~白組副将、一人の鼠にも全力を使う。~
もうすぐテストなので、更新が曖昧になってきます。
「その帽子もらった!!」
一倉先輩が帽子目掛けて棒を下から上に振り上げる。
だが、その棒は帽子をまたもすり抜けた。
「んあー!? さっきのも目の錯覚じゃなかったのかよ!!」
「それが私の、才能ですから」
相馬は困ったような顔をしている。
「おい、もうすぐ俺達が全力でお前にかかるから、聞きたいこと先に聞いていいか?」
唯一名前の分からない先輩に声を掛けられる。
「お前、どうして大将を狙わなかった?」
その先輩の言うことはもっともだった。
あの時三人は少し大将から離れており、狙うには絶好だったはず。
それなのに狙ったのは副将のうちの一人だった。
「そのことですか。高原さんに言われたので。大将を狙うな、と」
それは最後に言われたことだった。
「いい? 絶対に大将を狙っちゃいけないよ?」
「それは、敵の白樺先輩の才能が脅威だということですか?」
「それもそうなんだけど。そんなことしたらさ」
そこで一度間を置いて、良い笑顔で。
「祭りがつまんなくなっちまうだろ?」
と言った。
「あの男なら言いかねない。いやむしろその方が自然だ」
白樺先輩は納得してくれたようだ。
「そうか。でも少年、どうしようもないだろ? この状況。逃げられる訳ないだろう?」
「そうでも、ありませんよ」
相馬はトン、と軽く跳ぶとそのまますべるようにその場から消えた。
「何!?」
「慌てるな、気がする。さっきと同じように地面に潜んだだけだろう」
「なら、俺の出番だな」
一倉はそう言うと棒を思い切り振りかぶる。
「おいおいおい!!」
「ったく……!!」
「あの馬鹿っ……!!」
その様子を見て一倉先輩以外の全員がその場から跳ぶようにして離れる。
「はっ!!」
ブンッ、と音を立て一倉は棒を地面に叩きつけた。
すると地面が叩いたところを中心として半径十mほどの半球上にめくれ上がった。
そして2mほどの深さの部分に相馬がいた。
「驚きましたよ。と言うかこの身体じゃなかったらインパクトの衝撃で体中トマトグシャァですよ」
「本当に地中にいたとはなぁ」
一倉先輩はほぉ、と息をつく。
「当たるインパクトの瞬間に棒の重さを何十倍にも引き上げたんですね?」
「近い。この棒元々かなり重くてな。何十倍ってほどじゃない。三十七倍程度だ。それとこの地面の重さを軽くもしてあった」
「どうして先輩方は自分を過小評価するのでしょうか……」
三十七倍ってことは、棒に37Gをかけたということ。
空間に重力をかける才能者でも、そんなものは見たことがない。
そもそもインパクトの瞬間を狙って才能を発動すること自体、達人技なのである。
「ったく、跳んだ程度じゃ避け切れなかったわね。どうするのよ。最初の初期設定の小山が無くなっちゃったじゃない」
白樺はぶつぶつと文句を言っている。
「どうやら君の才能にはオンオフがあるようだ。今なら帽子を取れた」
そして、あっけに取られている最中に。
いつのまにか真後ろにまで立たれていた漆原先輩によって相馬は帽子を取られてしまった。
「可哀想だから俺の才能を教えてやる。“本能的直感”。全ての現象における気、もしくは機を読むことが出来る才能さ。機ってのはその動作の予兆みたいなもの。詳しくは説明できないけど、この場所は危険だ、とか良い事が起きそう、とかのことさ。あくまで俺が読むのは機だから、あの“才能帰却”にも効かない」
だから人の背後を取れる、と続けた。
なるほど、人の動く機を読み先に行動できる。まるでズルみたいな才能だ。
「そうですね。残念です。おあいこになるなんて」
「ん?」
そう呟く相馬の手には、白い帽子が握られていた。