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戦利品の花嫁  作者: 37号
3/7

お茶会と宣告と弟と

王子の口調を修正しました(>_<)

キャラが定まらず考えあぐねた末、こっちの方が動かしやすいと感じ、変えさせていただきました。

更新亀など、色々とすみません(*_*)




エドウィン=フォン=ラグナロク。




悲劇の王子であり、完璧なる王子。

彼は先の王妃、つまり彼の母親の葬儀で四歳という年齢にも関わらず、涙も出さず葬列の先導という役目を立派に果たした姿から、上に立つ者としての片鱗を国民に知らしめることとなった。



阿呆か。



エドウィンは小さいながらに、そう愚痴た。


涙は出さなかったのではなく、出せなかったのだ。

普段のエドウィンならば、全く思い出の無い人物について何か感じろという方が可笑しな話だ、と皮肉めいて捨て置くに違いなかった。



しかしながら、その人物というのが[母親]という特殊な立場だからいけなかった。


彼自身、果たしてそれは人としてどうなのかと思い悩み、現在でも暗雲たるそれは根深くまとわりついている。



成人を向かえた今日まで、ひた隠せてはいるのだが。













*・゜゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*





我が弟ながら、不機嫌な顔も綺麗なものだ。

私、マリア=ロザリア=ラグナロクはそう素直に思った。




「庭で茶会だと思ったら…何なの姉上、意味分かんないんだけど。」



そして相も変わらず汚い言葉遣いは、見た目と大きく反比例している。

お父様の前や身内以外には爽やかな優しい、王族らしい言葉遣いなのだから、それを徹底してほしいものだ。




…お父様に対して偽りを貼り付けているのは、やはりお母様のことに負い目を感じているからだろうか。




お母様が亡くなってすぐの頃、弟は何か心の奥に抱えているようだった。お母様の身体が弱くなってしまったのは、あなたのせいではないと伝えてみたが、そういうことではないのだと言われたのを今でも憶えている。


そういうことではないとは、どういうことなのだ。


その日以降から、思い悩んでいるような感じはしない。

それはスッポリと何かが無くなった感覚にも似ていた。







眼前にふてぶてしく座っている弟の、淡い透き通る金色の髪が空気に揺れる。

淡い花の薫りと共に風と踊る金糸は、光の加減で碧くも見え、その金糸を鬱陶しそうに耳にかけるエドウィンの深紅の瞳は更に細くなっていく。


もしかしなくとも、睨んでいるのだろう。




「まぁ、エドウィンのような賢い子に分からないことがあっただなんて驚きだわっ。もう一度言ってあげますから理解出来るように努力してね。」



「……あのね、姉上、」



「竜族の姫と婚約して欲しいのよ、今すぐに早急に。」




先程宣告した内容をもう一度告げてあげれば、テーブルを隔てた私にも聞こえるほど大きな舌打ちをする始末。




「何で?婚約?王権は姉上にあるんだから、別に俺はまだしなくても良いじゃん。」




確かにそうだ。

大国である女王の都、ローゼンクロイツは、適性があれば女であろうがこの王国を統べることができる。

むしろ女王が誕生した方が、国民も喜び、隣国との外交の要になるため、女が産まれた時には積極的に王座に座らせるものだった。


そしてこの私もそれに習い、男であるエドウィンと共に教育をうけ、こうして王権を授かったのだ。



しかし授かったと言っても五割程度。

残りはエドウィンのものだ。適性ならばエドウィンだとて余りある程にある。


だがしかし、やる気が無い。





以前、父様が王座に興味はあるのかと聞いたことがあったが、エドウィンは憂いに満ちた微笑で


「僕には父様のように先見の明がありませんので…姉上にはそれが先天的に備わっているように思います。」


と、それとなくお父様の意識を私に向けさせていた。


その微笑みでお父様は騙せても、本来の彼を知っている私は、確信していた。エドウィンは確実に、そんなの面倒だから要りませ~ん等と心内(こころうち)に舌を出しながらおどけていたに違いないと。


そこをお父様、もとい現王は見抜いているのかいないのか、それ以上言及することは無かった。






「…もう十分浮き名は流したでしょう?」


「まだ両手で数えられるほどだよ、…細かいのを抜かせば。」



「仮面の自分に愛があるとでも?」

「偽りも貫き通せば真実になりえるだろ?」

「…まぁ今の所は、お別れになる最期まで王子様でいるみたいだけれど。それも何時まで続くやら。」

「死が二人を別つまで。」




あぁ言えばこう言う。




「お母様が悲しまれるわよ。」

「……………。」



お母様の話題になるとすぐこの複雑な表情になる。

無表情のなかに苦悩めいたものが見えるのは、あの何かを内に秘めていた幼き日の彼を憶えているからだろうか。




「とにかく、竜族の姫と婚約して欲しいのよ、今すぐに早急に。」



「…だから姉う」

「竜族の姫と婚約して欲しいのよ、今すぐに早急に。」



もうひと押し。エドウィンは私のお願いに弱いことを知っている。

お父様譲りのつり上がった眼を凄めてみれば、迫力が出るのは研究済みである。

案の定、少し後ずさった彼をさらに追い詰めてみる。



「竜族の姫と、婚約して、欲しいのよ、今すぐに早急に。」

「~~っ分かったから!!笑顔が怖いから止めてくれ。」



「それじゃあ!!」



嬉々として手を合わせて微笑む私を横目に、エドウィンは溜め息をついた。



「…会うだけ会ってやるよ。ただし婚約は、」

「明日竜族の姫様が此方に来ますからね。」



私はそんなエドウィンを横目に、少し冷めたアールグレイで喉を潤すのだった。



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