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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第4章 錫杖の役割
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(4)三人目

 シュレインが長老の庵で書物を確認し始めた日の午後には、シュレインを訪ねて何人かの者が長老の庵にやってきた。

 勿論、シュレインの希望に応えて、それぞれがなんらかの書物を携えてきている。

 既に三人の者と対面(?)を果たしているが、その中にシュレインの姿を確認できる者はいなかった。

 ちなみに、持ってきた書物は、最初から打ち合わせをしていたのか、長老の庵にはないものだった。

 残念ながらそのうちの三分の二は、シュレインも目を通したことがある物だったので返却し、残りの物はあり難く借りることとなった。


 そして、預かった書物に目を通していたシュレインのもとに、四人目の訪問者が訪ねてきた。

「長老~! 来ましたよ~」

 他の庵とは違って、長老の庵は広いとはいえ、そこは所詮庵でしかない。

 入り口で声を出せば、すぐに聞こえてくる。

 その女性らしき声にシュレインが反応して顔を上げた。

 そして、それを見ていた長老は、額に手を当てた。

「・・・・・・また、あやつは・・・・・・客人がいるという意味をわかっているのか」

 長老は、そうブツブツ呟きながら、入り口に向かって歩き始めた。

 

 

 長老が連れて来た女性は、見た目が二十代後半に見えるヴァンパイアだった。

 もっとも、ヒューマンに比べて二十代が長いヴァンパイアにおいて、見た目はあまりあてにはならない。

 ついでにいえば、年齢を気にするような文化でもないので、シュレインも聞くことはしなかった。

 それよりも、シュレインが驚いたのは、その女性がはっきりとシュレインのほうを見て、驚きを示していたことだ。

「アネタ。そちらにシュレイン殿が・・・・・・と? もしかしなくとも、見えるのか!?」

「そのようじゃの」

 驚く長老に対して、シュレインが自分をまっすぐに見つけてくるアネタを見ながらそう答えた。

 

 一方のアネタは、シュレインの姿を見て目を丸くしていた。

「アムであることは聞いてたけれど、実際に見ると驚くわねえ」

 若干間延びした感じで言ってきたアネタだったが、ピーチで慣れているシュレインは、それを気にすることなくアネタに切り返した。

 付け加えれば、のんびりとした感じは、ピーチのほうがアネタよりも強かったりする。

「それはそうじゃろうな。なにしろ、吾自身が驚いておるのじゃから」

「アハハ。そちらさんも大変ですねえ」

 シュレインの言葉に、アネタはのほほんとそう切り返した。

 

 アネタの対応に、頭を抱え込むようにしていた長老が、シュレインを向き直って呆れたような顔を見せた。

「済まないな。大事な客人であることは話してあるのだが・・・・・・」

「吾は構わないがの。それよりもいまは、別のことが重要じゃろう?」

 シュレインにしてみれば、アネタの態度うんぬんよりも、自分を見えていることのほうがはるかに重要だった。

 三人続いて駄目だったので、次もあまり期待はしていなかったのだが、思わぬ拾い物をした感じだ。

 

 シュレインの疑問に、長老が頷いてからさらに情報を追加した。

「とりあえず、アネタは吾の血族だ。イネスから見れば母親で、吾から見れば不肖の娘だな」

「不肖って、ひどいと思うんだけれど?」

「血族? なるほどの」

 話が進まなそうだったので、アネタの抗議をサクッと無視したシュレインは、そう言いながら頷いた。

 

 ヒューマンほど血の繋がりを重要視しないヴァンパイアだが、それでもやはり多くの場合は、血族に多くの物を残すのが普通だ。

 例えば、この里でいえば、長老の座は他に兄弟がいなければ、アネタが継ぐことになると言った感じである。

 それを考えれば、長老の血族がシュレインの姿を見ることができるというのも、ある程度納得できるということだ。

 

 だが、そのシュレインの考えを見抜いたのか、長老が首を左右に振った。

「残念ながら血族であることが条件ではなさそうだぞ? 先ほどの三人も吾の血族だからな」

 せっかくいい手掛かりを見つけたと考えていたシュレインは、驚きで目を丸くした。

「なんじゃと? 其方の血族は何人おるのじゃ!?」

 シュレインが驚いたのには勿論わけがある。

 

 アムである自分を見ることができる者が、血族ではないということもそうだが、血族の多さに驚いたのだ。

 シュレインが知っているヴァンパイアは、さほど多くの血族を作ったりはしていない。

 夫婦という形態のカップルがいたとして、せいぜいがひとりかふたり子供を作ればいい方だった。

 ちなみに、シュレインは一人娘のため、大層大事に育てられたという記憶がある。

「念のため確認させてもらいたいのじゃが、アネタは何人兄弟じゃ?」

「私? 自分も含めて三人ですね」

「先ほど来た三人のうち、ふたりがこやつの兄弟だな」

 アネタの説明に、長老がさらに詳しく付け加えた。

 

 シュレインは言われるまで気付いていなかったが、確かに言われてみれば似ている感じがある。

「・・・・・・なるほど」

 そう呟いてから考え込むように顎に手を当てたシュレインに、長老が注目した。

「なにかあったのか?」

「いや。・・・・・・いや、ひとつアネタに聞きたいのじゃが、吾の姿はどう見えておるのじゃ?」

「姿?」

 シュレインの問いに首を傾げつつ、アネタはさらに続けた。

「ごく普通に、美人な顔とスタイルの良いお身体が見えているけれど?」

「なんだと!?」

 半分茶化したようなアネタの言い方に、しかしながら長老が驚きで目を瞠った。


 イネスと長老には、シュレインの姿ははっきりと見えていないのだ。

 だが、いまのアネタの言葉は、ごく普通の人としての姿として見えていると言っている。

 長老が驚くのは、ある意味で当然だった。

 ただし、シュレインはそれを予想していたように、まじめな顔で頷いた。

「なるほどの。・・・・・・その辺りに、なにかヒントがありそうじゃの」

 これまでは長老とイネスしかいなかったため比較対象が少なすぎたが、三人目が現れたとなると話が変わってくる。

 しかも、三人揃って見え方が違っているのだから、シュレインが言った通り、それがなにかの鍵になっていそうだった。

 

 長老とアネタ、交互に視線を向けたシュレインは、さらに続けて言った。

「イネスとアネタ、長老に共通していることで、程度に差があるものはないかの? 付け加えれば、今日来たほかの三人が関わっていなければ、なおいいがの」

 シュレインの言葉に顔を見合わせた長老とアネタだったが、揃って首を傾げた。

「そうはいってもな」

「私が関わっていて、兄様たちが関わっていないことなんてあったっけ?」

 血族として伝えられるものは、しっかりと伝えて来た長老だっただけに、アネタだけに伝えたものというのが思い当たらない。

 ちなみに、イネスの場合は、アネタの娘だけにそのルートで伝わったと考えるのが自然だ。

 

 しばらく悩んでいた長老とアネタだったが、やがてほぼ同時に首を左右に振った。

「いくら考えてもわからないな」

「そうねえ。いくつか思い当たるものもなくはないけれど、どれもほかの人も共通している気がするから」

「・・・・・・ふむ、そうかの。いや、とりあえず、三人目が見つかっただけでも良しとしようかの。お陰でほかの者が見つかる可能性も出て来たじゃろう」

 実は三人で打ち止め、という可能性もあるのだが、シュレインはあえて明るい表情でそう言った。

 考助と相談してから次の日には、新しいヒントが見つかったのだから喜んでいいだろう。

 早く元の時代に戻りたくはないのかと言われれば、それは早く戻りたいと答えるが、焦っても仕方ないということもわかっているのだ。

 結局、この日は長老もアネタもなにが共通項なのかわからずに、揃って首を傾げつつ別れることになった。

イネスから見て、長老(祖父)、アネタ(母)ということになります。

(書かなくても分かるかw)


ちなみに本文でも断言していますが、考助たちが見える条件は、血族だからというわけではありません。

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