~四人の邂逅、それは教育。~
「まったく、言っておくが」
そう言って太陽は倒れこんだ姉妹に向かって走り出す。
「俺との挑戦を受けた時点で、合格にするつもりなんて無かったんだがな」
そうして固まっていた姉妹の首元を掴んで持ち上げる。
「なっ!? それってどういう意味ですか!!」
その腕を振りほどこうと暴れながら太陽に聞く。
「お前達には、己の能力の自覚と死の恐怖が無さ過ぎる」
太陽は二人を地面に降ろしてから、話し始めた。
「一つ目だが、二人とも本当に俺に一撃入れられると思ったのか?」
姉妹は顔を見合わせた。
「相手の能力も分からないまま戦場に行くなんて馬鹿だけだ。相手の戦力、状況、自分達の戦力、状況を見極めるってのは第一段階だ。それも分からずに俺の挑戦を受けた。それが駄目だってのが一点」
う……、と気まずい顔をする姉妹。
「二つ目、これは本当に重要なことだが。二人とも俺に殺されるなんてことは無いと思ってるだろ?」
そう聞かれて姉妹は首を縦に振る。
次の瞬間、バァンと銃声が響いた。
銃弾は姉妹のすぐ後ろの岩に二つの穴を開けた。
同時に撃ったために銃声が一つに聞こえたようだ。
そして、姉の左腕と妹の右腕に一筋の血が垂れる。
「!?」
二人とも血の暖かさで気がついて見ると、そこが切れたようになっていた。
「今のは俺が撃った」
太陽は両手に銃を持っていた。
そしてそれを、姉妹の額に当てる。
「さて、質問だが。怖いか?」
妹のほうはヒッ、と小さな悲鳴を上げるが。
「ぜ、全然怖くなんかない!!」
と、姉は泣きそうな顔になりながら叫んだ。
(おー、すげぇなぁあのお嬢ちゃん)
白道は観戦しながら、姉の方に驚いていた。
つい前に家族を目の前の銃器、その類で殺されているというのに、あそこまで気丈に振舞える精神。
その精神に驚いたのだ。
(だけど、駄目なんだろうなぁ)
白道が少し残念そうな顔をしたとき、乾いたパンという音が響く。
「……?」
姉妹から拳銃を離して腰に戻した後、姉のほうを思い切りビンタしたのだ。
それに姉は思わず唖然としてしまったのだ。
「この大馬鹿者が!! 死を恐怖しろ!!」
太陽が怒った様に、というよりは叱る様に叫ぶ。
「まったく、白道が最初にあんな言い方をするから、二人とも死ぬ気みたいな感じでかかってきていただろうが」
白道を睨みながら、今度は怒った口調で言った。
「悪ぃ悪ぃ、そんな意図があったなんてさっきまで気づけなかったんだよぉ」
白道は平謝りする。
「二人とも、戦場では、いや、傭兵なんて世界はな、自分の身体が資本なんだよ」
太陽は教え諭すようにゆっくりと話し始める。
「それでな、こういう世界では、仲間を庇って勇敢に死んだ戦士は笑いものにされる。仲間を見捨ててでも敵に背を向けて生き延びる臆病者、そうやって生き残ってきた奴だけが、伝説みたいに話される」
「何が言いたいかって言うなら、死ってのは恐れなければならない。避けようとしなければならないんだよ。いついかなるときも、生き残ることだけを考えろ。敵を倒そうなんてのは二の次だ」
「でも、私達はもうあの時死んだも同然なんです!!」
姉が思わず叫ぶ。
「死んだも同然? 何を言ってるんだ。生きてるじゃないか。その命をもう一度どぶに捨てるようなまねしてみろ、俺が許さん」
その顔は、確実に怒っていた。
「まったく、しょうがねぇ男だなぁ」
白道が、ゆっくりと座っていた岩から降り、太陽に近づく。
「……何のつもりだ?」
そして白道は姉妹と太陽の間に立つ。
「今回のことは俺が悪かったとも思ってるわけよぉ。煽ったりしちまったしなぁ」
「だから、何だよ」
太陽は白道が何をしたいのか分からない。
「嬢ちゃんたち、ここからちょっと離れて、大きな岩影にでも隠れてな」
そう言って姉妹を走らせる。
「お前、テストの内容、別に人は指定して無かったよなぁ。二人がかりでかかってこい、って言っただけ、誰が出るかとは言ってねぇよなぁ」
「あぁ。そうだな」
「だったら、代わりに俺が出ても問題ないだろうよぉ!!」
白道はそう叫びながら、右の拳を太陽に向けて振りかぶった。