~太陽と月影、過去の因縁。~ (2)
十八年前:とある秘密結社のアジト。
「我々は戦争、いやクーデターをしているのは知ってるかな? 白道君」
そこにはソファに深く腰かけ立派なひげをたくわえた男が堂々と座っていた。
室内でありながらサングラスをかけ葉巻を吸っている。
「もちろん。フリーの傭兵にとって情報は命ですからねぇ」
反対側のソファには若い頃の白道が、これまた堂々と座っていた。
白道は上から下まで白いスーツを着ていた。
「でだ。我々は、悪い組織というのも、理解しているかね?」
「無論。私としては、お金さえもらえればどうでもいいですから、気にしないでいいですよぉ」
ニタニタと笑顔を浮かべる。
「もちろん、お金はきっちりと払わせてもらう。ただねぇ、我々の中に入るということはつまり、ある程度の機密も共有するということ。あなたのようなお金で動く人間は、同じように他のところからもお金で雇われやすい。つまり、あなたが裏切るかもしれないということを言っているんだよ」
「そんなことを心配するのなら、裏切られないほどの金を俺に寄越せば良いじゃないですかぁ」
やはり白道は不敵に笑みを浮かべていた。
昔は今ほど治安がよくない地域が多く、内戦や紛争も多発していた。
そういう中で、金で動く傭兵というのは非常に使いやすかった。
それもこの時代では、数よりも質、要は才能を持つ傭兵が相当に重宝されていた。
「ふん。そういうことを言うのであれば」
カチャリと撃鉄を起こす音が聞こえる。
目の前の男が白道に銃を向けていたのだ。
「ここから生きて帰すかどうかは分からなくなるが?」
白道はお、と口を開けて少し驚く。
「随分と俺のことを安く見てくれてるな。白眼視」
その瞬間、目の前の男の動きが止まる。
白道は男に近づいて、銃のシリンダーを思い切り掴む。
「解除」
そういうと、男がようやく動き出す。
「??? ……いつの間に?」
男から見れば、白道が瞬間移動したように見える。
それこそが、俺の才能だからな。
「フ、フフフ。面白い。契約成立だ!!」
どうやらこの男、それなりに見る目があるようだ。
白道は顔が歪むほどに笑みを浮かべた。
そして今、俺は戦場にいる。
機関銃を構え、白いスーツに白いマントをつけて。
「6m先に二人か。白眼視」
そういった瞬間、先に居た二人の動きが止まる。
その間に白道は二人の足元に手榴弾を投げ込んだ。
「ジ・エンドだ。解除」
二人は白道の言葉でまた動きを始め――――――――。
ドォン、と手榴弾の爆発音が辺りに響いた。
現代の戦争というものは、才能者の有無が戦いを決めるといっても過言ではない。
それは才能者のレベルによってもまちまちだが、白道レベルの有名な傭兵ともなると、才能者の居ない戦場であれば、一人で戦況をひっくり返すことですらできるほどだ。
今日もいつも通りの仕事をしていた白道は、妙な男を見つけた。
背丈は普通の男ぐらい。
髪は少し赤みがかった茶色。
だが、そんなことよりも妙な点が。
背には大剣、腰には片方に三丁、両方で六丁の拳銃を構えていた。
「戦場で大剣なんて使えるわけが無いだろうがよぉ。それに、拳銃もなぁ。白眼視」
その瞬間その男の動きも止まる。
「ま、高く売れそうだから貰ってやるよ」
男に向かって手榴弾を投げる。
足元に転がったところで、解除、と呟く。
これで足元で手榴弾が爆発、終了。
のはずだった。
「!?」
その男は動き始めた瞬間に手榴弾に気づき、その手榴弾を蹴り飛ばしたのだ。
「マジでぇ!?」
白道の驚きの声に、男は振り返る。
「今のは、お前か?」
「だったら、何だよ。アンタも才能者かぁ?」
あの反応の速さは尋常ではなかった。
「いや、俺は才能者ではない」
「“才能分析者”赤井太陽だ」
それが俺、白道と太陽の最初の出会いだった。