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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 錫杖の役割
1025/1358

(7)判明

 難しい顔をして腕を組んでいるシュレインに変わって、考助がルーミヤに話しかけた。

「ルーミヤさん、まず確認するけれど、僕らのことはどの程度見えているかな?」

「へ?」

 考助の問いが思ってもみなかったものだったので、ルーミヤは思わず気が抜けたような声を出した。

 そのルーミヤの顔を見た考助は、話を飛ばしすぎたかと反省して、頭を下げた。

「ああ。ごめんなさい。どうやら僕らは、見る人によって見え方が違うようなんだよね」

「そう、なんですか?」

 考助の説明に目が点になったルーミヤに、考助はコクリと頷いた。

「うん。といっても僕らには実感のようなものは、まったくないんだけれどね。例えば、長老は曖昧な存在にしか見えないようだし、イネスは顔がはっきりしないみたいだね」

「へー」


 感心したような顔になったルーミヤは、そう声を上げたあとにハッと表情を変えた。

 先ほどの考助の問いに答えていないことを思い出したのだ。

「私には、おふたりの姿ははっきりと見えています。あ、いえ。アムの特徴である半透明であることを除いて、ですが」

「ふむ。なるほどの。アネタと同じような感じじゃの」

「そうだね。でも、これでますますわけがわからなくなったかな?」

 シュレインの感想に考助は相槌を打ちつつ、首をひねった。

 

 考助とシュレインの姿がはっきり見ることができる存在は、アネタに続いてルーミヤでふたり目となる。

 見え方に差がある以上、なにかの条件のような存在があるのは間違いないが、それがなんであるのかは、さっぱりわからない。

 揃って首をひねっている考助やシュレインに、ルーミヤが聞きづらそうな顔になって、それでも気になったのかおずおずと問いかけて来た。

「あ、あの。どういうことでしょうか?」

 ルーミヤにしてみれば、アムが見えること自体が驚きなので、人によって見え方が違っているとは想像もしていないのだ。

 先ほどイネスと一緒にいたが、イネスは顔だけがはっきり見えないという中途半端(?)な状態なので、見ようによっては、普通に会話しているのと変わらない。

 そのため、ルーミヤは気付くことができなかったのだ。

 

 真剣な表情で悩んでいる考助とシュレインには、声が小さめだったルーミヤの言葉は耳に入っていなかった。

 代わりに、傍で話を聞いていた長老が、ルーミヤに状況を説明する。

 考助とシュレインの姿がぼんやりとしか見えていない長老が、一番適任だったともいえる。

「ルーミヤ。吾には、このおふたりの姿は、ぼんやりとしか見えないのだ。それこそ、力の弱いレイスのようにね」

「はー。そうなのですか。ですが、人によって見え方が違うということは、レイスとはまったく特徴が違いますね」

 レイスは、誰が見ても同じような姿をしているので、考助やシュレインとはまったく状況が違っている。

 そもそも、人によって見え方が違う存在など、他にあるのかというレベルだ。

 

 感心した表情で頷くルーミヤに、同じように頷いた長老が、さらに付け加えた。

「というわけで、なにか思い当たりはないか?」

「えっ!? 突然ですね。いえ。そうでもないですか」

 考助とシュレインの様子を見れば、なにに悩んでいるのかは、ルーミヤにもすぐにわかった。

 だが、いきなり聞かれてもルーミヤにも心当たりなどない・・・・・・と思ったルーミヤだったが、ふと気になることを思い出した。

「そういえば、ほかにおふたりが見えるのは誰ですか?」

「それなら、アネタだな」

「ああ、なるほど、アネタ様ですか・・・・・・って、あれ?」

 長老の答えに頷きかけたルーミヤだったが、ふと引っかかるものを覚えて首をひねった。

 

 喉元まで言葉が出かかっているような感じで、なんとももどかしい思いをしばらくしていたルーミヤは、やがて両手をポンと打った。

「あの・・・・・・一応確認ですが、祭司の経験者に確認は取りましたか?」

「なにをいっておる。それは当然・・・・・・いや、待てよ? 大地母神か?」

「ええ。私はそれしか扱えないですからね」

 長老の確認するような顔に、ルーミヤは当然でしょうと言う顔で頷く。

 それを見た長老は、盲点だったという表情になった。

 

 長老とルーミヤの会話を聞いていたシュレインが、それまでの悩ましい表情を一変させてふたりのほうを見た。

「なにか思い当たりがあるのかの?」

「うーむ。もしかしたらというものはあるのだが、それが正しいのかは・・・・・・」

 奥に物が詰まったような言い方をする長老に、シュレインが勢いよく振り向いた。

「なんでも構わない。いまは多くのヒントがほしいのじゃ」

「いや、だからといって、大地母神の信仰がある者というのは・・・・・・」

「「あっ!?」」

 長老の説明の途中だったが、考助とシュレインは同時に顔を見合わせて声を上げた。

 

 そして、そのあとすぐに揃って頭を押さえるような仕草を見せた。

「こんな単純なことに気付かなかったとは・・・・・・」

「いや。この時代の信仰の薄さをすっかり忘れていた吾が悪いの・・・・・・」

 考助とシュレインは、そう言いながらどんよりとした表情になった。

 

 そもそもふたりがこの時代に来たときのことを考えれば、大地母神=クラーラが関わることになると考えるのはそう不自然なことではない。

 なにしろ、大元のきっかけである錫杖には、クラーラが手ずから加工を施した宝玉が使われているのだ。

 ふたりの姿の見え方に、クラーラが関係していると考えるのはむしろ当然といっても良いほどだった。

 それを気付けなかった考助とシュレインは、揃って落ち込んだというわけである。

 

 とはいえ、いつまでも落ち込んでいても仕方がない。

 ふたりの様子にポカンとしていた長老とルーミヤに、考助が苦笑をしながら説明をした。

「すみません。答えがわかってしまえば、あまりに単純なことだったので、すっかり落ち込んでしまいました。・・・・・・ですが、お陰で答えは見つかったようです」

「そ、それは良かったのだが、本当に間違いないのか? 大地母神は、さほど知られている神というわけではないのだが?」

 先ほど長老が答えを言い淀んだのは、これが理由だった。

 この時代のヴァンパイア、というか、この里においては、大地母神はさほど信仰が多いとはいえない神なのだ。

 長老をはじめとして、イネスやアネタ、ルーミヤが大地母神を信仰している(ことになっている)のは、里の祭りなどで祭司を勤めることがあるためだ。

 

 長老の言葉に、シュレインは首を左右に振った。

「其方らにとってはそうなのかもしれぬのじゃが、吾らはちと事情があっての。ほぼ間違いないじゃろう」

 交神したことがあるどころか、考助に至っては直接対面したこともあるのだが、そんなことを説明するわけにもいかず、曖昧な答えを返すことになった。

 だが、それでもある程度の事情は察したのか、長老が頷いた。

「なるほど。其方らがそう思うのであれば、ほぼ間違いないのだろう。・・・・・・それで? 一応ほかにも祭司経験者を呼ぶことはできるが、確認はするか?」

 考助とシュレインはほぼ間違いないと確信をしているが、いまのところ予想の域を出ていない。

 より確信を深めるためにも、ほかの信者を呼ぶかと言ってきた長老に、シュレインは頷き返した。

「手間を掛けさせるが、そうしてもらっても良いかの? 万が一のこともあるからの」

 そのシュレインの言葉に、長老は快く頷いた。

 長老は長老で、色々と考えていることもあるのだ。その程度の手間は大したことではないのである。

なにか、この話だけを見れば、考助たちがこんな状態になっているのは、クラーラのせいと見えますが、そんなことはありませんw

あくまでも、ふたりと繋がりが深い神としてクラーラがきっかけになっているだけです。

もっとも、そのことを考助とシュレインが知るのは、ふたりが元の時代に戻ってからのなります。

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