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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 錫杖の役割
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(5)市の光景

 一日かけて里をゆっくりと回った考助は、自分よりも遅れて帰ってきたシュレインからアネタについての報告を受けた。

「ふーん? ということは、僕らを見ることができる人は三人目ということかな?」

「そうなるの」

「それにしても、確かに条件が不明だねえ」

 長老の血族全員が当てはまるのであれば簡単だったのだが、それはすでに否定されている。

 それが余計にややこしくしているのだ。

 

 顎に手を当てて考え込む考助を見ながら、シュレインも頷いた。

「アネタのあとにも何人かと会ったのじゃが、残念ながら他にはいなかったからの。勿論、長老の血族もいたのじゃが」

「うーん。ますますわからないねえ」

 そう言いながら首をひねる考助に、今度はシュレインが問いかけた。

「考助はどうだったのじゃ?」

「こっちは完全にお手上げだね。のんびり歩いていたというのもあるけれど、里が思ったよりも広くて、一日かかっても全部を見れなかったのが驚いたくらいかな?」

「それはまあ、数百単位しか人がいないとしても、それだけの人数を賄うだけの生産も行っておるからの」

 規模としては完全に村なのだが、一日ですべてを見回ることなど不可能なのだ。

 それは、考助の知る町と違って、中央から離れれば、一軒一軒の家(この里では庵)の間が広いせいでもある。

 当然のようにモンスターが出てきているはずだが、どうやって対処しているのかが、逆に不明なほどだった。

 

「よくまあ、モンスターに対処できていると感心したよ」

 そう言った考助に、シュレインも同意するように頷いた。

「確かにの。見た感じ、強固な結界で守られているというわけではなさそうじゃから、モンスターが来るたびに人手で対処しておるのじゃろうがの」

 シュレインが管理しているヴァミリニア城は、周辺に結界が張られていてモンスターの襲撃を防ぐことができる。

 いまのヴァンパイアとイグリッドのいる里はその範囲を超えているとはいえ、いざというときは結界内に逃げ込めばいいだけなので、この里よりははるかに守り易くなっているのだ。

 

 造りよりもそこに住まう人の努力があっての里だと話したあとで、考助はイネスに教えてもらったことをシュレインに告げた。

「そういえば、明日は市が開かれるみたいだから、それに顔を出してみるよ」

「市が・・・・・・? ほう。それは興味深いの」

 基本的には自給自足で成り立っている集落だと考えていたシュレインは、考助の言葉に反応を示した。

 勿論、市が立つからといって、流れの商人が来るとは限らないのだが、人々がどうやって物のやり取りをしているのかも興味があるのだ。

 ほんのわずかに驚きを含ませて自分を見てくるシュレインに、考助は笑って応えた。

「一緒に行く?」

「うむ・・・・・・。そうじゃな。そうしようかの」

 長老の庵にある書物に後ろ髪を引かれながらも、シュレインは考助の言葉に同意するのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 翌日。

 考助とシュレインは、市が立つと教えてもらった場所に立っていた。

「これは・・・・・・」

「思った以上に、賑わっておるの」

 ふたりとも、予想していたよりも規模の大きい市に、驚きを示していた。


 人口が数百しかいない里で、数十近い数の露店が、所狭しと立っている。

 そこに、里中の人が集まっているのではないかというほどの人数が集まっているのだ。

 考助とシュレインが驚くのも無理もないだろう。

「どうですか? 中々の賑わいですよね?」

 いい意味で裏切られて立ち尽くしている考助とシュレインに、イネスがほんの少しだけ誇りや自慢といった感情を見せながらそう言ってきた。

 勿論、考助やシュレインが知る大きな街に比べれば規模は小さいのだが、そもそも比べるのが間違っている。

 

 さらにいえば、考助とシュレインが驚いているのは、開かれている市の規模に対してだけではない。

「・・・・・・これをヴァンパイアが作っているのか」

「・・・・・・吾も驚いたわ」

 考助が知るヴァンパイアは、そもそも大規模な市を開いたりはしない。

 ヴァンパイアの商売は、基本的には個々のやり取りだけで済ませて、商売に関しては、イグリッドに任せるのがほとんどなのだ。

 それは別にヴァンパイアが商売を行っていないというわけではなく、あくまでも個のつながりを重視しているためである。

 だが、そんな常識は、いま目の前にある光景を見て、吹き飛んでしまった。

 

 考助は、目の前の光景からシュレインへと視線を移した。

「これってどういうことなのかな?」

「・・・・・・吾らにも確かにこういった時代があったということじゃの。あるいは、時の流れで失われてしまったなにか、ということじゃろう」

 考助以上に衝撃を受けているシュレインは、感嘆の思いを持ちながらそう答えた。

 別に考助もシュレインも、自分たちの時代のヴァンパイアに、目の前で起こっていることと同じことをしてほしいと考えているわけではない。

 あくまでも、この時代のヴァンパイアと呼ばれる存在は、他の種族と同じような営みをしていたのだと考えているだけである。

 

 そして、市を見ていたシュレインは、その商売の在り方だけではなく、別のことにも注目していた。

「・・・・・・子供の数が多いの」

「えっ。そうなんですか? お爺様とかに聞いた限りでは、ようやくこの時代になって元の状態に戻ってきたと言っていましたよ?」

 シュレインの呟きに気付いて、イネスが驚きながらそう言ってきた。

「元の状態ということは、この里を作る前のことを言っているのかな?」

「はい。そう聞いています。私は、この里しか知らないのですが」

 考助の問いに、イネスがまじめな顔になって頷いた。

 

 イネスは、里ができてから生まれた子なので、その前の時代はまったく知らない。

 あくまで親世代に話を聞いているだけだ。

 いまの状態が、イネスにとっては当たり前の状態というわけである。

 だからこそ、イネスはシュレインがなにに対して驚いているのかがわからない。

 

 考助は考助で、シュレインが呟くまで子供の数に関しては、まったく注目していなかった。

 それもそのはずで、ヒューマンである考助にとっては、ごく当たり前の光景だったからだ。

 だが、確かに言われてみれば、ヴァンパイアの集落と考えれば子供の数が多く見える。

 考助が知るヴァンパイアの集団は、塔にいるヴァンパイアたちしか知らないのだが、複数の一族が集まっていることから考えても、自分たちのいる時代のヴァンパイアにとっては当たり前の光景のはずだ。

 それが、いまいる時代のヴァンパイアは、見た感じでは普通のヒューマンと変わらないような世帯数に見える。

 シュレインが驚いていることから、自分も持っている常識が間違いではないことはわかるのだが、では一体目の前にある光景はどういうことなのか、という不思議も出てくる。

 

 勿論、目の前の光景に一番驚いているのは、シュレインである。

 どちらかといえば、驚いているというよりも動揺しているといってもいいかもしれない。

 同時に、ヴァンパイアに取って子をなすということがどういうことなのか、自分が知る価値観とはまったく違うからこそ、これだけの子供がいるのだということも頭のどこかで理解していた。

 だからこそ、次に思い浮かんだのは、その違いは一体なんだろうということだった。

 それを知ることは、長老の庵にある書物を読むことよりもはるかに重要だと、真剣な表情で市の様子を見始めるのであった。

市の様子を見て、ちょっとしたカルチャーショックを受けるふたりでした。

とくにシュレインは、ちょっとした、では済まないかもしれませんねw

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