツキがやったの?」
「違うわよ。私はそれを見て、誰がやったのか確認してきたのよ」
基本的にコウヒとミツキは、考助の護衛の立場を崩していない。
どちらか一方が手が空いているときに、塔に何か変わったことがあった時は、それを確認しに行っていたりしている。
「・・・じゃあ誰が?」
「だから、面白いことになっているって言ったじゃない」
「確認しに行きましょう」
珍しくコウヒの口から意見が出て来た。
コウヒも第九十一層で何が起こっているのか、確認しに行きたいのだろう。
考助としてもそれを断る理由もない・・・というより早く確認したいので、それをすぐさま受け入れた。
ミツキが楽しそうにしていることから、特に大事にはならないと思っているのだが。
結局、塔のメンバー全員が付いてくることになったのだが、ミツキを除く全員が目の前の光景を茫然と見つめていた。
珍しいことに、非常に珍しいことに、それにはコウヒも含まれている。
それを見たミツキが、楽しそうに笑っている。
「どう? 言った通り、面白いことになっているでしょう? 私も最初はそうなったから」
「・・・・・・非常識ですわ」
「・・・・・・ありえない」
「・・・・・・どうすれば、こうなる?」
「・・・・・・少し浮かれてた自分が恥ずかしいです~」
「・・・なんというか・・・どうしてこうなった?」
彼らの目の前で、上位系モンスターの蹂躙が行われていた。
第九十一層に出現するモンスターは、上位系の中でも下位の部類のモンスターが出現する。
とはいっても、上位系は上位系。その強さはコウヒ&ミツキからの折り紙付きだ。
そのモンスター(ヘルミズック:昆虫系モンスター)が軽くあしらわれていた。
軽くあしらっているのは、ナナであった。
最初はそれがナナであるという認識が出来なかった。
大きさも毛並みも大きく変わっていたのである。
最初考助はただのモンスターだと思っていたのだが、そのモンスターのステータスを慌ててチェックした考助が、思わずナナの名前をつぶやいた。
それを聞きとがめたメンバーたちが、最初に発したのが、先の台詞であったのだ。
モンスターとの戦闘を終えたナナが、最初から気づいていたのか、嬉しそうに考助の方へと近寄ってきた。
近づいて来れば、その姿が以前とは全く違っているのがよくわかった。
まずは大きさ。考助一人どころか、大人二、三人を乗せても平気そうな大きさになっている。
そしてその毛並みは、輝くような銀色になっていた。
今はモンスターとの戦闘で、所々に血がついているのだが、それでもその美しさはよくわかった。
ナナはその血が気になるのか、しきりに毛に付いた血を舐めとっていた。
その眼だけは、以前と変わらない光を放っている。
「いや~。これは、参ったな」
思ってもみなかった変化に、当然の様に考助は、ナナのステータスをチェックした。
予想外というか、あるいは当然というべきか、大幅にそのステータスを変化させていたのであった。
固有名:ナナ
種族名:白銀大神
固有スキル:遠吠えLV9 体当たりLV8 噛みつきLV9 威嚇LV10 集団行動LV7
言語理解(眷属)LV9 神力操作LV10 妖精言語 風魔法LV8
月光LV9 水魔法LV6 月輝LV5
天恵スキル:統率LV9 白銀大神 体長変化
称号:考助の眷属 月神の使い(大神) 月神の加護
上位層でコウヒやミツキがモンスターを倒して稼いだ方が、色々設置出来たんじゃね?
と、思った方へ。
・・・その通りなんですが、チート使ってゲームクリアしても面白くないと考える考助なので、そういう事に二人の力を使うことは考えていません。
必要ない限りは、二人の力は使わないことにしています。いる、つもりです。タブン
2014/5/20 訂正




