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塔の管理をしてみよう  作者: 早秋
第2章 錫杖の変化
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(6)新たな儀式(舞?)

 エリサミール神とクラーラ神という二柱の神が関わったことで門外秘に近い状態になった錫杖だが、シュレインは気にしないでいままでと同じように使うことにした。

 というよりも、考助からきちんと使うようにと言われたのだ。

 下手にヴァンパイア内で崇め奉って、ただの飾りと化した場合は、下手をすれば考助たちが苦労してこの世界で探し出した三つの神具と同じようなことになってしまう。

 さすがにあの神具のように完全な意思を持つまでには至っていないのだが、それでも面倒なことになるのは間違いない。

 と、そこまで考助に言われてしまえば、シュレインとしても使わないという選択肢はなかった。

 ただし、最初は恐れ多いと気が引けるように使っていたシュレインだったが、それも数日もすればすっかり慣れてしまっていた。

 さらにいえば、以前よりもさらに儀式がやりやすくなったと、考助に報告するほどになっていた。

 その辺りの図太さは、敢えて誰とは言わないが、類は友を呼ぶといったところなのだろう。

 

 そして、新生・錫杖の扱いにもすっかり慣れて、以前と同じように儀式の調査を行っていたシュレインは、とある文献の中に気になる記述を見つけた。

「これは? ・・・・・・ふむ。なるほどの・・・・・・。じゃが、しかし・・・・・・」

 シュレインは記述を読み進めながらブツブツと呟きだしたが、幸いにして(?)その場には他に誰もいなかったので、それを見られることはなかった。

 ただ、見られたとしてもそれを気にすることはなかっただろう。

 いまのシュレインは、それほどまでに文献に集中していた。

 やがて文献から顔を上げたシュレインは、考え込むような顔をしてから、いま座っている席を立って、その場から離れるのであった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ヴァミリニア城にいるはずのシュレインが自分の傍にやってきて「試したいことがあるのじゃが」と言われたフローリアは、突然のことに目を丸くした。

「どうしたのだ? いきなり?」

 シュレインから頼みごとをされることは初めてではないが、ここまで唐突に、しかも若干慌てた様子で頼まれたのは初めてのことだ。

 そのためフローリアは、あからさまに驚きを示したのだ。

 それは別に、不快感を覚えてのことではない。

 

 フローリアの様子を見て、ようやく自分の状態に気付いたのか、シュレインが小さく深呼吸をした。

「いや、済まぬ。少し手伝ってほしいことがあっての」

「手伝い? 私がか?」

 シュレインが関係していることで、フローリアと接点があることとすれば塔に関係することしか思い当たらない。

 だが、錫杖を握っているシュレインを見る限りでは、そうではないと察することができた。

 だからこそフローリアは首をかしげたのだが、シュレインは大きく頷いた。

「うむ。其方にしかできないことでの」

「私が? どういうことだ?」

 ますます意味がわからなくなったフローリアが首を傾げる。

「それはの――――」

 シュレインが、そう前置きをしてから話を進めると、それを聞いていたフローリアもようやく納得の表情になった。

 確かにそれは自分にしかできないだろうとわかったのだ。

「よかろう。さっそくがいいか?」

「そうじゃの。できればそのほうが助かるの」

 シュレインがそう答えると、フローリアも頷いて準備のために動き始めた。

 それを確認したシュレインは、管理層の訓練場へと歩き始めるのであった。

 

 

 シュレインがフローリアに頼んだのは、神具の劔を使って演舞を舞ってもらうということだった。

 勿論それだけではなく、フローリアの舞に合わせて、シュレインがとある儀式を行うのだ。

 ようするに、シュレインが見つけた新たな儀式というのは、演舞に合わせて使われるものだ。

 その儀式がどんな効果をもたらすのかはやってみないとはっきりとはわからないが、精霊に干渉するということはわかっている。

 それがどんな効果をもたらすのか、フローリアも興味があったので、すぐに試そうということになったのである。

 シュレインの新たな試みについてフローリアが話したのか、訓練場には考助とシルヴィアも来ていた。

 当然のようにコウヒとミツキの姿もある。

 結局、最近のいつものメンバーが集まったところで、シュレインの儀式とフローリアの舞が始まった。

 

 今回のフローリアの舞は、シュレインの祝詞をバックに踊ることになる。

 祝詞といっても、どちらかといえば歌に近い感じで、リズムもあれば音程も存在している。

 シュレインも文献だけでそれがわかったわけではなく、もともとヴァミリニア一族に伝わっていた儀式のひとつだったのだ。

 文献に書かれていたのは、儀式そのものではなく、その儀式を使った方法がシュレインにとっては目新しかったのだ。

 

 シュレインの祝詞に合わせて、フローリアが舞いを舞っていく。

 初めて合わせる曲のはずなのに、ふたりのタイミングはばっちりだった。

 これは、シュレインよりもその場で合わせられるフローリアの技術があってのことだ。

 それに、そもそもシュレインは祝詞を舞いに合わせようとして唱えているわけではない。

 最初からそうするつもりでフローリアと打ち合わせをしてあったのだ。

 

 フローリアが舞いを始めてから数分後、状況に変化が現れた。

 劔を持って舞うフローリアの周りに、精霊が漂うことは初めてのことではないのだが、それ以外にも精霊が反応を見せ始めたのだ。

「・・・・・・これは?」

 首を傾げつつ小さな声を出した考助に、隣で見ていたシルヴィアが答えた。

「シュレインの祝詞に反応しているようですね。いつもよりも舞の効果が高くなっているのか、あるいは精霊の力が増幅されているのか・・・・・・」

「コレットがいないのが悔やまれるね」

 考助やシルヴィアにも、いつもよりも精霊から受ける力が増しているのはわかるが、それが舞のお陰なのか、精霊のお陰なのか区別ができない。

 考助の言う通り、この場にコレットがいればすぐに答えは得られただろうが、残念ながら里にいるので今回は来ていないのだ。

 

 考助とシルヴィアが悔やむ中、シュレインの儀式とフローリアの舞は順調に進んで行った。

 時間にすれば十分程度のことだったのだが、それでも観覧者である考助たちには十分堪能できる時間だった。

 そして、フローリアが舞いを終えて、考助が話しかけようとしてその瞬間、それは起こった。

 祝詞が終わるのに合わせて、シュレインの持つ錫杖の前で直径三十センチほどの魔法陣が出現して、そこから淡い緑の光が発生した。

 その光はカーテンが広がるように、訓練場に拡散していった。

 さらに、その光を受け取るように、フローリアの周りで漂っていた精霊が光を浴びるような仕草を見せて、さらに続けてシュレインの持っていた錫杖に向かって突撃していく。

 光が消えたあとには、あれほど見えていた精霊の姿がなくなり、すべて錫杖に吸収されてしまったように見えた。

 

 その一部始終を見ていた考助は、唖然とした表情で呟いた。

「・・・・・・なにがおこったんだろう?」

「あの錫杖を作られたのは、コウスケさんですよ?」

「いや、そうなんだけれど、さすがにこれは予想外だよ?」

 作成者とは思えない考助の言葉に、シルヴィアは思わずジト目になったが、あの錫杖にはクラーラが手を加えた宝玉があると思い出して、具体的に突っ込むのはやめた。

 考助が思いもつかないような効果が発揮してもおかしくないと考えたのである。

パワーアップ!

・・・・・・したのは、シュレインの錫杖のように見えますが、実はフローリアの劔も同じです。

その辺の考察は、次話で。

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