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3話


暫くして、彼女は泣き疲れたのか俺の腕の中で眠ってしまった。


「仕方ないかぁ。」


俺は彼女の後頭部のあたりと膝裏あたりに腕を回し彼女を持ち上げる。

所謂、お姫様抱っこという奴だ。

そして、そのままフィオルのもとに合流することにした。





「カオル様」


フィオルのもとに着くとそこではフィオルが7人の子供達の傷の手当てをしていた。


「大丈夫か?」


「はい。多少の怪我はありますが、致命傷をおっている子供はいません。」


「いや、俺が言っているのはフィオルのことなんだけど、ね。」


「私がアレくらいの敵に遅れをとる筈がありません。」


口では素っ気ないフィオルだが、気遣われたのが嬉しいのか顔が少し赤い。


「それにしてもカオル様は随分とその娘と仲良くなったようですね。」


顔は笑顔なのだが、フィオルの言葉にはトゲがあった。ヤキモチでも妬いてくれたのかな。


「ちょっと成り行きでね。

この子が起きるまではここで休むことにするよ。子供達にもそう伝えてくれ。」


「分かりました。」


フィオルは不満そうに子供達のもとに向かった。




「ねぇ、お姉ちゃん。リンちゃんとアリシアちゃんはどこ?」


フィオルが1人の女の子にそう訊かれた。


「カオル様。」


フィオルが確認するように俺を呼ぶ。

俺は静かに首を横に振った。それでフィオルだけでなく女の子も悟ったのだろう。俯いて、「みんな私を置いてどっか行っちゃうのね」とだけ呟いた。

フィオルは女の子の手を握り、他の子供達のもとに向かっていった。

フィオルは優しい女性だ。きっと、子供達をうまく慰めてくれるだろう。

俺には無理なことだ。それにそんな資格もない。




「まずはこの子を寝かせなきゃか。」


俺は頭を切り替え、とりあえず寝るのに必要なベッドを用意することにする。

微小の生命エネルギーで賢者の石からベッドを作るのに必要なエネルギーを取り出す。

材料は俺が次元の狭間に保存してあるものを使用。



「お休みなさい、お嬢様。」


彼女を俺が創った最高級のベッドに寝かした。


「俺も少し休むかな。」


彼女との戦闘とベッドを創ったことにより、また生命エネルギーを失ってしまったので、今のうちに回復に努めることにした。

まぁ、寝る訳にもいかないので、ただボーッとしているだけなのだけれど。




†††††††


私の住んでいたリリア王国は亜人が多いことで有名だった。おそらくリリア王国の女王様がダークエルフだったことが大きな原因だろう。

かく言う私も猫人(ワーキャット)で、リリア王国王女クレシア様の近衛兵隊長をしていた。

国内は平和で戦争もなく、魔物の襲撃も少なかった。だからだろう、平和ボケして身内の人間の野心に気がつけなかったのは。


宰相をしていたルビルスという男を中心に謀反が起こったのは幸いなことにクレシア様が私と共にお忍びで街に出ている時だった。

私達は追っ手から無事逃げ切りクレシア様の発案で建設され、世間には知られていない亜人だけの村、リクレスに亡命した。

その後暫くして届いた情報によると女王様は殺され、殺した張本人であるルビルスが国王になったらしい。女王様の死は表向きは暗殺として処理されたようだ。


私とクレシア様はレクレスでひっそりと、それでも女王様の死を乗り越えて明るく暮らしていた。

しかし、そんな生活も長くは続かなかった。3日前リリア王国の刺客がレクレスに現れたのだ。その時、タイミングの悪いことに私はリリア王国で商人ギルドのギルド長をしている妹に情報と少しのお金を貰いに行っていた。私が気付いて戻った時には、40人近い刺客の死体と目を潰され足の健を切られたクレシア様がレクレス近くの森で倒れていた。

クレシア様の瞳は特別で、見えない筈の魔力とその流れを見ることができた。その上、魔術師としても一流であり、こと魔術に関してはリリア王国において右に出る者はいなかった。

また、体術剣術にも秀でており、近衛兵隊長である私とほぼ互角の実力を持っていらっしゃった。

そんなクレシア様でもリリア王国の刺客40人を無傷で倒すことは不可能だったようで何とか一命はとりとめたが視覚と足を奪われ、尚且つ彼女の体内には敵による致死の毒が既に回っていた。今の魔術では潰れてしまった目や切れた健を治すことはできず、毒も解毒方が確立していないものだった。

それでも私は僅かな望みにかけて再び妹のもとへ行き解毒剤を貰いにレクレスを出た。それが昨日のことだ。

しかし、不幸というのは重なるもので解毒剤を貰い、急いでレクレスに戻ろうとしていた途中でリリア王国の刺客に襲われた。刺客は10人もいたが私も伊達に近衛兵隊長をしていた訳ではない。余裕とはいかないまでも、充分私1人で対処できた。しかし、刺客を2人ほど切り殺した所で事態は急変した。野山を探検にでも来ていたのだろう、レクレスの子供達5人にはち合わせてしまったのだ。私は魔術を併用し、何とか子供達を守っていたが魔力も無限ではない。暫くして魔力が切れてしまった私では子供達を守りきることはできず、リンちゃんとアリシアちゃんが私の目の前で殺された。2人ともレクレスで私を慕ってくれていた子達だった。

その後もこちらの劣勢は変わらず、半ば絶望し死を覚悟した時に変化は起きた。とごからか紫色の毒々しいトゲが伸びてきて刺客2人を串刺しにしたのだ。

それを受けて刺客はいったん散開したようで、私の周りに刺客はいなくなった。だが、その代わりに私達のもとに銀髪の青年が現れた。その青年はどこか子供っぽく、しかし何かに疲れているかのような印象を受けた。


「※※※※※※」


「何を話している?」


私がそう問いかけると男は苦笑した後、私の腕を掴んできた。

私が男のことを敵だと認識するのには男のその行為と男が人間だという事実だけで充分だった。

私はその男に切りかかり、その後は語るも恥ずかしいことをしてしまい、そして気がついたら意識を失っていた。






「…ここは?」


私が目を開けるとそこは既にもう真っ暗闇だ。どうやら眠っていたらしい。だが私は自分が何故こんなところで寝ているのかが理解できなかった。寝起きでまだ頭がよく働いていないのだろう。とりあえずは辺りを眺めてみることにした。


「えっ」


私の視線の先、そこには月明かりに照らされた銀髪の青年が岩の上でたたずんでいた。時折吹く風に綺麗な銀髪が流れ、それがどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。どこか儚げなその表情は私の目を釘付けにし離さない。


「お目覚めかい、お嬢様。」


青年がこちらを向き、必然的に私と青年は見つめ合う形になる。

しかし、そこで私は今までのこと、私が青年の胸を借りて涙を流したことを今更のように思い出した。

顔が赤くなっていくのが自分でもよくわかる。私は普段なら間違っても人間の胸を借りるようなマネはしない。だが、時期が悪かった。リリア王国がルビルスの手に落ちてから私は気の休む暇がなく、尚且つここ最近は悲しいことが多すぎた。私の心が限界を迎えた時に運悪く目の前の男に優しくされたもんだから今までため込んできたものが一気に溢れてしまったのだ。


「貴様、リリア王国のものか?」


この男がリリア王国のものだったら殺す為に腰の剣に手をかけようとする。

だがここで私を2つの驚きが襲った。

まずは、本当に今更だとも思うが私がフカフカのベッドに寝かされているということだ。森の中、何とも不似合いな高級感溢れるベッドがあるというのは違和感を通り越して不気味だ。

2つ目は私の腰に剣が無いということだ。私としたことがこの青年に剣を払われたことをすっかり忘れていた。

これはかなりマズい事態だ。もしもこの青年がリリア王国の者で私を捕虜にするつもりなら私には逃れる術がない。並みの敵なら素手でもどうにでもなるのだがこの青年は剣を持つ私を素手で軽くいなしていた。そんな相手が私を逃がしてはくれないだろう。


「いや違うよ。ていうか俺と俺の連れはそもそもで今まで人が近付かないような森の奥深くに住んでいたんだ。

君達を助けたのだってたまたま、この近くを通りかかったからだし。」


青年はそういうが、人間という種族は簡単に、それこそ息を吸うように嘘をつく。それは私がルビルス達人間から学んだことだ。


「人間の言うことは信用できない。」


「それじゃあ何を言っても無駄じゃない?」


「では、剣を返して貰おうか。」


この提案は相手にとっては厳しいものだろう。

亜人に剣、つまり反撃の道具を与えるのは人間にとっては勇気がいることだ。

だからこそ、この返答次第で相手の気持ちが透けて分かる。


「あぁ、君の剣は寝るのに邪魔だと思ってベッドに立てかけてあるよ。」


………あった。

しかも視線を少し下に下げたところに堂々と立てかけられていた。

私が急いで剣を手繰り寄せると、その様子を見て青年が笑った。


「何故笑う!!」


少し怒気を含ませる。

というより単純に笑われたのが恥ずかしい。


「いや、なんか可愛いなと思ってね。

安心しな、取らないから。」


青年の言葉に不覚にもドキリとさせられてしまったが慌てて彼が人間であることを思い出す。


「人間に言われても嬉しくないな。」


照れ隠しではない。断じて違う。


「君は人間じゃあ無いのかい?」


こいつは何を言っているんだろう?

しかし、その答えは少年が既に言っていた言葉にあった。彼は今まで人のいつかぬ森に住んでいたと言った。だから私達と人間の違いが分からないのだろう。

勿論、分からないフリという可能性も大いにあり得るが。


「さっき君達を襲っていたのが人間かな?」


「あぁ、そうだ。私達のように人間と少しでも違えば亜人と言われる。」


まだ完全に信じた訳ではないが、私達を助けてくれたことには変わりない。たとえ人間と言えどうけた恩を仇で返すのは気分が悪い。

まぁ、こんな気持ちになれるのも剣が手元にあるという安心感によるものが大きいのだが。


「なるほど。なら俺もフィオルも亜人だな。」


「フィオル?」


「フィオルは俺の従者でお前達を直接的に助けた奴だよ。」


青年は従者と言った。もしかしたら彼は奥深くの森の村かなんかで地位の高い家の生まれなのかもしれない。


「そういえば、名乗ってなかったな。私は名はナデアだ。」


「俺はカオルだ。よろしくな。」


名前だけの自己紹介を終えたところで、私は先程のカオルが言ったことを正すことにした。


「カオル、君はどう見ても人間だよ。」


「ん?

あぁ、見た目は確かに人間だよなぁ。

でも、ほら。」


次の瞬間、私の目の前で信じられないことが起きた。なんと、カオルの右腕が銀色に変化し爪のような形に変わったのだ。


「電子分解銃220型だよ。

っていても分からないよな。でも、これで俺が普通の人間じゃないことは理解してくれた?」


確かに普通の人間じゃない。だがここまで普通じゃないと亜人というよりは…


「魔人に近いな。」


「魔人?」


「魔人っていうのは魔物の中でも人型で知性のある奴らのことを言う。ケンタウルスとか、バンパイアとかが代表的な例だろう。」


それなら辻褄も合う。カオルは誰もいないような森の奥深くに住んでいたと言っていた。魔人というのは極稀に魔物から突然変異で現れるらしいから、偶然集まった魔人達が森の奥深くで村なり集落を作ったというのは充分あり得る。

そして、今になって外の世界を見たくなり、森から出てきた。

うん、なかなか説得力のある説だろう。


「もしかして、魔人と人間て仲が悪かったりする?」


「そうだな、しょっちゅう戦争している。」


ただ、魔人は強力だが自分達の領土が侵されない限り侵攻してくることはない。つまり、欲深な人間が魔人のものを横取りなんかするから戦争が起きる訳だ。


「もしかしてナデア達も魔人とは敵対してたり?」


「いや、私達はむしろ魔人とは友好的な関係を築いているな。」


なんせレクレスには魔人も結構住んでいる。それもこれもクレシア様の仁徳が成せる業だ。

そのクレシア様は今も毒で苦しんでいる。よく考えたら私はこんなところで休んでいる訳にはいかないんだ。


「私は行かなければならない。」


「まぁ、落ち着けって。とにかく何があったか教えてくれよ。

助けてやったんだから、それぐらいのサービスはしてもいいだろう?」


私がベッドから立ち上がろうとするのをカオルは止める。


「私には時間がないんだ!!」


「分かった分かった。

じゃあ、移動時間中に話してくれればいいよ。」


そういうとカオルはどこからともなく巨大な蜘蛛のような鉄の塊を出現させた。


「召喚魔術!?」


召喚魔術は難易度の高い高位の魔術だ。クレシア様でもこんな簡単に召喚魔術はできないだろう。


「魔術?違うよ科学さ。」


この世界に初めて科学が持ち込まれた瞬間だった。







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