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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第3章 過去へ訪問
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(2)予想外の事態

 最初に違和感に気付いたのは水鏡に触れていたピーチだったが、事の重大さに気付いたのは考助だった。

 ピーチの表情に気付いた考助が、水鏡と錫杖に目をやったときに、両方が揃って共鳴するように震えていることに気付いたのである。

 続いて水鏡から出て来た神力がシュレインに向かったことに気付いた考助は、慌てて彼女の腕を取った。

 考助に腕を取られて、シュレインがびっくりした表情を向けるのと考助が叫ぶのはほぼ同時だった。

「シュレイン!!」

 そして、その考助の言葉が部屋の中に響いた直後に、ふたりの姿は消えていた。

 

 当然、ふたりの姿が消えた部屋の中は、混乱に陥った。

 考助の護衛として傍についていたミツキがいきなりその場に倒れたことも、それに拍車をかけている。

「ピーチ、どういうことだ?!」

「えっ!? え、どういうことって言われても、わかりません!?」

「フローリア、落ち着いてください。この状況は、どう考えてもピーチにもわからないでしょう」

 慌ててシルヴィアが仲裁に入るが、その当人も予想外の事態に慌てているのは見ればわかる。

 

「主様!?」

 コウヒが慌てた様子で室内に入ってきたのは、そのときだった。

 彼女は、メイドゴーレムのメンテナンスのためにそばを離れていたのだ。

 部屋の中を見回して考助がいないことと、ミツキが倒れていることに気付いたコウヒは、厳しい顔になって三人を見た。

「どういうことですか?」

 そう問いかけて来たコウヒの声が低くなっている三人は、思わず揃ってゴクリとのどを鳴らした。

 

 

 コウヒが部屋に来たことによって、ある程度落ち着きを取り戻した三人は、順番にいま起こったことを話し出した。

 といっても話せることはさほどない。

 コウヒも考助たちが錫杖の検証をすることは知っていたのだ。

「――――つまり、いざ検証を始めたら主様がシュレインの腕を取って、同時に消えたということですね? そして、ミツキはそれに合わせるようにして、倒れたと」

「そ・・・・・・そういうことだ」

 コウヒからの圧力になんとか対応しつつ、フローリアが頷いた。

「水鏡を触っていつもとは違うことに気付いたのですが、あまりにも一瞬すぎて、なにもできませんでした」

「・・・・・・今回の場合、ピーチを責めるのは間違っていますわ。まったく動けなかったのは私たちも同じなのですから」

 シルヴィアが、落ち込むピーチに声をかけてそう慰めた。

 

 コウヒは別に三人を責めているわけではない。

 話を聞いたうえで、なおさら三人に責任があったわけではないと確信したのだから、当然だろう。

「それにしても、気になるのはミツキの状態ですが・・・・・・」

 硬い表情のままコウヒは、倒れたままのミツキのもとへと近付いて行った。

 両ひざを地面に着いたコウヒは、ミツキの身体のあちこちを触りながら、仰向けになるように体勢を直していく。

 そして、ミツキの額に手を置いたコウヒは、珍しいことに驚きの表情になった。

「・・・・・・魂が抜けている?」

 息を詰めるようにコウヒの様子を見ていたほかの三人は、その言葉に驚愕の表情になった。

 

 固い表情から難しい表情に変わったコウヒに、シルヴィアが代表して問いかけた。

「コウスケ様を追いかけて、ということでしょうか?」

 いまの状況を見るにそれしか考えられないからこそ、シルヴィアはそう聞いたのだ。

「おそらく・・・・・・ですが。でも、本当にそうなのかは私にもわからないですね。ミツキの身体が無事に動いている以上、主様に危険があるとは思えませんが・・・・・・」

 言葉を濁すコウヒに、今度はフローリアが眉を寄せて聞いた。

「どういうことだ?」

「ミツキの魂が抜けているということは、確実に主様を追いかけて行くためだと思われます。ですが、ミツキがわざわざそんな手段を取らざるを得なかったとなると、よほどのことが起こっているとしかわかりませんね」

 コウヒは、そう説明しながら相変わらず厳しい表情を崩していない。


 初めて見るようなコウヒの顔を見れば、コウヒにとっても尋常ならざる事態が発生していることがわかる。

「コウヒ様でも、コウスケさんがどういう状態にあるのかはわからないのですか?」

 さすがにいつもののんびりとした雰囲気を消したピーチに、少しだけ間をあけたコウヒは首を左右に振った。

「・・・・・・残念ですが」

 その答えに、シルヴィア、ピーチ、フローリアは、また驚きの表情になる。

 彼女たちにしてみれば、常に考助を中心に置いているコウヒが、考助の状態を確認できないということが信じられないのである。


「女神たちの神域にでもいかれたのでしょうか?」

 コウヒが考助を見失うという状態がそれくらいしか思い付かなかったシルヴィアが、そう呟いた。

 だが、そんなシルヴィアに、コウヒは首を左右に振った。

「それは私にもわかりません。シルヴィア、すぐに連絡を取ってもらえますか?」

 誰に、などとは言われなくてもすぐにわかる。

 コウヒに手に負えない事態を解決できる存在など、限られた数しかいない。

 その中でシルヴィアが直接やり取りできる者は、ひとりしかいなかった。

「わかりました」

 コウヒの要請に、堅い表情で頷いたシルヴィアは、すぐさま椅子に座り、常に身に着けている交神具を手に取るのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 シルヴィアが交神具を手に取ると、そのタイミングを見計らっていたように、エリスから交神が来た。

 エリスからの交神はまったくないというわけではないが、シルヴィアが交神具を手に取ったというタイミングを考えれば、いままでになかったことだった。

 それだけをとっても今回の件が、エリスにとっても重要な事態だということがわかる。

 そしてそれは、次のエリスからの言葉で、裏付けされることとなった。

『まず、最初に言っておきますが、こちらでも考助様の居場所は、いまだ特定できていません』

 いきなり本題に入った上に、その内容の重大さに、シルヴィアは息をのんだ。

 まさか、エリスでも考助の居場所を把握していないとは考えてもいなかったのだ。


「それは、どういうことでしょう?」

『考助様が、たとえどこに行ったとしても、いまの(・・・)この世界であれば見つけることができます。ですが、考助様は見つけることができませんでした』

 エリスのその説明に、シルヴィアはまさかの事態を想像して顔を青くした。

 だが、エリスはそんなシルヴィアに落ち着くように、さらにゆっくりとした口調で続けてきた。

『勘違いしないでください。最悪の事態に陥っているわけではありません。それはそこにいるコウヒにもわかっているはずです』

「ですが・・・・・・」

 女神たちにも居場所が把握できないという事態が信じられずに、シルヴィアはどうしても最悪の事態を考えてしまう。

 

 そんなシルヴィアに、エリスは驚愕の提案をしてきた。

『こちらも考助様の居場所を早くはっきりさせたいと考えております。ですので、女神を一柱、そちらに送ります』

 そのエリスの言葉に、シルヴィアはいままでの感情をすべて忘れて、思わず呆けてしまった。

「・・・・・・は?」

『送る女神は、当事者であるクラーラ神になります。本来であれば禁じ手に近いのですが、事態が事態ですので致し方ありません。そちらにクラーラが着いたら対応願います。詳しくはクラーラから話を聞いてください』

「えっ!? ちょっ、まっ・・・・・・!?」

 突然のことにシルヴィアは慌ててエリスを呼び止めようとしたが、すでにそのときには交神は終わっていた。

 言いたいことだけを言って交神を切ってしまうことはよくあるが、今回のそれはシルヴィアにとっても初めてのことだらけだった。

 

 それだけ、エリスが忙しいことになっているということなのだが、いくらなんでもこれはないだろうとシルヴィアが考えるのも無理はないのであった。

大慌ての管理層でした。

いったい考助たちはどこに行ったんだー。(棒)


ちなみに、アスラの神域でも大騒ぎになっています。

エリスが言いたいことだけをいって切ってしまったのは、その対応で大わらわだからです。

さすがに今回ばかりはジャルも大忙しw

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