~けいどろ大会、開催。~
6月26日(日)9:23、間之崎学園。
「めちゃくちゃ眠いぜ」
「アンタ相当馬鹿騒ぎしてたんでしょう」
学校で紅に呆れるように言われた。
「いやいや、かなり熱中しちまってよ!! 特に相馬はすごかった!! 『役満、字一色』とか言ってアガってよ!!」
「国士とか四槓子、大三元とかまだアガりやすい役じゃないのが相馬君らしい……、じゃないよ!! 大富豪するって言ってなかった!?」
「あぁ、途中からシフトしたんだ。眠くてぶっ倒れる奴とかいたしな」
「でしょうね。まったく、今日の競技はちゃんとしなさいよ? スペシャルイベントなんだから」
そうだ、今日はけいどろ大会の日だ。
あくびを噛み殺し、会場へ走り出した。
9:45、間之崎学園。
「では、これよりけいどろ大会を行う。みんな、ウォッチャーをつけてきたな? 昨日までの色なんて関係ない。全力で楽しむこと。では今より泥棒の人は各々逃げてください!!」
その号令で、泥棒の人が会場から蜘蛛の子を散らすように去っていく。
そして十五分後、時計の針が10:00を指した。
「これより、スペシャルイベント!! けいどろ大会を始めます!!」
司会の声で、警察である俺達も動き出した。
走り出すとともに、ウォッチャーから声が響く。
「テステス、OK?」
その声は周りの警察から響き渡り、電子音で少し変わってしまっているが、聞いたことがある。
「間之崎高等部三年、姫岸鉄だ。風紀委員長をしている。では今より警察の取りまとめを行いたいと思うが、異存のある奴は?」
姫岸さんが手を上げて意見を待つ。
だが、その声に異論を唱える人はいなかった。
皆、知っているのだ。
「では今より、高原衣攻略へ移る」
泥棒へと、敵へと回った高原衣がどれほど恐ろしいか。
そしてその高原衣を相手取れるのに一番確率が高いのは姫岸であることを。
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「皆、よく聞いてくれ」
泥棒であるウォッチャーに、全員の聞き覚えのある声が響く。
「生徒会長、高原衣だ。一言だけ言う」
その言葉を固唾を呑んで見守る。
「勝って見せろ。捕まっても負けじゃない。俺が助けに行ってやる」
『おおおぉぉぉ!!!!』
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「おそらくあの男は無粋なまねはしない。せいぜい士気を最大に高める程度。逆に言えば」
「高原を捕らえれば、士気が落ちるというわけね」
いきなり通信に割り込んでくる声があった。
「……、あぁ。いきなり声を出してしまったわね。私は白組元大将、白樺美紀だ」
その声は騎馬戦争で戦った白樺先輩だった。
「言いたいとこだけもってかないで、美紀。そしておそらくある時を除いて、高原衣はあまり動かないでしょう」
「逆に言えば、ある時には動くんでしょうが」
通信なのに、二人はお互いの考えが分かっているようだ。
「動くときってのは、仲間――――つまり泥棒が大量に捕まったとき。その時は必ずあの男が助けに来る」
「この時計、ボタンの組み合わせで牢屋にいる人間がどれくらいなのか分かるのよ」
「牢屋の位置と、赤い点の数からね」
「だから私達高三は全員牢屋の防御に移る。皆は出来るだけ多くの泥棒を捕まえること。間之崎から同心円状に、一番遠くから中一、次に近いところに中二、といった風に構えてほしい」
『もちろんです!!』
その声は周りからうるさいほど聞こえた。
「じゃ、そういうことで。皆の頑張り、期待してるよ?」
そしてスペシャルイベントは始まった。