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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 錫杖の役割
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(9)錫杖の見え方

「聞きたいこととはなんでしょうか?」

 シュレインの言葉に安堵したイネスは、首を傾げながらシュレインを見た。

 これまでイネスが考助とシュレインを見ていた感じでは、シュレインのほうが主導権を握ってことを進めているように感じたので、そうしたのだ。

 そのイネスの想像は、ある意味で正しく、間違ってもいた。

 今回の件は、あくまでもヴァンパイアが絡んでいると予想しているために、考助は一歩引いた立場で見ているだけで、普段からそういうわけではない。

 ・・・・・・はずである。

 

 それはともかくとして、シュレインはイネスに向かって、左手に持っている錫杖を差し出した。

「イネスには、これ(・・)はどう見えているのじゃ?」

「え? その錫杖ですか? いままで見たことがないような細工が施されていて、とても綺麗に見えますが?」

 あっさりとそう答えてきたイネスに、考助とシュレインは顔を見合わせて頷いた。

 これで、イネスにはシュレインの持つ錫杖が、はっきりと見えていることが確認できたわけだ。

「実はの。アネタとルーミヤに確認して初めてわかったのじゃが、ほかの者には、この錫杖ははっきりとは見えないようなのじゃ」

「えっ・・・・・・!?」

 シュレインの言葉に、イネスは思いっきり驚きの表情になった。

 

 イネスには、初めてシュレインと会ったときから錫杖はしっかりと見えていた。

 そのため、まさかほかの者たちが見えていないとは、考えてもいなかったのだ。

 それに、考助とシュレインがアムということで、そちらのほうに注目していた。

 狼との戦闘のときには気にしていたが、それ以来、すっかりイネスの頭からは抜け落ちていたのである。

 

 イネスをまっすぐ見ながらシュレインは、錫杖を揺らして錫杖の輪が当たる音を出した。

「一応確認じゃが、音も聞こえているのじゃろう?」

「勿論です。はっきり聞こえています」

 錫杖がはっきり見えているイネスには、錫杖からの音もはっきり聞こえている。

 それを確認したシュレインは、視線をアネタとルーミヤに向けた。

「そなたらはどうじゃ?」

「聞こえないわね」

「私にも聞こえていません」

 アネタとルーミヤには、シュレインが左手を小刻みに動かしているようにしか見えず、なにかを持っていることはわかっていても、それ以上のことはなにもわからない。

 シュレインが言った音がなんのことかは、まったくわかっていないのだ。

 

 三人に状況を確認したシュレインは、視線を考助へと移した。

 シュレインには、さっぱりいまの状況は理解できていないが、考助ならなにかわかるかもと考えたのだ。

 そして、シュレインからの視線を受けた考助は、少しの間考える様子を見せてからアネタとルーミヤを見た。

「アネタさんとルーミヤさんに確認するけれど、見えているのは光だけかな?」

「そうね」

 アネタがはっきりそう答えると、ルーミヤはそれに続くように頷いた。

 

 それを確認した考助は、さらに質問を続ける。

「その光は、シュレインが手を揺らすと、同時についてくる?」

「はい」

 今度はルーミヤが答え、アネタが頷く。

「その光のある場所って、シュレインの手から少し離れた場所? 例えば、手の中に持っているような感じじゃなくて」

 考助から細かい質問をされたふたりは、改めて見えている光の位置を確認した。

 これまでは、さほど注意深く見ていなかったのだ。

 

 若干目を細めて光を確認していたルーミヤは、

「確かに、言われてみればそんな感じがするわね。光が左手を包んでいるということもないし」

「そうですね。私にもそう見えています」

 アネタもルーミヤも改めて注意深く確認すると、確かに光はシュレインの左手よりは若干離れた位置にある。

 もっともそれは、言われてみて初めて気づくような距離で、何センチも離れているというわけではない。

 付け加えれば、シュレインが持っているのが錫杖だとわかってみれば、その光が錫杖に合わせて動いていることがわかった。

 

 アネタとルーミヤから話を聞いた考助は、しばらく考えをまとめるように、黙り込んだ。

 シュレインにとってはよく見る仕草なので、話しかけたりはしない。

 やがて考助は、視線をシュレインへと向けた。

「とりあえず、アネタとルーミヤがなにを見ているのかは、わかったかな?」

「なにを? 錫杖を見ているのではないのかの?」

 考助の微妙な言い回しに気づいたシュレインが、疑問に思ったことを突っ込んだ。


 そして、考助もそのことがわかっていたのか、ひとつ頷いてから続けた。

「正確に言えば、錫杖を見ているのではなくて、例の宝玉が見えているんだと思うよ」

 言われてみれば当たり前の答えに、シュレインは納得の表情になった。

 アネタとルーミヤは、もともと大地母神の信仰が強いために、考助とシュレインの姿がはっきり見えているのだ。

 そこから考えれば、錫杖にあるクラーラが自ら手を入れた宝玉が見えるのは、なにもおかしいことではない。

 それは、ほかの大地母神信仰者に確認すれば、はっきりするだろう。

 

 ただし、アネタとルーミヤのことはそれで説明がつくのだが、問題は別にある。

 それに気づいたシュレインは、考助に視線をむけてから問いかけた。

「それはわかったのじゃが、イネスはどうなのじゃ?」

「問題はそこなんだよね。いまの理屈でいえば、イネスはアネタやルーミヤよりも光が弱く見えたりするはずなんだけれど・・・・・・」

 考助とシュレインの姿の見え方が、大地母神への信仰度によるのであれば、錫杖(光)の見え方も同じような法則になるはずである。

 ところが、イネスにははっきりと錫杖が見えているのだから、その法則には当てはまっていないことになる。


 ということは、いったいどういうことなんだろうと考えた考助だったが、ふとあることを思い出した。

「今度はイネスに質問だけれど、僕らと会ったとき、最初から錫杖は見えていた?」

「え? ・・・・・・えーと?」

 イネスが考助、シュレインとあってから数日しか経っていないが、それでも数日は経っている。

 細かいことを思い出すように考える顔になっていたイネスは、少しだけ自信なさげな表情になった。

「言われてみれば、シュレインさんが戦闘を始めてから錫杖を取り出したように見えました」

 シュレインが狼に向かって行ったあの場面では、錫杖は最初から手に持っていた。

 そもそも水鏡との検証を行って過去に飛ばされてから、一度もアイテムボックスなどにしまったりはしていなかったのだ。

 となれば、イネスはシュレインが戦闘に向かってから初めて、錫杖が見えるようになったことになる。

 

 イネスの状況を思い浮かべた考助は、それでようやく納得の表情になった。

「わかったようじゃの」

 考助の表情の変化に気づいたシュレインがそういうと、その当人ははっきりと首を縦に振った。

「うん。まあ、大体だけれどね。といってもそんなに難しいことじゃないよ。イネスは、戦闘のときにシュレインが錫杖を使うところを見ている。ほかのふたりはそうじゃない。そのせいだよね」

 そのせい、といわれてもシュレインをはじめとして、ほかの者たちには意味がわからなかった。

 シュレインの顔を見て説明不足だと感じた考助は、さらに説明を加えた。

 

 簡単に言えば、実はイネスもシュレインが戦闘を始めるまでは、錫杖は光にしか見えていなかった(これはあくまでも推測)。

 そのうえで、シュレインが戦闘のために錫杖を使うと、錫杖本来の力が発揮されてイネスにも錫杖が見えるようになった。

 逆に言えば、シュレインがいまこの場で錫杖を使えば、アネタとルーミヤにも錫杖が見えるようになるというわけだ。

 さっそくその検証を行うためシュレインは、(歴史的に影響を与えない)簡易的な儀式をその場で行ったのだが、結果的に考助のその推測は正しいことが証明されるのであった。

少しずつですが、色々な状況が判明していきます。

材料は大体揃ってきました。

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