~最後の祭り、もちろん全力で挑む。~
そうして、最後の祭りが始まった。
「俺を捕まえられるものなら、捕まえてみな!!」
「は、速っ!? 紅先輩、おねがいします!!」
「ええ!!」
後輩の後ろを追い駆けていた紅だったが、その救援に一言で頷くと、
「詰めるよ!!」
たったワンステップで後輩を追い抜き、ぐんぐん泥棒へと間を詰める。
「げ!? あの紅先輩!?」
泥棒も状況に気づいたようで、急に角を曲がる。
「無駄だよ!!」
すると紅は今まで上げていた速度を片足で止め、方向を90度変える。
「うわ、うわうわうわうわ!!!!」
泥棒はその速度になすすべも無く、間はぐんぐんを詰められ、そうして組み伏せられてしまった。
「これで、終わりね」
そして紅は泥棒のウォッチャーに自分のウォッチャーを合わせ、その後ボタンを押した。
「はいはーい、すごいですね紅先輩。もう四人は検挙してません?」
すると、何も無かったはずの空間にいきなり女子が現れた。
彼女がテレポーターなんだろう。
「……私の担当は貴方なのかしら? ま、あの校長のことだから笑って許したんでしょう? 常識的にはありえないわよ」
紅はその彼女を知っている。
覚えているだろうか、あの“5.01事件”で間之崎学園から逃げていた赤井達をバラバラに飛ばしたテレポーターのことを。
“痛”の部下であった彼女は今も変わらず、間之崎学園で生活し続け、そしていまけいどろ大会で借り出されているのだった。
「過ぎたことは気にしないのー。私も覚悟してたのに、あの校長は謎すぎる。とりあえず仕事するわね」
その女の子は泥棒の腕を掴むと、どこかに消えてしまった。
「ふぅ……、貴方も頑張ってね」
横にいた後輩に、髪を少したなびかせて笑顔で話しかけた。
「………………」
だが後輩は、ポカンとした顔をしている。
あ、あれ? 間違えちゃったかな?
これからはもっと優雅なキャラで頑張るつもりが……。
だが、そんな心配は杞憂だった。
「す、すごいですっ!! サインとか、いただけますか!!」
目を輝かして、ピョンピョンと飛び始めた。
「え、えぇ……」
とりあえず応じて、サインをあげることにした。
私のサインなんて、価値も何も無いと思うんだけどなぁ……。
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泥棒side、高原衣。
「やっぱり紅さんは強敵だねぇ」
一人しかいないその部屋で、呟いた。
「時間稼ぎと捕まらない程度のお相手するか」
おそらく点の動きからして、紅さんは間之崎学園の円周付近にいるだろう。
「一人分で大丈夫かな……。いや、念のためにもう一人連れて行くか」
腕につけたウォッチャーがジャラリと鳴る。
そこにあるウォッチャーの数は、五つ。
次の瞬間、高原が二人になっていた。そして次には、分かれた片方がまた分かれ合わせて三人となった。
一人はウォッチャーを三つ、残り二人はウォッチャーを一つずつ持っていた。
そしてウォッチャーを一つずつ持っている二人が、そこから出た。
(残り三つか。でもま――――――――)
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時は戻って紅。
あの後輩と別れた後、単独で行動していた。
正直そっちのほうがやりやすかったりする。
今は学園から少し離れたところを歩いている。
とはいえ、周囲には注意を張りいつでも飛び出せる構えではあった。
そこに二人、歩いてくるものがいた。
その二人からは、ピコン、ピコンと音が鳴っている。泥棒だ。
「ここか、紅さん」「ま、“観測者”で視えてたけどな」
瓜二つの顔、そこには。
「高原先輩……!? しかもそれ、隠してるんじゃなかったんですか!?」
紅はそれを見たことがある。
「「あぁ、“もう一人の自分”のことか。気にすんな」」
二人で笑いあう。
「高校生活最後だぜ? 折角だから魅せてやるよ」