~アサシン相馬、先輩にも動じず。~
漆原の能力のルビを“本能的直感”と変えました。
「……気づかなかったぜ。どういうことだ? 攻撃する気なんてなかったはずだ」
帽子を取られたというのに、思いのほか驚いていないようだ。
しかしさっきから先町先輩と一緒にいたときのあの喋り方をしていた先輩とは思えない。
多分こっちが地だろう。
それはもちろん、先町先輩も知っているんだろうが。
「私の才能、“通行許可証”。これは物体をすり抜けると言う才能なんですが、同時に私が触れたものもこの能力を得るんです。でなければ私は服を着たまま地面にもぐれません。昔は一次的なものだったのですが、今は二次的なものまでできるようになりました。飛鳥先輩の話で後ろに立つのが好きそうだと分かっていたので、帽子を取られる瞬間に備えていたんです。触れられた瞬間に才能を使えるように。貴方がさきほど語った才能ですが、どんな人間でも目的寸前はもっとも気を緩めやすい。私の気、と言うやつにも気づかなかったようですね。私は貴方の体操服に少し触れることで、服→身体の二つを通行化させ、残った帽子のみを地面に落としたんです。ちなみに足元のみ通行化させないようにもしてありますから、自覚はありません。地面に落ちた帽子を足で自分の手元に蹴り上げた。これで貴方の帽子がここにあるんです」
大したことなどやっていないかのように相馬は淡々とそう語った。
「末恐ろしいな、お前」
「褒め言葉でしょうか」
そうして二人でテントへと向かった。
「おぉ!! なんとまた二年生が三年生を打ち破りました!! 相馬選手が漆原選手を倒したようです!!」
「先ほどから姿を見ない二人でしたからね。裏の取り合いでもしていたのでしょー」
実況と解説の声で、テントへ向かって歩いている二人の姿がようやくモニターにアップにされた。
「どうやら正確には引き分けているようですが、それでも健闘したでしょう!! 白組の陣地が崩れていることももしやこの相馬選手に関係があるのでしょうか」
「こればっかりは見ていませんでしたけど」
このことは戦場にも動揺をもたらした。
「あの漆原が……」
「やるな、あの相馬って下級生」
「何せこっちが攻撃しようとする素振りまで先読みして逃げるからな。まさか倒せる奴が居るとは」
主に三年生が呟いた。
「すごいな、相馬君。想像以上だ」
「伏兵を信じてやれよ」
「名前も知りませんでした、すごいんですねその先輩」
高原と宴と瀬々薙が紅組の陣地では崩れた白組の陣地を見ながら話していた。
宴は最初に言っていた2分が立ったので、瀬々薙と共に戻ってきていた。
「まさか、陣地まで切り崩すとは」
「なんとなく俺の見立てじゃ、一倉がやった気がするんだが」
「誰ですかその人」
「宴、その読み当たりだ。“観察者”で見てた」
「アイツ馬鹿だな。心底」
「だから誰なんですか?」
高原と宴が話しているところに、瀬々薙が分からずちょっとむっとしている図だった。
「ところで相馬はどうして外の様子をあんなに細かく知ってたんだ? 地面に潜んでたんだろ?」
宴がちょっと気になったことを言った。
「あぁ。小型端末を貸しておいたから、それでずっと確認してたんだろうよ」
「相変わらず抜かりが無いというかなんというか」
宴は自分の大将の底の深さを見て少し溜息をついた。