~三人の攻防、もてあそぶ先輩。~
「あらよっと!!」
一倉先輩の棒が空を切る。
「一発でも受けたらリタイアさせられるぞ!!」
「分かってる!!」
だが、一倉先輩の棒捌きは見事で、棒の間合いから中には入れない。
一倉先輩から棒の射程範囲まで、球状にゾーンが出来ている。
あの球状の空間に入ってしまえば、一撃で帽子が持っていかれる。
「私が道を、作ります!!」
相馬がそう二人に叫び、一倉先輩に突っ込んでいく。
「うん、まずい」
一倉先輩は顔を少しゆがめて口走ると、その場から一瞬で消えた。
正確には、物凄い速度で空中へ飛び上がった。
「……おそらく、自分に掛かっている重力のみを消したのでしょう」
相馬が上空を睨んで言う。
「空中なら!!」
紅はそれを見て跳び上がる。
「なっ、馬鹿!!」
空中では足場が無いから、方向を変える事は出来ない。
その上踏み切ることも出来ないから、まともな攻撃なんて本来出来ない。
そして相手は、一部にありとあらゆる重力をかけられる。
一倉先輩はそれを見越していたようで、顔を笑みで染めた。
「無鉄砲だぜ? “赤き稲妻”」
棒を紅のほうに向け、帽子を弾き飛ばすように下から上に弾き上げる軌道を取った。
だが、紅も馬鹿ではなかった。
紅は無理やり身体を丸め、棒の上に足をかけた。
「これなら足場も、ある!!」
棒を足場に一倉先輩へ駆けていく。
「はっは!! やべぇな畜生!!」
そう叫んだ瞬間、紅の足が止まる。
「っっ重っ!!」
紅が棒から滑り落ちそうになる。
ぎりぎりのところで棒を掴むが、それも一瞬のことで紅が先に落とされた。
どん!! と大きな音を立てて紅が地面に着地した。
「どうした紅!!」
「なんか急に身体が重くなって……」
「“偏有引力”でしょう。重力を増やされて身体が重くなったように感じたんです」
その間にゆっくりと一倉先輩は地面に降り立つ。
着地した瞬間に先輩は物凄い速度でこちらに走り出してきた。
「この状況は!!」
やばい、と言う暇すらも無かった。
一倉先輩は棒をまるで銃弾のような勢いで突き出してくる。
相馬は“通行許可証”ですり抜ける。
しかし、紅は着地すぐ、俺はその行動に反応できない。
終わった――――――――――――。
棒が俺の帽子を突き上げるように当たるが、その軌道が何故か横に吹き飛んだ。
「!?」
その光景を見た赤井、紅、相馬も唖然としている。
一倉先輩が赤井に攻撃するかしないかの刹那、ある男が一倉に衝突したのだ。
「っ痛、手前何しやがる!! ってお前……」
「……すまん」
ぶつかった男は、申し訳なさそうに腰を低くする。
その顔は、忘れることは無い。
つい一時間ほど前、激闘を繰り広げた。
『先町先輩!?』
俺と紅の声がシンクロした。
「おー、流石だな高原。あれにはそういう意味があったのか」
先町先輩が吹っ飛んできた方向から、ある男が歩いてくる。
「意外に俺お前に勝てるかもな」
「黙れよ宴宗十郎、これで勝った気になるな」
その男は、宴先輩だった。




