~競技その一、障害物マラソン~ (8)
両者の戦いに変化が起きたのは、約十分後のことだった。
「おぉっと!? これは番狂わせかぁ!!」
実況がよく見えない戦いの最中、そう叫んでいた。
「紅選手が第四障害を突破しましたぁ!!」
『はぁ!!!』
画面で繰り広げられていたよく見えない戦いを見ていた観客全員が言っている意味が分からなかった。
「ほら、画面映して、画面!!」
大慌てで第四障害の終わりのところにつけてあるカメラの映像が戦いの右半分に出る。
そこには、弾丸のような低姿勢で全力疾走している紅の姿があった。
「無駄に飛ばずに無駄に目立たなければ、私はもっともっと速い!!」
紅はある意味至極当然なことを言って、全速力で走る。
その速度は、先程よりも速かった。
「どこまで加速出来るんだ……? 紅は……」
赤井も流石にこれは、唖然とした。
「いつの間に抜かれた!?」
「アイツ、どこ通って!?」
宴と嵐山は顔を見合わせて驚く。
「どう考えたって、この第三種目、玩具箱を地面から正々堂々攻略したんでしょ。こんなところで戦ってる場合じゃないわよ」
瀬々薙は冷静に状況を判断した。
「争ってる場合じゃないな、嵐山後輩」
「まったくですよ、宴先輩」
「赤旗先輩も嵐山先輩も馬鹿なんだから」
第五障害:泥沼
地面が沈みやすくゆるくなっていて、地面を走っていく才能者には相当にきつい関門。
のはずだった。
「無駄」
一切の無駄なく。
ハードル走でハードルを飛ぶように水平に、まさしく弾丸のように紅は跳んだ。
「流石紅選手だぁ!! ほとんどの障害を意にも介さず跳び越えていく紅選手!! 後残るは最後の障害だけとなってしまったー!!」
「あそこまで障害を快刀乱麻に突き抜けていくと、作ってる側がへこみますよ」
解説さんの言ってることは痛いほど分かった。
最終障害:乱雑
「って、あれ!?」
紅がそこに突入した瞬間、右肩上がりにロケットのように45度で空へと跳んでいった。
「最終障害:乱雑」
解説の人の喋り口が重々しくなる。
「ここには10人の重力操作才能者を配置しております」
「そしてこの空間ではいたるところに上下左右の重力が発動しており、この障害はどんな才能者でも無視は出来ないものとなっています」
解説に力がこもってる。
あれ、もしかして?
「いかに障害を突っ切ってきた紅さんでも、この障害ではさぞかし苦戦するでしょー!!」
――――やっぱり、この解説さん、紅が障害に引っかかったことを喜んでるよね?
件の紅は、今度は物凄い速度で下に落下していた。
「まずっ!!」
紅は慌てて両足で着地する。
その衝撃で地面に少しひびが入ったのだが、紅の足は大丈夫なんだろうか。
と、思っていると紅はぐんにゃりと地面に伏せたような姿勢になる。
「おっと、あのゾーンは重力加算ゾーンとなっているようです!!」
いや絶対あの解説さん喜んでるよ!?
あからさまな態度の変貌に、赤井以外の観客も気がつき始めていた。