~赤井と相馬、全力勝負。~
時間を戻して、赤井目線。
いきなり目の前で一倉先輩と先町先輩がぶつかって、宴先輩が向こうからやってきた。
「赤井、どうなってるの?」
「さぁ……」
俺と紅は、ぽかんとしていた。
その間に一倉先輩は飛び上がり、宴先輩へと一直線に走り出した。
だがそれを飛び越えて宴先輩は俺達の方へ走ってきた。
「赤井、紅!! 流石にこの状況はまずい!! タイマンなんていってる場合じゃない!! 一倉の方を止めておいてくれ!!」
タイマン?
そんなこと言ってなかったけど……。
まさかこの少し前に宴自身が言っているとは思わず、少し首を傾げるが、そんな疑問はすぐに消し飛ぶ。
「お前、らぁ!!」
「危ない、赤井!!」
立ち上がった先町先輩が拳を俺に振り下ろしてきたのだ。
だが、それは紅が蹴りで防御してくれた。
「もう負けるわけにはいかん、……ミキにこんなふがいない姿は見せられないからな」
最後の方、小言で何か呟いたような気がする。
「手前は俺がやるって言ったろ? 先町ぃ!!」
宴先輩が俺と先町先輩の間に割り込む。
「手伝っても、いいですか?」
その横に紅が立つ。
「……手段は選んでる場合じゃないし、オーケー」
そうして宴先輩と紅が先町先輩と向き合った。
「どうやら、俺と相馬で一倉先輩を倒さなきゃいけなくなったようだぜ?」
「おやおや、どうしましょう」
一倉先輩とは俺と相馬が向き合う。
「三人で俺を何とも出来ないやつが、どうやって俺を倒すんだよ!!」
またも一倉先輩は棒を構えて赤井達に迫る。
「赤井君、ここは」
「いやいい、俺が行く」
相馬が走り出そうとするのを止める。
おそらくそのまま相馬が行ってもさっきのようにハイジャンプで逃げられるだろう。
だったら、俺に注意が向いている間に相馬に攻撃してもらう方がいい。
「赤井君かい? 君程度なら、一瞬で帽子を弾き飛ばしてあげるよ!!」
一倉先輩のテリトリーに入った瞬間、寒気がした。
一瞬で取られる――――――!!
そう思ったときには身体が本能的に半身ずらすように動いた。
すぐ横には帽子を狙う棒が迫っており、もしも本能的に動かなければ終わっていただろう。
「まじで!? 今のを避けるのかよ!!」
(“5.01事件”といい、その前の体験が無かったら、避けられなかったな……)
今まで幾度と無く闘ってきた赤井だからこそ出来る芸当だった。
“どんなに速い攻撃でも、来る場所が分かっていれば対応できる。”
そうだ、崩野の教え。
忘れるところだった。
先輩は出来るだけ俺に気をつけて、帽子を狙うように棒を振り上げる軌道で攻撃してくる。
ならその隙を突かせてもらう。
気がつくとすでに棒は一倉先輩の手の中に戻されており、また俺の帽子を狙う軌道を描いていた。
それを上体を逸らして避ける。
と同時にその棒を掴んだ。
「今だ、相馬!!」
「待ってました」
俺が“才能帰却”で一倉先輩の“偏有引力”を止めている間に、相馬が横を走りぬけた。
「ちっ」
一倉先輩はそれを見て舌打ちし、棒を手から離して飛び上がった。
「着地、狙いますよ」
「あぁ」
俺と相馬が上を見上げた。
空では一倉先輩が“偏有引力”を使って、ゆっくりと落ちながら俺達を見る。
「……どこで油断したかねぇ。後輩二人に負けるほど、甘くは無かったんだけれど」
そう呟いた瞬間、ロケットのように一瞬で一倉先輩が着地した。
その勢いで地面がえぐれ、衝撃で俺達も少し引いてしまう。
「棒なしでやるなんて、久々だよ」
一倉先輩はその間に俺達の包囲を抜け、少し離れたところで立っていた。
こっからは、拳の戦いか。
俺は棒をおろして構え、相馬も構える。
「つーか、2対1なんて卑怯だぜ。しかも俺の才能が二人とも効かないなんてありえないだろ!!」
叫びつつ走りこんでくる一倉先輩。
「物理戦なら、勝てるかも!!」
「かもではありませんよ、勝てる、です」
珍しく相馬も強気に言い放った。