1話 始まり
「ここは、どこだ?」
どうやら俺はベッドで眠っていたらしい。
ぼやけている意識の中、俺は今自分の置かれている状況を確認する。
俺は確か、グリジオンからスペースシャトルに乗って逃げていた筈。
そんなことを思いながら何があったのかを記憶から探す。すると、少しずつ何があったのか思い出してきた。
あぁ、そうか途中で突如現れたワームホールに呑まれてしまったんだっけかな。
対処は出来た。だけど俺はグリジオンの追っ手から逃れる為に敢えて突発的に現れたワームホールに身を投げ出したのだ。あの時は流石の俺でも死ぬかと思ったな。
それはとりあえずおいておいて、ここはいったいどこなのだろう。どうやらどこかの星に不時着したようだが、その時の影響かワームホールの影響かでスペースシャトルは壊れてしまったようなので現在位置が掴めない。
グリジオンの支配下であるサードマクロスでなければいいのだが。
「お目覚めになられましたか、カオル様?」
思考にふける俺に声を掛けけてきたのはフィオル。おそらく俺をベッドに寝かせてくれたのは彼女だろう。
フィオルは俺が連れてきた唯一の従者で、美の化身といわれる今は無きラレリア星人の生き残りの少女。
そして、俺の背負う罪の象徴。
「フィオルか、とりあえず今の状況を説明してくれないか?」
俺はフィオルの紫がかった黒髪を撫でながらそう言った。
「現状、カオル様はワームホールの異次元断層派からスペースシャトルを守る為にエネルギーを大幅に消費してしまっております。」
フィオルの言葉には棘があった。どうやら不機嫌らしい。その証拠に髪を撫でていた手をフィオルは掴み、もの凄い握力で握り締めている。その美しいお顔に天使の笑みを添えて。
いや、笑顔に見とれてる場合じゃない。そろそろ手が潰れそうなのですが…
「手が壊れるってば!!」
とうとう耐えきれずに叫んだ。
「これに懲りたら、あんな無茶をしてはいけませんよ?」
あの場合、俺が亜空間断裂シールドを張らなくちゃ俺もフィオルも御陀仏だった気がするんだけれど……まぁ、そんなこと言ってフィオルをまた怒らすような愚かなことはしないがな。お怒りフィオルには従順になっといた方が身のためだ。それは経験と体に教え込められている。
「はぁ、分かったから。俺が悪かったよ。」
「仕様がないですね………今回は手だけで許しましょう。」
俺が反応する前に俺の手が紫色に染まり、次の瞬間消え去った。そして、その事実を意識が確認するよりも先に体に高圧電流のような激痛が走る。すぐに神経のラインを遮断するが正直今のはかなり効いた。
ラレリア星人であるフィオルには特別な能力がある。簡単に言うとその能力は毒を生み出す力だ。その力は科学では説明がつかない、所謂、超能力と俺達は呼んでいる。
そういう俺はグリジオン人な訳だが、まずはグリジオン人についての説明が必要だろう。グリジオン人は普通の人間じゃない。全身が機械でできた機械生命だ。で、俺はというと、グリジオンの王族にして、最高傑作だ。
まぁ、どういうことかと言うと、賢者の石を核に有機稀金属と呼ばれる有機物的な形態でありながら金属的な役割も持つという極めて珍しい金属をふんだんに使われて造られた俺は、機械でありながら進化の余地を残すことに成功した。それは進化や成長が許されないグリジオン人にとっては最高傑作だったという訳だ。
因みに、俺には再生機能があるので、フィオルに消された手も今はもう元に戻っている。
「まさか、お仕置きがくるなんて思わなかった…」
「当然ですね。私はこんなに心配したのですから。」
そっぽを向いて拗ねるように言うフィオル。
くそぉ〜、可愛いから赦す!!
「フィオル、ちょっと。」
俺は我慢できずにフィオルの腕を掴み、ベッドに押し倒した。彼女はプロポーションも抜群だ。さすがは美の化身と名高いだけはある。
「まったく、カオル様はえっちぃんですから。」
口ではそんなことを言いながら満更でもなさそうなフィオル。
「それも、俺が俺である証さ。」
グリジオン人には性欲もなければ食欲もない。彼等にあるのは支配欲と向上欲だけ。あいつらは俺からすれば、ただの機械と何も変わらないのだ。
「でも、カオル様は私を愛してはくれないのですね。」
切なそうな顔を浮かべるフィオル。彼女にこんな顔をさせたくは無いがこればっかりは仕方ない。
「それが俺への罰だからね。」
彼女と、そして俺が今まで犯してきた罪への、ね。
「私は愛しておりますわ。そして同じくらい憎んでも。」
「それでいいさ。」
それ以上、俺達に言葉は必要なかった。
そして言葉よりも深い繋がりで結ばれていった。
「信じられません!!」
昨日のシリアスな会話が嘘のように俺は裸で星座させられていた。
何故かというと……
「加減というものを考えて下さい。あくまでベースが機械であるカオル様は正真正銘、絶倫なのだから本気になられたら私の体が保つ筈がないのは分かる筈です!!」
という訳だ。久しぶりだったこともあり、昨日の昼間から始めて終わったのは今日の日が昇り始めた頃だった。フィオルに関してはいったい何回達したことか。でも、俺にも言い分はある。性欲は一度爆発したら抑えるのは難しいのだ。なまじ絶倫なだけたちが悪い。もちろん、そんなことは口が裂けてもフィオルには言えないが。
それにしても、フィオルは裸で仁王立ちしている訳だが、その体に白い液体がこれでもかという程ついている。まぁ、フィオルが意識を無くした後も問答無用でやったからな。これはフィオルが怒るのも当然か。
因みに俺の精子は遺伝情報も入っていない見せかけのものなので、妊娠するということはない。
「すいませんでした。」
もうこれは平謝りしまくるしかあるまい。
「別に嫌という訳ではありませんよ、私は節度を守って欲しいだけです。」
「以後気をつけます。」
「はぁ、もういいです。私はお風呂に入ってきますので。」
口では不機嫌そうだが、お仕置きが無いということは満更でも無かったって訳だ。まったく素直じゃないんだから。
さて、俺はスペースシャトルの状況確認といきますか。
で、とりあえずスペースシャトルで壊れているのはエンジンとセンサー、時空診断装置…その他もろもろ。まぁ、ぶっちゃけ生命維持装置以外は壊れている状態だ。
居住スペースには何の被害もないようなのでエネルギーが尽きる前に俺も風呂に入っておくか。
「今出ました。」
そんなことをしている間にフィオルが風呂から上がってしまった。
お風呂上がりで少し火照った肌。うん、なんかまた興奮してきたな。
「襲ってきたら容赦なく切りますので。」
何をとは怖ろしくて言えません。ってか、切るって言ったら本当に切るのがフィオルの怖ろしいところだ。
「俺も風呂に入るかな。
そしたら、このスペースシャトルを廃棄して外に出るよ。幸いこの星は外に出ても大丈夫な環境みたいだから。もしかすると生命もいるかもね。」
残念なことにエネルギー残量が殆ど残っていないので周りの様子がいまいち分からない。そもそもで無限のエネルギーを生み出すといわれる賢者の石のエネルギーが枯渇しているというのは何とも矛盾した話だ。
実はエネルギー自体は今も無限に等しい程残ってはいる。しかし、それを取り出す為のエネルギーが枯渇してしまっているのだ。
取り出す為のエネルギーは俺の生命エネルギーを使用している為、飯を食べて休めば回復する。
なんで、生命エネルギーなんて面倒な物を利用しているのかという疑問が湧くかもしれないが、その答えは賢者の石が生命エネルギーにしか反応してくれないからである。まぁ、俺は睡眠も食事も好きだからいいけどね。
因みに性行為には生命エネルギーの生産を促す効果も密かにあったりする。
これが呑気な俺と従者なフィオルの物語のプロローグ。