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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 過去へ訪問
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(4)再会?

 考助とシュレインが現場に駆け付けると、そこではひとりの女性――イネスが三体の狼に囲まれていた。

 それを見て考助が思わずおまぬけな問いをしてしまったが、シュレインから呆れたような視線を向けられてしまった。

 そして、考助とシュレインの登場に驚いているイネスを余所に、ふたりはさっさと狼に対処を始めた。

「怪我は・・・・・・軽いものだけかな? とりあえず、これで」

 と、考助がごそごそとなにやら道具を触ったと思えば、

「こっちは吾が対処しておくからの」

 と威勢よくシュレインが狼に向かって行った。

 考助が「お願いね」と返事したときには、すでにシュレインは一体の狼を錫杖で叩き伏せていた。

 

 シュレインの攻撃に狼が「ギャウン!」と声を上げて転がっていき、残りの二体は警戒するように唸り始める。

 普通であれば、弱いはずのイネスを狙いに来るはずなのだが、そのときの狼はなぜか向かってくることはなかった。

 そして、シュレインが一言、

「これ以上歯向かうのであれば、本気で叩き伏せるがの?」

 と言うと、狼たちは文字通り尻尾を巻いて森へと戻って行った。

 シュレインの発する気迫に押されたのだ。

 

 狼たちが逃げ出すのをきちんと確認した考助は、イネスに向かって笑顔を向けた。

「大丈夫かな?」

「あ、はい。大丈夫です。あっ! ありがとうございました!」

 心配そうに顔を向けて来た考助とシュレインに、立ち上がったイネスが頭を下げる。

 そして、一瞬だけ言葉を詰まらせたあとに、申し訳なさそうに話を切り出した。

「あの・・・・・・助けていただいておいてこんなことを聞くのもなんですが、おふたりはいったいどういった方なのでしょうか?」

「この場合は、旅の冒険者、になるのかな?」

 直球なイネスの質問に、考助は思わず言葉を詰まらせたあとに、無難な答えを返した。


 考助の困ったような表情を見たイネスは、慌てて両手を振った。

「あっ! いいえ。そういうことではなく! 強そうなおふたりが、なぜそんな姿になっているのかをお聞きしたかったのですが・・・・・・」

 そのイネスの言葉に、考助とシュレインは顔を見合わせた。

 どうやらイネスは、考助とシュレインの身の上を聞きたいのではないのだとわかったのだ。

 だが、ふたりには、イネスが何を言っているのかわからない。

「済まぬが、吾らにはなにをいっているのかわからないのじゃが・・・・・・」

 シュレインがそう答えると、イネスは悲痛な表情を浮かべて頷いた。

「・・・・・・そうですか。やはりおふたりは、気付かれていないのですね」

 

 なにやらそう言ってひとりで納得しているイネスに、考助とシュレインはもう一度顔を見合わせた。

 そして、シュレインが不思議そうな顔になって、どういうことかをイネスに問いただした。

「ふむ。吾らになにやらあるようじゃが、きちんと教えてもらってもいいかの?」

「勿論です」

 イネスはそう答えてからシュレインに視線を向けた。

「貴方は私と同族のようですから単刀直入に言いますが、私にはあなたたちは『アム』のように見えます」

 アムというのは、ヴァンパイアの古い言葉で魂という意味だ。

 

 勿論、シュレインはきちんとその言葉に意味を知っているので、目を丸くして驚いた。

「なんと! そういうことじゃったか」

 ようやくイネスの態度の意味を理解したシュレインは、そう言ったあとに笑い出した。

「なんとも、まさか吾がこのような体験をすることになるとはの。本当に其方と一緒にいると退屈することがないの」

 シュレインは、そんなことを言いながら考助のことを見るのであった。

 

 イネスの目には、考助とシュレインは魂のように透明な存在に見えていた。

 ちなみに、イネスにはミツキの姿は見えていない。

 そのことを考助とシュレインが知るのは、もう少し先のことだ。

 

 シュレインとイネスの会話に、考助が戸惑ったような視線をシュレインへと向けた。

「どういうこと?」

「うむ。どうやらいまの吾らは、レイスのような状態になっておるようじゃの」

「レイスの・・・・・・あ~、納得」

 いまの自分たちの状況を考えれば、魂のような姿になって見えるのも納得できる。

 魂の存在になっていると知ってのんびりとしている考助を見て、逆にイネスのほうが戸惑っていた。

「あ、あの。驚かれないのですか?」

 レイスという存在がいる以上、魂の存在になることはあり得ないことではない。

 ただ、魂になるということは、大抵は現世(?)で死んでしまうことが条件になっていることがほとんどなので、信じられないと混乱するのが普通なのだ。

 ところが、考助もシュレインも慌てふためくどころか、納得の顔になっている。

 それが、イネスには信じられないのだ。

 

 目を見開いて不思議そうな顔をするイネスに、シュレインは苦笑を返した。

「まあ、其方も気付いておると思うがの。吾らにも事情があっての。アムになっていても、まああり得るかという感想しか持てないのじゃよ」

「・・・・・・そうでしたか」

 シュレインの説明で完全に納得したのかはともかく、イネスはそう言って頷いた。

「ところで、其方の名前を聞いてもよいかの?」

「あ、これは失礼いたしました。私は、プロスト一族のイネス、と申します」

 ここでようやくいままで話をしていた相手があの(・・)イネスだと気付いた考助とシュレインは、またまた顔を見合わせるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 イネスが里に案内する道中で、考助とシュレインはいよいよ当たってほしくない予想が当たってしまったと確信することになった。

 そもそも状況証拠(?)だけでも材料が揃っていたところに、イネスの登場。そして、イネスの口から聞く世界の状況を鑑みれば、どう考えてもいまふたりがいるのは、考助とシュレインが知る世界よりも遥か過去の世界だということになる。

 いよいよもってどうしようもない状況に追い込まれたふたりだったが、イネスがいるところでそのことを話すほど愚かではない。

 考助とシュレインは遥か未来のイネスのことは知っているが、いま相対しているイネスのことはよく知らないのだ。

 薬草採取の最中に助けられたことで、好意的な感情を持っていることはわかるが、逆にいえばそれしかないともいえる。

 完全に信用するには、まだまだ時間が足りなかった。

 

 対するイネスも当たり前だが、考助とシュレインのことを完全に信頼しているというわけではない。

 薬草を待っている患者がいて急いでいる上に、考助たちが里にいきたいと言ってきたので案内しているだけだ。

 一瞬で狼三体を追い払った腕を考えれば、ある程度警戒するのは当然のことだろう。

 この世界には、笑顔を見せながら、裏で多くの人を切り捨てるような者もいるのだから。

 

 考助たちの態度は、珍しいものではなく、むしろこの世界では当たり前の状態だ。

 そして、ある程度の緊張感を保って適当な会話を続けながら、三人(プラス一名)はプロスト一族の里へと着いたのである。

いつもより少しだけ文字数が少ないですが、切りがいいので今回はここまで。

次は、お互いに緊張感を持ちつつ、里へと入ります。

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