~拳は重く、集中を切らす。~
「君が有名な“才能帰却”の赤井君、かぁぁ!!」
いきなり先町先輩の鋭い拳が繰り出される。
それを俺はすんでのところで避けるが、次に逆の拳が迫る。
一回目の拳でバランスを崩していた俺は、両手でその拳を受け止めた。
「な、ぁぁ!?」
その瞬間、拳で大砲の攻撃を受け止めたような(実際には受け止めたことなんてないけれど)重みが走る。
身体がふわりと浮き上がり、2,3mほど吹っ飛ばされた。
肉体強化系は“才能帰却”の弱点と言ってもいい。
触れた瞬間能力は解除されるが、その攻撃の威力はそのまま、つまり攻撃は普通に受けるということである。
「……なるほどな。それが“才能帰却”。確かに殴った瞬間に力が抜けた」
先町は拳を開いては閉じている。
「俺向いてないんだよなこういう系。残念なことこの上ない」
まだ帽子は取られていない。終わっちゃいない。
「ん? 根性だけはあるようだが。変な体術を使うものだ。当たるぎりぎりまで避けないとはな」
「それは俺の師匠の褒め言葉か?」
アイツ、崩野はいつもそういう態度だった気がする。
相手の動きを限界まで見極める。
「師がいるのか。珍しいな」
「一悶着あったんですよ」
少し思い出しかけたが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「会話中悪いけどさ、頂くね?」
その声は俺の真後ろから聞こえてきた。
そして帽子が引っ張られる。
「!?」
それに気がつくが、一手遅い。
取られる――――――。
だが帽子が取られる直前、後ろでズドンと何かが落ちるような音がする。
「……危ない危ない。危うく腕が持っていかれるところだった」
俺が振り向くと、そこには誰かの後姿が。
向こうには、先町先輩の友達さんが見えた。
「漆原。相変わらずよく背後を取る男だな」
「飛鳥。相変わらずよく上空を取る男だな」
俺の目の前に立っている人は飛鳥さんというらしい。
先町先輩の友達の人は漆原さんというようだ。こうやってタメ口で話しているということは、二人とも先輩なのだろう。
「余所見はよくないな。対戦相手から意識を切らすなど、愚の骨頂」
「あ」
気がつくと、先町先輩に帽子を取られていた。
「ああああぁぁぁぁ!!!」
負けてしまった。
「あー、何やってんだよ赤井君。期待の星だというのに」
飛鳥先輩にはがっかりされた。
「おぉっと、転校生“才能帰却”の赤井君が一時敗退!!」
「先町の能力は鬼門だったよーですが。それよりも敗因は敵に背を向けたことでしょーか」
俺はとぼとぼとテントへ向かう。
ここで30分すごすのだ。
テントに着くと、紅があからさまに落ち込んでいた。
「負けた……。悔しいぃ……」
その負のオーラを感じたか、他の生徒はそこに近づいていない。
「ったく、何しょげてんだよ」
俺はその隣に座る。
「……赤井?」
「お前らしくもないじゃないか。そこまであからさまに落ち込むなんてよ。相手は先輩だぜ?」
「そういう問題じゃないんだよ。私の才能は“超跳躍”。簡単に言うなら一部の肉体強化じゃない。だから普通の肉体強化よりも強い力が足にあったんだよ。相手の先輩が同じ才能系なのは認めるけどさ。腕と足の筋力差って3倍差だよ?」
あ、知ってたのか。
「まぁまぁ落ち着――――――」
「畜生ーーーーーー!! 悔しいーーーー!! 次は絶対勝つ!!」
うがー、と両手を挙げて立ち上がった。
「大体私が落ち込むような女じゃない!! 蹴り倒してやる!!」
なんかすごく元気でした。
「赤井も負けたんだって? 先町先輩に」
「あれは俺の責任でもあるけどな」
「なら負けた者同士、一緒に組みましょう!!」