~相馬は自虐的に、語る。~
「私の才能を生かせる様な競技はあんまり無いのですよ。ま、普通にやってきます」
相馬は片手を上げて去って行った。
「……見といてあげるわよ」
その後ろを篠崎が着いて行った。
「才能も使いませんし、本当に面白みの無い、それこそ何十人と走る中の1レーンです。探すのも大変でしょう?」
「そんなの関係ないじゃない。まるで見て欲しくないみたいな言い草じゃない」
険悪な雰囲気になってきた。
ということを察して、赤井、紅、藤崎、天音はその場から離れた。
高原さんと姫岸さんはもっと前からこの雰囲気を察していたようで、もう居なくなっていた。
「どうしてそんなに自分を卑下するの? アンタはもっと強いはずよ?」
「弱いですよ。ここにいる誰よりも、私は弱い。一ヶ月程前に話しましたよね。私の過去。ほんの少しですが」
「交通事故で亡くなったって言う話? でも、それはもうどうしようもないじゃない。相馬がそのことで悔やんでるってことだけで、許してくれると思うわよ」
「少々、違うんですよ。真実は。本当のことを申しますとね。私の心無い一言が彼女を傷つけたんです。その後彼女は走り出しましてね。それを追い駆けたのですが、悪いタイミングでトラックが走ってきていたんです。彼女はそれに気づかず、交差点に飛び出したわけですが……」
「それで、亡くなっちゃったの?」
聞き辛そうな顔をしながらも聞く篠崎。
「私はそれを、本来であれば止められたんです。私もすぐ交差点に辿り着いていて、思わず交差点に飛び出していました。彼女を助けるために」
「もうトラックはすぐそこまで来ていました。そのトラックを見て驚いて彼女は硬直してしまっていたんです。その背を抱えて向こうの端まで走るつもりでした」
「ですがその瞬間、私の手は彼女の身体をすり抜けたんです。分かりますか? 今まで発動もしてこなかった才能、“通行許可証”が、自分の身に迫った危機に対して彼女を見捨てて発動したんです」
「そのまま彼女はトラックに轢かれました。轢き逃げです。その犯人は今も見つかっていないそうです。私は、トラックをすり抜けるようにして助かりました。当時はそんなことが起きたなんて思っても居ませんでした。これが、事の顛末です。私は、犯人はもちろんですが、自分が何より許せない」
「私はトラックの運転手の顔を覚えています。あの男の顔は愉悦に歪んでいました。まるで人を撥ねることを分かってやっていたような顔でした。何故あんな顔だったのかは分かりませんが。最初はその男だけを恨んでいました。その頃は、まさか自分に才能があるなんて思っても居ませんでしたから。そして、こういう才能があると分かったときに、気づいたんです。私は、自分の過ちを人のせいにしていると」
「あのトラックの運転手はもちろん許せませんが、あれだけ好きだった彼女を、自分が助かりたい一新で見捨てた、自分が一番許せない」
「私は人に祝福されるような人間じゃないんですよ。篠崎さん。他人より自分が可愛い、ね」
相馬はそう言ってそこから去って行った。
その背には来るな、と言わんばかりの気が滲み出ていた。
「馬鹿野郎」
篠崎の声が少し響いた。