~競技の一つが終わり、紅は微笑む。~
「じゃあ、俺たちも紅のところに行くか」
「そうじゃん、迎えてやるじゃん」
「おー」
「本当によく頑張ったわね、紅」
「凄かったですね……」
「いやいや、本当に凄かった凄かった」
「最後は見事なゴールでしたからね」
赤井、染山、十島、篠崎、天音、藤崎、相馬は立ち上がる。
「俺は宴でも迎えに行ってやるかな。じゃ」
高原先輩はその瞬間、この場から消えた。
「って、今までここにいた高原さんは“もう一人の自分”のほうだったのかよ……」
画面には特別席、と書かれたところから高原さんが出てきていた。
こちらに来ていた高原さんは分身のほうだったようだ。
ていうか結構多用してない?
と、画面に映る紅の傍に、だれかが立った。
「え、あれって!!」
そこには、驚くべき人物が立っていた。
「ふぅ……」
紅はゴールした後、大の字になって寝転んでいた。
「今年は去年にも増して、疲れた……」
「よく頑張ったよ、鍵音」
紅のファーストネームを呼ぶ男が、隣に立って水をかけた。
「え、な、何でここに!?」
紅はその男に驚いている。
「お兄ちゃん!!」
紅の傍には、桜さんが立っていた。
「おいおいあれって、桜君か!?」
間之スポ外部観戦者席で見ていた太陽が、横を向いて言う。
「マジかよ、おい、いつの間に……」
白道も呆れていた。
「いい戦いだった。流石俺の妹だ」
桜は紅にかがみこんで頭をなでる。
「えへへ……」
紅は褒められて照れ笑いする。
「えーっと、すみません。ここは一般の方は立ち入り禁止となってるんですが……」
そこに、警備員が桜に話しかけた。
というか、話していた場所は思い切りグラウンドだった。
「あぁ、すまなかったな。じゃ、鍵音、表彰式も見てるから」
その瞬間、桜さんが消えた。
「あ、あれ?」
警備員も呆けた声を上げる。
「縮地、か……。やっぱりお兄ちゃんには勝てないな」
よいしょ、と立ち上がって表彰式に向かった。
この障害物マラソンは、間之崎スポーツカーニバル的には点がまったくつかない競技である為、その場で表彰式が行われる。
「という訳で、優勝は紅選手です!!」
一位、と書かれた表彰台の上に紅は上って、優勝記念のメダルを掲げてカメラに笑顔で答えていた。
「優勝の紅選手、今どんな気分ですか!!」
「いやー、いまだ夢気分ですかねー。今日は勝ったって気がしなかったです。最後まで良い勝負でしたし」
紅はえへへ、とまた照れ笑いしていた。
その後。
表彰台と取材攻めから紅はその脚力で逃げ出して、会場に着いた俺達と合流していた。
「びっくりしたぜ、紅。本当に凄い才能だったんだな」
「へこむよ、その言い方」
むー、とむくれる紅。
というかへとへとだからか、なんだかいつもより素直な気がする。
でもよく考えたら、あれだけ走ってあれだけダメージとか多そうなのに、よく普通に喋れるな。
「しかし、お前も俺が手伝った障害をポンポン越えていくからびっくりしたじゃん」
「手伝った障害って?」
染山が妙なことを言った。
「俺はあんまり間之スポで参加できないから、こういう裏方を手伝ってるじゃんよ。第二障害の落とし穴、あっただろ? あれは俺が溶かして作ったんだぜ?」
「あの量をか?」
「あぁ。じゃ、俺今から仕事だから」
「仕事?」
「あの会場をまた他のに作り変えるから、穴を埋めなおさなけりゃいけないじゃん。じゃな」
染山は障害物マラソンの会場へと走っていった。
「紫瀬ー、僕も手伝うよー」
十島が染山について行くように走っていた。
「さて、どうしましょう?」
「私も次の競技まで意外に時間が空いてるから、色々な出店が見たい」
紅が笑顔で言う。
この間之崎カーニヴァルではたこ焼きや射的など、色々な出店が出ている。
「じゃ、そうするか」
そこで出店を回ることにした。