~下ごしらえに入念な準備をする者が、真の料理人であろう。~
「それは一体どういうことだよ」
紅の一連の行動に訳が分からない。
「私が説明しましょう」
そこで、相馬が話しかけてきた。
「赤井君には“才能帰却”がありますよね。ですから裏の会話が聞こえていなかったのでしょう」
「裏の?」
そんな会話あったか?
「赤井君。高原さんの話、途中からおかしくなったとは思いませんか?」
そうだったかな……。
必死に思い出してみる。
――――――“どうでもいい話だけどさ”?
そういえばそういう切り口で話が少しずれたような……。
それにこういった直後からみんなの顔が真面目になったし。
「どうでもいい話だけどさ、ってよく考えたらおかしい気がする。だって重要な話の中で、必要なのかあの話は」
確かに高校生とは思えない口調と考え方だとは思った。
あの場にいたときは皆を鼓舞するためかと思ったけれど、それにしても――――。
「そのときから高原さんは紅組の全員に念話を送っていたんですよ。もちろん他の人の力を借りて、でしょうが」
「そうか、“念話”は才能だから、俺だけ聴くことが出来なかったのか!!」
「そういうことです。ですから高原さんは念話の最後に私達に赤井君に伝えておけとの伝言も受けておりますしね」
それで紅がいきなり口塞いだりしてここにつれてきたのか。
「でも何でそんなまねを?」
「それは念話の内容だと、話を聞いているスパイがいたらしいからだよ。だからそれを逆に利用して、敵に間違った情報を与えて実際の本番で混乱させる気なんだ。スパイには念話のほうは伝えてないらしい」
紅が説明してくれた。
そこまで高原さんは考えていたのか。相変わらずすごい。
「とりあえず念話を一から説明するね」
そういって紅が説明してくれた。
『じゃあ今から念話を開始する、言っておくがリアクションは厳禁だ。何で俺がこんな行動をとっているかって言ったら、スパイがいるから。それを考えた行動をしてくれ』
なるほど、最初にそういわれたら確かに顔が真面目になる。そういう意味だったんだ。
『ここで話せるのは外で話している話が終わるまで。だから手短に行く。まず策だが、奇襲戦法をとろうと思う』
『紙に書いてある戦略、配置は完璧な嘘だ。ただし戦場は一緒だから、それを図にして考えてくれ。歩兵とある程度の騎馬をぶつけることで全勢力を出しているようにアピールしながら、4,5,6班の騎馬、及びその周辺の歩兵は横からすり抜けるように動いてくれ。主に敵の挟み撃ちが目的だが、敵の防御ががら空きなら大将の首を狙ってもいい。だがな、その動きに時間が手間取られるようなら俺が指示する』
『歩兵と騎馬は時間稼ぎでいい。ただし敵軍の両端を重点的に潰すこと』
『時間が無いからとりあえずの策は以上。敵の中でも危険な才能等は試合前に説明するが、調べておいてくれたりすると尚良い。すまないな、こんな説明で』
『もうすぐ外で俺が話してる話も終わるが、終わったらとりあえずいつものようにおぉ!! と叫んでおいれくれ』
「そして皆が、うぉぉぉぉ!! って言ったわけよ」
「そういうことだったのか……」
そこまで考えていたのか。
敵に謝った情報まで流させるのが、高原さんなんだ。
「というか、口と心で同時に二つの会話するってどんな脳してるんだよ」
間之崎随一の天才といわれても頷ける話だ。
いくらなんでもそんな話を同時にするなんて常人には不可能だ。
少し、高原さんのカリスマ性が分かった気がした。