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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 錫杖の変化
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(7)神具→神器?

 シュレインとフローリアが落ち着いたところで、考助はさっそくシュレインに問いかけた。

「なにをしたの?」

「なにをと言われても吾も困るの。あの儀式は本来精霊に祈りを捧げるものじゃ。フローリアに舞ってもらったのは、相性がよさそうだと考えたからじゃの」

 シュレインが見つけた儀式は、もともとヴァミリニア一族に古い歌として伝わっていたものだった。

 ヴァミリニア一族ではただの歌で、儀式だとは伝わっておらず、今回見つけた文献でそれが儀式だとわかった。

 それならば、せっかくなのでフローリアの舞と合わせればどうなるかと考えて試してみたのである。

 先ほどのことはシュレインにとっても予想外だったが、途中で止めるわけにもいかないので、最後まで続けたというわけだ。

 ちなみに、フローリアはシュレインに言われるままに踊っていたので、途中で止めるという選択肢はなかった。

 

 シュレインの言葉に、考助は腕を組んで考え込むような顔になる。

「精霊に祈り・・・・・・ね。僕にはむしろ、錫杖が精霊を取り込んだように見えたけれど?」

 取り込んだと表現すると無理やりに奪ったようにも聞こえるが、どちらかといえば、先ほどの儀式では精霊たちが喜びながら錫杖に向かっていた。

 考助が敢えてこう言ったのは、儀式(契約)という形を取っている以上、精霊には逆らえないように思えたからだ。

「そうはいってものう・・・・・・。祝詞の言葉自体は、本当に精霊に感謝の祈りを捧げるものでしかないのじゃが?」

 シュレインにしても、なにかが起こるだろうとは考えていても、実際になにが起こるかはやってみなければわからなかったのだ。

 あそこまで劇的な結果が出るとは、まったく予想していなかった。

 

 困惑しているシュレインを問い詰めるような姿勢になっている考助に、フローリアが宥めるように間に入ってきた。

「まあまあ。コウスケはなにをそんなに焦っているのだ? 錫杖に精霊が加わっただけだろう?」

 若干焦っているようにも見える考助に、フローリアは不思議そうな顔をした。

 見ればシルヴィアもフローリアと同じような顔になっている。

「焦って・・・・・・? あ~、いや、ゴメン」

 フローリアに言われて初めて自分が詰問口調になっていることに気付いた考助は、シュレインに小さく頭を下げてから続けた。

「いまの儀式で、その錫杖が神具から神器により近付いたからね」

「はいっ・・・・・・!?」

 考助の言葉に、はっきりと驚きの声を上げたのはシュレインだったが、ほかのふたりも驚いたのか、目を丸くしている。

 

 一般的に神具と神器の違いはあまり知られていないが、神力の存在を知っている考助たちにとっては、明確な違いがある。

 簡単にいえば、神力を使って動く道具が神具であり、神器もその一種である。

 神器と言われている道具は、神の権能のような強大な力を持っている神具ということになる。

 これまでは神器とは言えないような錫杖だったのだが、今回の儀式でよりそう呼ばれるのにふさわしい力を持った。

 クラーラの力が宿った宝玉を使っている時点で神器と呼べなくはなかったのだが、それでもそこまで強い力はなかった。

 それが、見事に開花(?)したということになる。

 

 少ししてから頭を押さえたシュレインは、

「あ~、つまりはなにか? この錫杖は意思を持ったというわけかの?」

 シュレインが間近で見ている神器は、百合之神宮に奉納されることになった三種の神具しか知らない。

 それらは、考助がはっきりと意思を持っていると断言しているので、シュレインがそう勘違いするのも無理はなかった。

「いや、そういうわけじゃないけれどね。というか、別に全部の神器が意思を持っているというわけじゃないよね?」

 後半の疑問は、シルヴィアに向けたものだ。

 考助の知識は、ほとんどが本からのものなので、一般的な認識とずれていることもある。

 いちおうそのことは自覚しているので、シルヴィアに確認を取ったのだ。

 

 考助に視線を向けられたシルヴィアは、ひとつ頷いてからさらに付け加えた。

「それで間違っていません。ただ、一般的には神具も神器もそこまで明確に区別されているわけではありませんが」

 神殿では神器を見分ける専用の職があるためはっきりと区別されているが、神具も神器も普通では考えられないほどの力を持っているため、一般的にはさほど大きな差があるわけではない。

 どちらにしても使い方を誤れば、危険な道具であることには変わりはないためだ。

「錫杖が神具から神器になったとして、なにか問題でもあるのか?」

 難しい顔でそう聞いてきたフローリアに、考助は首を左右に振った。

「まったくないわけではないけれど、力の制御が難しくなるとかいったことはないよ。その辺は、ほかの神器と一緒だね」

 考助が懸念していたのは、使用者であるシュレインが、神器に近付いたことを認識していないことだ。

 強い力を持つ道具だとわからずに、好きなようにいじり倒して暴走でもさせてしまった場合は、目も当てられない。

 

 その当事者であるシュレインは、幾分かホッとし表情になった。

「力の扱い方が変わったわけではないのじゃな?」

「そうだね。・・・・・・さんざん脅したみたいで悪いけれど、そこまで劇的に変わったわけじゃないよ。ただ、しばらくは新しいことにチャレンジするのはやめて、使うことに慣れたほうがいいかもね」

「わかったのじゃ」

 考助の助言に、シュレインは神妙な顔をして頷いた。

 ものがものだけに、慎重になるに越したことはない。

 考助も別に思いっきり使ったら駄目だと言っているわけではないのだ。

 当分は、手になじませるためにいつも通りの使い方をすればいいだけである。

 

 シュレインを横目で見ながら、今度はシルヴィアが考助に質問をした。

「錫杖の使い方に注意するのは良いとして、結局、どんな力が増えたのでしょうか?」

「それがねえ。どうも精霊の大半は宝玉のほうに流れたみたいで、よくわからないんだよね」

 考助の回答に、シルヴィアが不思議そうな顔になった。

「わからないというのは?」

 エリスやクラーラの助言を受けているとはいえ、錫杖を作ったのは考助だ。

 ある程度の把握はしているものだと、シルヴィアは考えていたのである。

「その宝玉は、クラーラが手を加えているからね。さすがにクラーラの権能にどんなものがあって、シュレインが使うとどんな現象が起こるかまではわからないってこと」

「ああ、そういうことですか」

 これが力の弱い女神であれば使える権能も簡単に特定できるのだが、大地母神ともなれば権能も様々なものがある。

 中には考助が把握していないものもたくさんあるだろう。

 その中で、なにが錫杖の力として発揮されるかまでは、考助の想像の範囲外である。

 

 考助の説明を受けて、シルヴィアが視線をシュレインへと移した。

「交神をして、クラーラ神へ確認を取ったほうがいいかもしれませんね。答えが得られるかはわかりませんが」

 神の権能については、神殿でもすべてを把握しているわけではない。

 それが、女神たちが隠しているのか、単に教えていないだけなのかはわかっていない。

 シルヴィアが言った通り、クラーラが教えてくれるかは、聞いてみないと分からないのだ。

「むう・・・・・・。できればお手を煩わせたくはないのじゃが・・・・・・そうも言っていられる状況ではないの」

 シルヴィアの言葉を受けて、シュレインが難しい顔で唸ったが、最後にはそう了承するのであった。

着実に錫杖がレベルアップしていますw

次は、前半で(?)クラーラとの話し合い。

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